表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
467/911

467.雨の日、来客④

 日が変わろうという時間に、ルークはようやく帰ってきた。

 ずっと食堂で待っているのも暇だったから、ちょうどそのときは玄関をうろうろしていたんだけど――


「……アイナ様?

 こんな時間に、どうされたのですか?」


「あ、お帰り!

 面倒事を押し付けちゃったかなって、お詫びにお茶を用意して待ってたの」


「お詫びだなんて、そんな。アイナ様は被害者ですし、私は捕らえるのが仕事ですので」


「まぁまぁ、そう言っちゃえばそうなんだけどさ。

 ちょっと良いこともあったから、少し付き合ってくれないかな?」


「分かりました。

 では一旦、部屋に戻ってから――」


「うん、食堂まで来てね!」


「――かしこまりました」


 ルークは軽く頭を下げると、そのまま階段を上って部屋へと戻っていった。


 ちなみにこの新しいお屋敷、部屋数が一気に増えて、何と40室もあったりする。

 以前は20部屋程度だったから、一気に2倍!


 しかも今回は3階建て。

 使っていない部屋は多いものの、今後仲間が増えていっても、ある程度までは泊まってもらうことができる。

 それに合わせて、使用人の部屋や厨房も多く、大きく取っているのだ。


 ……改めて考えると、メイドさんの人数は足りているのかな。

 世話をしてもらっている人数は変わっていないものの、部屋数が激増しちゃったからね……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「お待たせしました」


「いえいえ、全然ー。

 それじゃ、お茶を入れるね」


「ありがとうございます」


 食堂にルークが来たので、お茶の準備をしていく。

 静まり返った空気の中、カチャカチャと擦れるカップの音が心地良い。


「――はい、どうぞ。お茶請けには『きんつば』をどうぞ」


「おお、こんなに良いものを……。

 疲れたときには、やっぱり甘いものですね」


「だよねー。

 それにしても今日は遅かったけど、どうしたの?」


「いえ、どうもこうも……。

 その、ヴィクトリア親衛隊と名乗る方々ですが……目覚めるなり暴れだして……」


「……わぁ。縄は解いてあげてたんだねぇ……」


「はい。まさかあそこまで暴れるとは思ってもいませんでしたので……。

 それに、暴言も酷かったんですよ」


「往生際が悪い……」


「私としては耐え難い内容が含まれておりましたので、ここはもう厳しくいこうと決めたんです」


「え? ……うん?」


「どうやらあちらも剣を使うようでしたので、せっかくなので、みんなの相手をしてもらいました」


「……へ? 相手?」


「ええ、せっかくなので、剣の相手を」


「は、はぁ……?」


「剣を渡してみたら、本気で撃ち込んできたんです。

 こちらとしては、実践さながらの経験が出来たと思いますよ」


 ……話をまとめると、ヴィクトリア親衛隊の5人のうち、3人は気絶するまで足掻いていた……と。

 ルークはこんな時間まで自警団の訓練に利用していたみたいだけど……これ、絶対私情が入ってるよね……。


 何だかんだで、ルークにも怖い一面はあるのだ。

 ……大体は、私絡みなんだけど。



「えっと……。3人っていうのは、我の人と、某の人と、吾輩の人?」


「はい、ご明察です。

 小生の方は、早々に気分を悪くしてダウンしていました」


「ああ……。あの人、最初から顔色が悪かったもんね。

 それで、拙者の人は?」


「さりげなく、小生の方の看護をしていました。

 看護しながら、口だけはいろいろ言っていましたけど……どうも本心では無いようでしたね」


「なるほど。

 機会があれば、拙者の人とは話してみたいなぁ」


「ご希望でしたら調整しますよ。

 他の四人に会うのは反対ですが、拙者の方なら問題無いとは思いますので。

 ……少し、不安なところはありますが」


「あはは。みんな特徴的な人だったからね。

 それじゃ、明日にでも調整してもらおうかな」


「はい、かしこまりました。

 状況によっては止めて頂くかもしれませんが、そこはご了承ください」


「うん、その判断は任せるよ。

 別に私も、どうしてもってわけでもないから。

 ――さて、それじゃそろそろ、別の話をしよっか」


「1時間くらいしか取れませんが、よろしいですか?」


 ……そっか、夜ももう遅いもんね。

 ルークも朝は早いし、1時間も取ってくれるだけでありがたいというものだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 翌日、空は晴れ渡っていた。

 地面は少し湿気(しっけ)てはいるけど、午後にもなれば全部乾いてしまうだろう。


「えーっと、今日は暇な人、います?」


 朝食のとき、集まっていた人に聞いてみる。


「私、大丈夫ですよ!」


 勢いよく手を挙げたのはエミリアさん。

 孤児院の方は良いのかな? ……まぁ、その辺りは完全にエミリアさんに任せているから、ここは信じておくことにしよう。


「午前中に人魚の島に行きたいんですけど、一緒にどうですか?」


「あ、良いですね!

 グレーゴルさんの様子も見に行かないと!」


「うん? エミリアちゃん、獣星がどうかしたのかい?」


「うふふ♪ 女性の色香に惑わされていないかなって♪」


「???」


 エミリアさんの答えに、ジェラードはいまいち要領を得ていなかった。

 昨日の話を聞いていなかったからね。それも仕方無いか。


 ちなみにリリーはいつものお仕事、ジェラードはその付き添い。


 ……でも、ずっとリリーに『お仕事』をお願いしているのもキリが無いからなぁ。

 何か代わりの方法は無いかな。錬金術で何かを作るとか……。



「――それじゃ、今日はエミリアさんと二人でお出掛けしてきますね」


「はい! アイナさんの護衛はお任せくださいっ!!」


 ……何だかんだで、エミリアさんも強いからね。

 いざとなればエミリアさんには防御を固めてもらって、攻撃は私がすれば良いわけだし。

 護ってもらうというよりも、パーティプレイ……みたいな感じなのかもしれない。


「それではアイナ様、お戻りの際は自警団の詰め所までお越しください。

 午後であれば、何時でも構いませんので」


「うん、ありがとう。

 無理しないで良いからね。あの人たち、行動が予測できないところもあるし」


「ははは、確かに」


「私もちょっと、その人たちのことが気になりますね……。

 アイナさん、私も一緒に会ってみても良いですか?」


「えぇー……。

 別に良いですけど、精神ダメージを受けても知りませんよ?」


「そ、そんなに凄い人たちなんですか……?」


「まぁそもそも、私を殺すだか、(さら)うだかをしようとしていた人たちですから……」


「そうでしたね。

 アイナさんにそんなことをするだなんて、いっそもう――」


「殺しちゃう、とか言わないでくださいよ!?」


「――えぇ!? さ、さすがにそこまでは言いませんよ!

 そんなこと、誰か言ったんですか?」



 ……はい。

 そんなことを言った人が、この部屋にはいるんです。


 怖いですね。ああ、怖い。



「――あ、でも。

 アイナさんは殺されかけたんですよね? それなら――」



 いやいや。エミリアさんにも何だか危険思想が出てきちゃったぞ?

 ……でもやっぱり私たちは、根元のところでは、そうなんだろうなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ