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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
464/911

464.雨の日、来客①

 ――雨の降る日は少ないながら、降らないというわけでも無い。

 以前と比べれば降ってはいるものの、それでも元の世界と同じくらい……といった程度だろうか。



 シトシト、シトシト……



 霧雨よりも強いが、普通の雨よりは弱い。

 いざとなれば傘も差さずに何とかなる――くらいかな?

 ……でも、何とかしたくなんて無いけどね。濡れちゃうし。



「ふぅ……」


 とりあえずひとり、呼吸を整えて工房の中を眺めてみる。

 王都で構えた工房を参考に、新しい工房でも錬金術の設備は取り揃えていた。


 ……別に使わないんだけどね。

 でも弟子が出来たりして、急に必要になっても困っちゃうし。


 弟子といえば、私の弟子のレティシアさんは元気だろうか。

 風の噂ではめちゃくちゃ勉強しているそうなんだけど、その割に私のところには全然来ない。


 きっと見違えた自分を見て欲しい……みたいな感じなのかな?

 それならばその心意気を大切にしてあげよう。私としては、その姿を見せに来る日をただ待つだけだ。



「――さて。確認、確認っと……」


 私はポエールさんから受け取った、輸出用に作るアイテムリストを上から眺めた。

 ポーションや爆弾のようなものは記載されておらず、魔法の素材や貴重な鉱物などが多かった。


 例えばグランベル公爵に作ってあげた『増幅石』よりも格はずっと落ちるけど、それでも市場では見ない鉱物……とかね。

 私が知らなかったものや、興味が向かなかったものもたくさんあって、見ているだけでも楽しかったりして。



「『竜の秘宝』も、何本かは作って良いってグリゼルダに確認したし――

 ……ああ。その代わり、新しいレシピでお酒を作らないといけないんだっけ……」


 もちろんそれは、グリゼルダへの納品用である。

 しかし私としても、いろいろなお酒を作れるようになるのは嬉しいことだった。


 何だかんだで、お酒は男衆に受けが良いからね。

 女性で言うところの美容品――それくらいには需要があるものなのだ。



 ――チリン、チリン♪



 不意に、お店の呼び鈴の音が聞こえてきた。


 今、私のお客さんはポエール商会に仲介してもらった人たちだけ。

 お届け物の予定も、今日は……無かったはず。


 だから扉には、全部鍵を掛けていたんだけど――


 ……うーん? 誰か知り合いでも訪ねて来たのかな?

 たまに誰かが来ることはあるけど、それにしても雨の日っていうのは初めてかもしれない。


 私は工房の椅子から立ち上がって、少し疑問に思いながらもお店の方へと歩いて行った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「はーい、どなたですか?」


 お店の扉まで行くと、外には人の気配がした。

 雨避けは無いから、今はまだ傘を差しているようだ。


「……あの、こちら……高名な錬金術師様の工房と聞いてやって参りました……」


 ――男性の声。

 しかし聞き覚えは無い声だ。


 扉越しにざっと鑑定してみると、どうやら5人いる様子。

 全員が剣術に心得があるようだった。


「依頼があるようでしたら、ポエール商会にお問い合わせください」


 ……はい、対応完了。

 怪我人や病人がいるようだったら手は貸すけど、表にいる人は全員が無傷だ。

 仮に、ここにいない誰かが派遣しているのであれば、そこまで急を要するということでも無いだろう。


 しかし――


「すいません……。急用でして……。

 あの、報酬も用意していますので……」


「直接依頼は受けていないんです。ごめんなさいっ」


「報酬で……金貨100枚用意したのですが……」



 ――金貨100枚!!


 ……いや、それくらいなら普通に持ってるし?

 面倒事の対価としてなら、今となっては『まぁ別に……』っていう金額かな。


 ……まずいまずい、最近は金銭感覚がおかしいぞ。

 でも実際、金貨100枚なんて稼ごうと思えばすぐ稼げちゃうからね。


 とりあえずそんなことは言えないから、ここはもう無視を決め込んでしまおう。

 時間が経てば、そのうち帰るでしょ。



 ――しかしそれが甘かった。

 10分後、私は後悔することになるのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――バアアアァアアアンッ!!!!


「え? えぇえっ!!?」


 突然の音に、私は驚いてしまった。

 ……扉、蹴破られた……。え? マジで……?



「我らを無視するとは言語道断!

 錬金術師風情が、立場をわきまえよ!」


「そうだそうだ! 某たちを蔑ろにするだなんて、万死に値するわっ!!」


「拙者はもう、風邪を引きそうでござるよ……。薬が欲しいでござる!!」


「吾輩、頭にきたのである! 謝罪を要求するのである!!」


「小生、あまり身体が強くない故に……。嗚呼、この昏迷感が悩ましい……」



「――……は?」


 思いがけない不思議な言葉遣いに、私は呆気に取られてしまった。

 見た目は騎士の5人組――のような、身なりはしっかりした感じの人たちだ。

 でもしかし、この言葉遣いは何というか、聞き古したような、斬新なような……。


「お茶! 熱いお茶でも出すのである!!」


「人のお店に押し掛けておいて、すっごくうるさいですよ!!」


 そんなに熱いものが欲しいなら、熱いものをあげようじゃないの!

 てぇーいっ!!


 バチッ


 バシャッ!!


「うぉっ!? あ、熱ッ!!!?」


「お望み通り、熱いお茶ですよ!!」


 ……新しい茶葉がもったいないから、出がらしの茶葉で――吾輩の人の頭上に、熱いお茶を作ってあげた。

 お茶は重力に従って、吾輩の人にダイレクトアタック……!!


「あっつーいっ!!

 タオル! タオルーっ!!」


「こっちに来ないで……。小生、濡れてしまう……」


 そう言いながら、小生の人がハンカチを出して渡していた。

 この人は何だか顔色が悪いけど、そこはまぁ私の知ったことでは無い。



「……それで、あなた方は一体何ですか? お店の扉を壊しちゃって――

 弁償してくださいよ!?」


「ふっ……。我らを前に、こんなにも落ち着き払っているとは――

 ……錬金術師といえど、さすがあの方が気に掛けているだけはある……」


「あの方……?」


 その言葉、何だか聞いたことがある……。

 そうだ、シルヴェスターが言っていた、謎の人物――


「ふふっ。やっと食い付いてきたな?

 ならば某たちの正体も、そろそろ気付く頃であろう」


「えっと……、まったく……?」


 いや、だってシルヴェスターはその辺りのことは全部伏せていたし?

 気付くも何も、知らないのであれば気付きようもないわけで――


「それよりも拙者、お茶が欲しいでござる。

 頭の上にではなく、湯のみに入れて欲しいでござるよ!」


 ……何だか一人、おかしなのがいる。

 いや、全員おかしいんだけど。



「え、えぇっと……。

 あの、あなたたち、本当に何ですか? 敵? 味方?」


「そういう括りなら……小生たちは、敵……。

 嗚呼、運命の溝で分かたれた、不遇の関係……」


「――……はぁ。最後に確認ですけど、人違いではありませんよね?

 私は神器の魔女、アイナ・バートランド・クリスティア。

 ……敵だとしても、せめて名乗ってもらえません?」


「ふむ……どうする?」

「まぁ、殺してしまうわけだし……」

「正々堂々と名乗るでござるよ」

「冷えてきたのであーる!」

「一方的な攻撃は……美しくない……」


 私の言葉に、その五人組は輪になって話し合っていた。

 ……私、待ってなきゃダメなの? これ。


 しばらくすると結論が出たようで、我の人が大きな声で話してきた。


「待たせたな、錬金術師よ!」


「はい、では名乗りをお願いします」


「うむ。我らは――」

「某たちは――」

「拙者たちは――」

「吾輩たちは――」

「小生たちは――」


「はい」



「「「「「5人揃って! ヴィクトリア親衛隊ッ!!!!」」」」」



 ……はい?

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