47.ミラエルツでお店拝見④
昼食も無事終わり、三人連れ立って防具屋に向かう。
防具屋というのは冒険用の装備を扱っている場所て、普通の衣類が欲しい場合は服屋や古着屋、裁縫工房などに行くことになる。
ちなみに裁縫工房というのは、いわゆるオーダーメイドをするところだ。
「よし、それじゃルークの防具を探そうか!」
「あの、アイナ様……。私は本当に今のままで十分なのですが――」
「まぁまぁ、防具屋に入る口実だと思って! 私とエミリアさんは別に買うもの無いし」
私はそれこそクレントスでオーダーメイドで作っているし、エミリアさんは法衣がばっちりサマになってるし。
折角お店に入るというのに、何の目的も無いのはもったいないところだ。
「はぁ……。分かりました……」
ルークは困りながらも同意してくれた。ほぼ引き出した形だけど。
「――おお、これはすごい!」
何件かの防具屋を回っていると、あるお店で超立派なヘビーアーマーを見つけた。
あらゆる部位が金属で覆われ、渋い金色に輝いている。頭の先から足の先まで金色!
「本当に色々な意味ですごいですね。私の場合、これを身に付けたらロクに動けなくなりますが……」
確かに。ルークは攻撃と素早さの両方を活かした感じの戦闘スタイルだしね。
こんなヘビーアーマーを装備したら、素早さが完全に死んで攻撃もままならなくなるだろう。
「……空箱の魔石を付けてみるとか?」
「魔石スロットはひとつですね、これ……。いえ、たくさんあっても実際には難しいですね」
ふむ、そういえば魔石スロットはひとつしか付いていないな。
仮に空箱の魔石(大)を付ければ45%は軽くなるけど……、それだけ軽くなったところでやっぱり重いだろうし。
それに空箱の魔石(大)って金貨90枚以上するらしいし……。
――『金貨』、というところに意識がいって、そういえばと思いながらヘビーアーマーの値段を見る。
金貨50枚!
……うん、そうだよね。それくらいするよね……立派だもんね。
「――まぁ、やっぱり普通くらいの鎧が良いのかな?」
そう思いながら、普通の鎧を見る。
今のルークはいわゆるライトアーマーというやつで、旅をしているから軽装にしているんだよね。
「そうですね、これくらいの鎧なら仕事でずっと身に着けていたので問題はありません。
しかし長旅ということを考えればやはり――」
うーん、それも一理あるなぁ。
でもこう、例えば街に拠点を置きながら行動するときとかはこれくらいあっても良いんじゃないかな。
荷物が増えたところで私のアイテムボックスがあるわけだし――。
そんなことを思いながら見て回っていると、何やらとても素敵な鎧があった。
格好良い感じの、ちょっと立派な感じ! それなりの立場の人を護衛する騎士みたいな感じ……っていうのかな?
「おぉ……、これ、いい! とってもストライク!」
「そ、そうですか? うーん、旅をするには少し立派すぎではないでしょうか……」
確かに! 確かに旅をするには立派すぎるんだけど――
「そういえば……ルークは知ってたっけ? 私、クレントスを出るときにルイサさんから服をもらったの。ルイサさんの作なんだって」
「そうだったんですか? ルイサさんが裁縫を……。あ、そういえば話だけは聞いたことありますね。話だけですが……」
「で、その服と合うんじゃないかなーって思ったんだけど……あ、ちょっと着替えてみようかな」
「え? こ、ここでですか?」
「あそこに試着室があるでしょ? ちょっとお店の人に相談して、着替えてくるー」
お店の商品を試着するわけじゃないからね。
一応使って良いか確認して、鎧を買う気もあることをアピールしながら交渉したらすんなりOKをもらえた。
「じゃ、じゃーん♪」
本邦初公開! ルイサさん作の『はったりをかます服』!
ルイサさんの談によれば『ちょっとした聖人っぽいイメージ』で、上等な布で作られた法衣のような丈の長い服だ。
「うわー! アイナさん、素敵ですっ!」
「おぉ……アイナ様の素晴らしさを凝縮したような……。まさかルイサさんがここまでの腕だとは……」
ふふふ。私は服をもらって着ただけだけど、何か鼻高々である。
「ほら、何か偉い人に会うとか公的なところに行ったりとか――あとは本当にはったりをかますとき? に使おうと思ってるんだ。
それでほら、さすがにこの服を着ると、ルークのその旅の格好は――」
「あ、場違い感ありますね」
「ぐっ!」
エミリアさんの容赦無いひとことにルークが精神的ダメージを負った。
「そこで、この鎧! これだったら丁度良い感じじゃない?」
「むむ、確かにそうですね……。アイナさんとルークさんが並んだら、すごいそれっぽいです!」
「そ、そうですか。……そうですね、アイナ様もそういった場所に赴くことは当然のようにあるでしょうし……。
分かりました。私はこの鎧が欲しいです!」
おお、ルークを説得することが出来た。
「ちなみにお値段は――」
ちらっと値札を見る。
金貨30枚!!
ぐふっ。さすがにヘビーアーマーよりは安いが、それなりのお値段!
これにはルークも唸り声を上げる。
「……それにしても、金貨30枚ですか。うぅん……」
「一か月もここで金策し続ければ貯まる金額ではあるけど――うん、金策も少し考え直してみるかな?」
「そうですね。お二方には申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
おや。いつもだったら『やっぱりいいです』とか言い始めそうなところだったけど――これはエミリアさんに『場違い』って言われたのが理由かな?
「ううん。滞在し始めたばかりだし、こういう目標があった方がハリが出るというものだよ」
「そうです、そうです。ルークさんはお気になさらず!」
「――さてと、私は元の服に着替えて来ようかな」
「え? もう着替えちゃうんですか?」
「だって汚れたら嫌ですし……。それにほら、ここぞというときのとっておきなので」
「なるほど……。次に見られるのはいつのことでしょうね……」
「それじゃ、この鎧を買った後に――ルークと並んでみますか」
「それは良い考えです! ちゃちゃっと買っちゃいましょう!」
ちゃちゃっと金貨30枚は出せません! まずは金策です!
「――というわけで、頑張ってお金を貯めましょうね!」
「はい!」
「はーい」
その後、いそいそと試着室で着替え直し。
着替えた後は店員さんにまた来る旨を伝え、そのまま二人と合流――。
「――さてと、そろそろ防具屋は出ますか?」
「あ、ちょっと私、向こうの方を見て来て良いですか?」
「それなら私も――」
「いえいえ、軽く一周してくるだけですから!」
そう言いながらエミリアさんは奥の方に歩いていった。
何となく目で追い掛けていると――
「あれ? エミリアさん、魔法使いの服のところに行ったよ?」
「……本当ですね。何かアクセサリのようなものでもあったのでしょうか」
「うーん、次はアクセサリ屋に行くのになぁ。気が早いというか? というかそれなら私も行きたかったのに――」
などと言っていると、エミリアさんは早々に戻って来た。
「何か気になるものでもあったんですか?」
「いえいえ、本当にただ一周して来ただけですから!」
「そうですか? それじゃ、次に行きましょう」
「はーい、次はアクセサリ屋ですね! どんなのがあるか楽しみですー」
若干のエミリアさんの挙動不審さを感じながらも、私たちは防具屋を後にした。




