表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
470/911

470.後処理②

 ――いかにヴィクトリア親衛隊を逃がすか。


 彼らが私を攫おうとしていたことは、この街ではすでに周知の事実となっていた。

 本来であれば、問答無用で追放や処罰の対象にはなるところなんだけど――



「……でも、一人がアイーシャさんの仲間……だからなぁ……」



 拙者の人と話してから今日でもう6日目。

 ヴィクトリア親衛隊の五人を逃がすことに決めてはいたものの、時間が経つほど逃がしにくくなってしまっていた。


 下手に逃がしてしまえば私の沽券(こけん)に関わるし、立ち上がって間も無い自警団にもケチが付いてしまう。

 まったく、何もしないでいても、ヴィクトリアは私を苦しめてくれものだ。……本人は何も知らないはずだけど。



 自警団の詰め所の近くでそんなことを考えていると、不意に懐かしい声が聞こえてきた。


「――アイナ! ここにおったか!」


「あ、グリゼルダ! お帰りなさい!!

 そういえばそろそろ一週間でしたもんね」


「うむ、なかなか楽しい旅であったわ」


 満足そうに微笑むグリゼルダの後ろには、一人の女性が付き従っていた。


 綺麗な感じだけど、少し引っ込み思案そう――第一印象はそんな感じだった。

 不思議な雰囲気も纏っており、普通の人では無いように感じられる。


「そちらの方は?」


「ふふふ。こやつをアイナに紹介したかったのじゃ。

 ほれ、挨拶」


「は、ひゃいっ……!

 私、セミラミスと申します……。あの、以後、お見知りおきを……」


「私はアイナ・バートランド・クリスティアです。

 セミラミスさん、よろしくお願いしますね」


「はい……! お、お願いします……っ!」


 ……セミラミスさん、もっと自信を持っていたら、格好良くて素敵な感じなんだけどなぁ。

 少しおどおどしているのは可愛いけど、できれば格好良い方向で統一して欲しかったかもしれない。



「それで、グリゼルダはセミラミスさんと、どういう関係なんですか?」


「ふふっ、それはまぁ酒でも飲みながら話すとしよう。

 妾は久し振りに、『竜の秘宝』を飲みたいのう?」


「この前渡したばっかりじゃないですか!?」


「あれはもう、セミラミスと全部飲んでしまったわ♪」


 ……う、うーん?

 本当に一体、どういう関係何だろう?



「ところで先にエミリアと会ってきたんじゃがな。

 アイナが悩んでいるから、できれば助けになって欲しい……と言われてのう」


「あ、そうだったんですか。

 えっと、実は一週間ほど悩んでいまして――」


 ひとまず私は、グリゼルダに今までの話をすることにした。

 ちなみにセミラミスさんはノートを取り出して、一生懸命メモを取り始めていた。


 ……あの、メモをするようなことでも無いんですけど。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――ふむ」


 一通り話を終えると、グリゼルダは一息ついた。

 何かを考えている感じではあるが、しかし具体的な方法がすぐに出て来ることも無いだろう。


「せめて何か、突拍子の無いこととがが起きてくれれば良いんですけど……。

 そうしたらそれに、強引に紐付けちゃうこともできますし」


「そうじゃのう……。

 ところでその親衛隊とやらを逃がすとき、こちらには被害が出ても良いのか?」


「被害、ですか?

 ここの人や人魚さんたちに危害が出なければ、まぁ……」


「それでは、詰め所の建物が少しくらい壊れても大丈夫かの?」


「それくらいなら、はい。

 建築の職人さんは幸い、たくさんいますから」


「よし、決まりじゃ! ほれ、セミラミス。そういうことじゃぞーっ」


「えっ!? えぇ……っ!?」


 グリゼルダの言葉に、セミラミスさんは慌ててしまった。

 突然、何という無茶振りなのだろうか。


「アイナは一足先に、ルークに声を掛けてくるが良い。

 出て来たときには驚くじゃろうな」


「……嫌な予感しかしないんですけど?」


「何の何の、騒ぎは起こしてやるから大丈夫じゃ。

 ただルークに本気を出されると、ちと面倒なのでな。本気を出すなと最初に伝えておいてくれんか?」


「はぁ……?」


「ほれ、行った行った!

 セミラミスは準備じゃぞっ!!」


「は、ひゃい……っ」


 ――何だかよく分からないけど、大丈夫かなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 グリゼルダの話をそのまま伝えると、ルークも困惑してしまった。

 何をやるかは分からない。しかし『突拍子も無いことを起こす』と宣言されてしまっては、困惑するのも無理はないというものだ。


「……何をやるんだろうね?」


「さ、さぁ……?

 しかしグリゼルダ様の紹介の方であれば、間違ったことはしないでしょう」


「どうかなぁ……。

 私から見ると、グリゼルダのキャラ的に――」



 ――ドズウゥウゥン……



「わっ!?」


 突然、外から大きな揺れが響いてきた。

 地震というよりも、何かが近くで落ちたような――そんな感じだ。


「外です! アイナ様はここにいてください!!」


「いやいや? 話の流れ的には、グリゼルダたちじゃないかな?」


「そ、そうですね!

 それでは外に出ましょう!!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――ウゴァォオオォオオッ!!!!」


「へ?」

「……何と!」


 私たちが詰め所の外に戻ると、そこではグリゼルダと、一匹の大きなドラゴンが戦っていた。

 王都で会った光竜王様の身体よりも小さいが、しかし普通に大きいサイズだ。

 高さは3メートルほど……といったところだろうか。


「グリゼルダ、このドラゴンは一体!?」


「おぉ、アイナかー。

 うむ、突然襲ってきおってのー」


 素早く鉄扇を操りながら、グリゼルダは気の抜けた感じで言ってきた。

 な、何か油断してない? そりゃグリゼルダはもともと、竜の上位存在の光竜王様だったわけだけど――


「アイナ様、私も加勢しますっ!!」


「ウゴッ!?」


「……ん?」


 ルークが神剣アゼルラディアを抜いた瞬間、目の前のドラゴンは怯んでしまった。

 剣を抜くだけでこれなら、特に勝つのは難しくなさそうだ。


 周囲を見れば、詰め所から自警団の面々が出てきており、それぞれが武器を構え始めている。

 普通の人がドラゴンに対峙するだなんて危険だけど、ルークの指揮のもとで力を合わせれば――



「アイナよ、さっきの話――」


「ウゴオォオ……ッ」


 周囲の面々を眺めてから、グリゼルダとドラゴンはこちらに目配せをした。

 え? 『さっきの話』……?


 ――あれ? そもそもこのドラゴン、あまり戦う気配がしないかも……?



 そう思った瞬間、ドラゴンは羽ばたき、力強く宙に浮いた。

 翼から生み出される風が、周囲の人間たちを吹き飛ばしていく。


「待て!!」


 ルークは神剣アゼルラディアを構え直し、ドラゴンに飛び掛かろうとしたが――


「ストップ! 多分あれ、違う!」


「え?」



 私の言葉に、ルークの動きが止まった。

 それを確認したあと、ドラゴンは少しだけ宙に浮かぶ高度を上げて――


 ……口から強烈な波動を噴き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ