469.後処理①
グレーゴルさんを探しに行ったエミリアさんと合流したあとは、自警団の詰め所へと向かうことにした。
……ちなみにそのグレーゴルさん、島の内部の樹の上にいたらしい。
エミリアさんが通ったときは向こうから声を掛けてくれたそうだけど、来たのが人魚だったら、きっと声を掛けなかっただろう。
前向きに考えれば、グレーゴルさんのサバイバル能力が高いことを知ることができた。
でもせっかくだし、人魚たちとは仲良くして欲しいものだなぁ。
「~~~~~~~~~ッ!!!!」
「……ん?」
騎士団の詰め所まで行くと、建物の中から声にならないような声が聞こえてきた。
明瞭な音では無いが、音の迫力だけは伝わってくるというか……。
「何でしょうね、あれ」
「さぁ……?」
エミリアさんの言葉に、私は微妙な答えを返してしまう。
しかしその答えも、詰め所の中に入ればきっと分かることだろう。
「あ、アイナ様!」
「こんにちは。ルークはいますか?」
「はい! どうぞ、中にお入りください!」
「ありがとうございます」
「ご苦労様でーす」
詰め所の前にいた青年に通され、私たちは建物の中に入って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
建物に入ってしばらく歩いていくと、途中の廊下にルークが立っていた。
奥の部屋の扉を眺めながら、何やら考え事をしているようだ。
「ルーク、来たよー」
「私もいますよー」
「――あ、アイナ様。エミリアさんも、ご足労ありがとうございます」
「いやいや、お礼を言われるのは何だかおかしいけど。
……ところで、変な声? が、しない?」
「はぁ……。まったく、参ったもので……」
「何なんですか? あの声」
「はい。実はですね、ヴィクトリア親衛隊の3人が喚き散らすので、猿ぐつわをしてあの部屋に閉じ込めているのです」
……3人というのはきっと、我の人と、某の人と、吾輩の人の三人だろう。
「小生の人は?」
「はい、あの部屋で一緒に猿ぐつわです」
……うわぁ。小生の人、何だか扱いが適当になってる。
他の三人の扱いが面倒すぎるから、相対的に『ついで』のような立場になってしまっているようだ。
「うーん……。それじゃ、拙者の人は?」
「はい。今は2つ隣の部屋にいます。
他の四人には取り調べと伝えているので、そのせいもあって、ずっと騒がれてしまっているんですよ」
「拙者の人は、暴れなかったの?」
「ええ、驚くくらいに冷静……というか、素ですね」
「素」
……うぅん? これはもう、一体どういう状況なのかな……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルークに案内された部屋に入ると、拙者の人がお菓子を食べていた。
羊羹みたいな何か。……いや、鑑定したら実際に羊羹だった。この世界にあるんだ、羊羹……。
「おお、これはアイナ殿! このたびはお騒がせしたでござる!」
「……は?」
思いがけずフレンドリーな言葉遣いに、私は脱力してしまった。
「まぁまぁ、そんなところに立っておらず!
座って一緒にお茶でも飲むでござるよ!」
そう言うと、拙者の人はアイテムボックスからお茶のセットを取り出した。
何だか特徴的な香りがしてくる。……これ、ドクダミ? 何だか懐かしいなぁ……。
「えっと……。くつろぎ過ぎ……じゃ、ないですか?」
「ですよね……。ずっと、こんな調子なんです……」
私の言葉に、ルークも困った顔で返事をする。
あれー? この人、私の命を狙ってきた人だよね……?
そんな思いが表情に出たのか、拙者の人は真顔になって私たちに向き直った。
「――いや、昨日のことは申し訳なかったでござる。
拙者もタイミングを見て動こうと思っていたのでござるが、その前にアイナ殿にやられてしまったでござるよ」
「……うん? えっと、あなたは敵なんですか? 味方なんですか?」
「拙者はアイナ殿の味方でござる!
――というよりも、アイーシャ殿の味方でござるな」
「へ? アイーシャさんの?」
「いかにも。ヴィクトリア嬢を神輿に据えて、クレントス奪還を目指す連中がいるのでござる。
その情報収集のために、拙者はヴィクトリア親衛隊に潜入していたでござるよ」
「はぁ……。いや、それにしては、馴染み過ぎじゃないですか?」
「一緒に過ごしていて、楽しくなっていたのは正直なところでござるな♪」
「ですよねぇ……。
それで、アイーシャさんの味方だっていう証拠は?」
「む?」
「話は分かりましたけど、それをそのまま信じるほど、私もお人好しでは無いので」
もしかしたら、口先だけの嘘かもしれない。
キャラ的にはそれは無さそうだけど、むしろこんなキャラだからこそ、あり得るのかもしれない。
「一応、手紙は預かっているでござる。
それにしてもアイナ殿は、アイーシャ殿の言う通りの人物でござるなぁ♪」
何やら上機嫌で、拙者の人はアイテムボックスから手紙を出した。
手紙を受け取って中身を見てみると、そこには見覚えるのあるアイーシャさんの文字が書かれている。
……ふむ、まさか本当のことだったとは。
「――アイナ様、本物ですか?」
「うん、そうみたい。
ルークは少し、緊張を解いても大丈夫だよ」
見れば、ルークはずっと剣の柄に手をやっていた。
拙者の人が動いたとき、すぐに対応できるようにしていたのだ。
「信じてくれて、助かったでござる。
それではお茶を準備するでござるな♪」
……うーん、マイペースな人だなぁ……。
ちなみにアイーシャさんの手紙には、大したことは書かれていなかった。
簡単な挨拶と、拙者の人がアイーシャさんの味方であること……だけ、かな。
「えっと……。それじゃ、何だかもう気が抜けちゃったけど……。
とりあえずお話をよろしく」
「ざっくりした振りでござるな!?
……しかし気持ちは分かるでござるよ。さて、それでは何から話すべきか……」
そのあと、拙者の人はヴィクトリア親衛隊のことを語り始めた。
一番驚いた――……っていうことも無いかな?
実はヴィクトリア親衛隊は、ヴィクトリアの非公認だということだ。
……というかそもそも、ヴィクトリアは親衛隊の存在を恐らく知らない。
ヴィクトリアのことを影から全力で支える――というのが、ヴィクトリア親衛隊の心意気だそうだ。
幼い頃のヴィクトリアに憧れ、同志が集う形で出来上がったのが、そもそもの始まり。
そこに新参者という形で、拙者の人は最近加わっていったという話だ。
「――つまり、ただのファンクラブってこと?」
「極論、そういうことでござるな!」
私の適当なまとめに対して、大きく笑う拙者の人。
「えぇー……。
そんな程度の集まりなのに、私の命を狙ってきたんですか? すっごく性質が悪い……」
「まったくでござるなぁ。
アイーシャ殿はヴィクトリアを陥れることを視野に入れて野放しにしていたのでござるが……。
まさか拙者も、ここまで直接的に動くとは思わなかったでござるよ」
「行動原理が盲目というか……?
それにしても、ヴィクトリアを陥れるって何ですか?」
「ヴィクトリア親衛隊に悪事をさせて、ヴィクトリアと関係があるように喧伝するのでござる。
アルデンヌ伯爵に同情的な者も、まだ一定数はいるでござるからな」
「んんー……。
つまり、悪事を働くまで泳がせていたってこと?」
「そうでござる、そうでござる。
一線を越えそうになったら、拙者の出番のはずだったのでござるが……」
「なるほど……。
それで、えっと……私たちはこれからどうすれば良いんでしょう?」
アイーシャさんが絡んでいるのであれば、私はある程度身を引いた方が良いだろう。
殺されかけたとは言え、今回は自力で何とかなったわけだし。
「今回、アイナ殿を殺そうとした既成事実はできたでござる。
なので一旦、拙者たちを逃がして欲しいのでござるよ」
「ふむ……。でも逃がしたとなると、うちの警備網が弱いって話になるからなぁ……」
自警団はようやく立ち上がったばかりなのに、最初からそんな評価が下されては困る。
逃がすなら逃がすで、こちらの非がないようにしたいところだけど――




