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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
471/911

471.後処理③

 ドラゴンの噴き出した波動は、一直線に自警団の詰め所を破壊した。

 建物が崩れるほどでもないが、しかし壁一枚は綺麗に消し飛ばされている。


 ちなみにその波動が放たれた瞬間、とんでもなく冷たい風が辺りを吹き荒れた。

 そして破壊された建物の一部からは、ところどころ冷気が上がっているようだった。


 ……このドラゴン、水竜か氷竜……といったところになるのかな?

 全身の色も銀色と青色を混ぜた感じだし、きっとそうに違いない。



「皆の者、ここは危険じゃ!!

 この場は妾たちに任せ、速やかに避難するが良い!!」


「「「し、しかし――」」」


「安心せい! お主らは、未来の街を護る者たちじゃ!

 今はまだ、妾らに任せておけば良いっ!!」


「「「わ、分かりましたっ!!」」」



 最初は逃げるわけにはいかないと剣を構えていた自警団見習いたちだが、グリゼルダの言葉には納得したようだった。


 街を護る者とは言え、彼らはまだ集められたばかりだ。

 そして目の前のドラゴンの強大な力を見てしまえば、力量がある者ならば『撤退』という選択肢は十分に現実的だ。


 しかし未熟な者は、それに従うことはなかなか難しいようで――



「俺は戦います!!」


「わ、私もっ!!」


 ――その意気込みは見事なものなんだけど。

 でも今は、ここから離れて欲しいんだよね……。


 だってあのドラゴン、セミラミスさんなんでしょ?

 セミラミスさんがドラゴンに変身して(?)、せっかく突拍子も無いことを起こしてくれたんだから――

 ……ここは正直、さっさと離れて欲しい。そしてそのまま、ヴィクトリア親衛隊を逃がさせて欲しい。



「……サイレント・スリープ……」



「――ッ!?

 こ、これは……」


「なん……だと……? こ、こんなところで……眠気が……。……眠るわけ……に……は……」


 おもむろに響いたセミラミスさんの魔法が、ここから離れてくれなかった自警団見習いたちをあっさりと眠らせてしまった。


 人間ってこんなにあっさりと眠ってしまうものなんだ?

 何て凄い魔法――……いや、ドラゴンが使うからこそ、これほどの威力なのかな……?



「……さて、暴れるのはこれくらいで良いじゃろ。

 親衛隊とやらはどうしておるかのう?」


 グリゼルダの言葉を受けて、壊された詰め所の建物を見ると、拙者の人の誘導で他の四人が建物から逃げ出しているところだった。

 拙者の人だけは拘束を解いておいたから、タイミングを読んで、上手く逃げ出すように動いてくれたのだろう。


「……ちゃんと逃げてくれましたね。

 さすがに街中にドラゴンが出たのでは、牢屋も無い今の環境では逃げられても仕方が無いですよね」


「はい。……それにしても、詰め所にはやはり牢屋が欲しくなりました」


「これからはもっと人が増えていくだろうし、そういうのもしっかり整備しないとね。

 今回はこんなことがあったし、ポエールさんもきっとすぐに動いてくれるでしょ」


「うむうむ、万事解決じゃな。

 ――よし、セミラミス。そろそろ戻っても良いぞ」


「はいぃ……」


 返事をしながら周囲に煙を撒き散らし、次に気付いたときにはセミラミスさんは元の姿に戻っていた。

 疑っていたわけじゃないけど、やっぱり本当にセミラミスさんだったんだね。


「凄いですね、ドラゴンに変身できるだなんて!」


「逆じゃぞ? セミラミスは元々がドラゴンで、人間の方が化けている姿なんじゃ」


「へぇ!

 ……っていうか、ドラゴンなんですね!」


「は、はいぃ……。僭越ながら、氷竜をさせて頂いております……」


「私、グリゼルダ以外のドラゴンって初めて見ました。

 何だか嬉しいなぁ」


「うむ、これからも仲良くするんじゃぞ」


「え?」


「あの……。グリゼルダ様から、アイナ様の家庭教師を拝命いたしました……。

 今後とも、よろしくお願いいたします……」


「は?」


 ……え? 家庭教師?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、周囲が静けさを取り戻したため、逃げていた自警団見習いや、騒ぎを聞きつけた近くの人たちが大勢やってきた。

 被害としては、詰め所の建物が壊されたことと、逃げなかった自警団見習いが眠らされてしまったこと。

 ……実質のところ、建物の被害だけと言っても問題は無いかな。



「ルーク様! ヴィクトリア親衛隊の五人がいませんっ!!」


「ふむ……。今の騒ぎに乗じて、逃げてしまったか……。

 やはり牢屋が必要だな」


「まったくです! それにしても、先ほどのドラゴンはどうなったのですか?」


「む? ああ、最後は飛んで逃げてしまって――

 ……さすがに飛ばれると、剣も届かないからな」


「そうですね、まともに戦えばルーク様が負けるわけはありませんし……!

 それでは被害の状況調査と、ポエール商会への連絡を行います!」


「うん、頼んだ。

 ――そんなわけでアイナ様。私はまだ仕事がありますので、先にお帰りください」


「何だかごめんね。

 それじゃ、またあとで」


「はい、また」


 言葉を交わしたあと、ルークは自警団見習いの人たちと詰め所に戻っていった。

 仕事を増やしてしまったのは申し訳ないけど、ヴィクトリア親衛隊の相手をする仕事は減るだろうから、プラスマイナス0ということで、良しとさせてもらおう。



「ああぁ……。すいません、やりすぎちゃいましたか……?」


 話の切れ目で、セミラミスさんが申し訳なさそうに言ってきた。


「いえ、この一週間の懸念がようやく無くなりました。

 さじ加減はばっちりでしたよ!」


「ほっ……。それは良かったです……」


「それではアイナよ、そろそろ屋敷に戻るとしよう。

 こんな場所では、落ち着いて話もしておられんでな」


「そうですね。でも、ポエール商会の人もいるようだから、ちょっと話をしていきますね。

 少しだけ待っていてください」


「真面目じゃのー。早く済ませるんじゃぞ!」


「はーい」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 昼過ぎ、私たちはようやくお屋敷に戻ることができた。

 お屋敷には使用人しかおらず、昼食は私とグリゼルダ、セミラミスさんでとることになった。


「……す、すいません。お食事まで世話をして頂いて……」


「いえいえ、大丈夫ですよ。

 グリゼルダの仲間なら、いつでも大歓迎です」


「な、仲間だなんて、そんなっ!!?」


 珍しく大きな声で慌てるセミラミスさん。

 今までで一番大きい声だったかもしれない。


「え? 違うんですか?」


「まぁ、妾とセミラミスでは格が違うからのう。

 妾は光竜王じゃろ? セミラミスは水竜王でもなく、ただの竜じゃからな」


「なるほど。そう言えばグリゼルダって、ドラゴン界のナンバー1みたいな存在ですからね」


「何だか言い方が軽いのう……。

 そんなわけじゃから、セミラミスのことも呼び捨てで良いからな?」


「いやいや。よくは分からないんですけど、私の家庭教師なんですよね?

 先生を呼び捨てにはできませんよ」


「真面目じゃのー」


「それ、さっきも聞きました」


 真面目なことは良いことだ。

 私は昔からそう教えられてきた。


 今となってはそれが100%正しいかどうかは疑問だけど、しかし基本的には真面目が大好きなのだ。

 だから先生を呼び捨てにするだなんて、私には難しいかな。


「あ、あの……。

 グリゼルダ様を呼び捨てにされる方に、私ごときが『先生』などと……おこがましいにもほどがあるので……」


「それじゃ、グリゼルダのことはグリゼルダ様と呼ぶことにします」


「ちょっ、止めんかっ!!」


「だって、セミラミス先生が」


「ええい、分かったわ!

 妾は呼び捨て、セミラミスは『さん』付けじゃ! 良いな、セミラミス!!」


「うぅ、グリゼルダ様がそう仰るのであれば……」



 何とも弱々しい声で返事をするセミラミスさん。

 ……何だか私の中の竜のイメージが、大きく変わってしまいそうだなぁ。

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