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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第9章 海洋都市マーメイドサイド
462/911

462.新しい日々③

 グリゼルダと別れたあとは、エミリアさんと一緒に街の方へと戻った。

 改めて眺めてみると、住んでいる人数はまだまだ『村』のレベルだけど、最初から大きな街を目指しているだけあって、雰囲気は『街』そのものだ。


 ここ数か月で、住環境はどんどん良くなっている。

 例えば上下水道はしっかりしていて、衛生的にも素晴らしいものになっているのだ。


 衛生面で手を抜いてしまうと、病気や疫病が蔓延してしまうから――

 ……こと疫病については、私の旅の中ではちょこちょこ出てくるから、どうしても意識がいっちゃうんだよね。

 それに何より、綺麗にしておけば気持ちが良いし。



 私の街には、最近の開発具合と今後の将来性を見越して、多くの人が訪れるようになっていた。

 そしてまだまだ足りないお店なんていうのは、いくらでもある。

 できるだけ最初の方に食い込めば、その分だけ商機があるというものだ。商人としてはやはり見逃せないところだろう。


 その点、ポエール商会は街の立ち上げのときからの付き合いだから――金額は伏せておくけど、結構な収入が出てきているらしい。

 私もその分け前を割合で頂いているから、お店なんてやらなくても金銭的に困ることは無いんだよね。


 ……とはいえ、錬金術は私のライフワークだ。

 今となっては、お店をやらないなんていう選択肢はあり得ないかな。



「――あ、ちょっと寄り道していきません?」


「大丈夫ですよー。また、あそこですか?」


「えへへ♪」


 エミリアさんがお茶目に笑いながら行きたがった先は――


 『ルーシーカフェ』


 ……ケーキのお店である。

 しかしここは、ただのケーキ屋では無い。

 名前から察せられる通り、なんとうちのメイドさん、ルーシーさんが監修しているお店なのだ。


「……今日はルーシーさん、お屋敷で仕事をしていましたからね。

 お店の方にはいないはずですよ」


「残念! お店の制服も可愛いから、見たかったのにっ!!」


 ルーシーさんはお屋敷でメイドの仕事をする(かたわ)ら、お休みを利用して週に一度はこのお店で接客をしている。

 ちなみに何でケーキ屋を開いているのかといえば、以前この街で甘いもののお店を出してみたい――と言っていた件の流れだ。


 シルヴェスターとの戦いを終えて、この街に引っ越してきたあと、約束通り甘いもののお店を出してみたら大評判。

 普通の食べ物や飲み物の露店は数あれど、ケーキ屋はルーシーさんのお店だけ――

 ……しかもやたらとクオリティが高いとなれば、人気が出るのは必至だった。


 疲れた身体には甘いもの、って言うこともあるしね。

 それにそもそも、お祝いごとにはこの世界でもケーキは鉄板なのだ。


 ついでに、ミュリエルさんも暇を見ては接客を手伝ってくれているそうだ。


 ……何はともあれ、メイドさんがメイド以外の仕事を持つというのも良いかもしれない。

 一生私のメイドさんでいてもらうわけにはいかないからね。


 人を使う側にまわれば、将来の見通しも明るくなりそうだし――

 ……って、やっぱり大変そうではあるんだけど。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 エミリアさんは自分の分、私は手土産の分を買ってから、次に向かった先は宿屋だった。

 宿屋はまず簡易的な建物が大量に作られ、ある程度完成した今では、立派な宿屋を作ろうという流れになっていた。


 そもそもまずは泊まることができなければ仕方が無いし、ある程度までいけば、次は泊まり心地が良くなければ仕方が無い。


 この辺りはルイサさんを中心に、部屋数を増やすべくガンガン押し進めてもらっている。

 ……そうそう、『螺旋の迷宮』がなくなって海流の件がどうにかなったから、約束通りルイサさんには宿屋の統括の仕事をお願いしているのだ。


 まさに水を得た魚のような感じで、ルイサさんは頑張ってくれている。

 全体的に従業員の接客レベルも高く、女将としての手腕が十分に発揮されていると言えるだろう。


「ルイサさーん!」


「あら、アイナさん! エミリアさんもいらっしゃい!」


「こんにちはー」


 一番立派な宿屋に入ると、受付でルイサさんが迎えてくれた。


「今日は少し暇だったので、遊びにきました。

 調子はどうですか?」


「順調だよ! 順調すぎて、怖いくらい!」


「おぉー! 人も増えてきましたし、何か問題があったら教えてくださいね。

 そうそう、これ、お土産です。従業員のみなさんでどうぞ」


 そう言いながら、私はルイサさんにケーキを渡した。


「あら、ありがとう! ルーシーさんのお店のケーキね。

 私もたまに食べるんだけど、やっぱり美味しいわよね~」


「はい! お客さんもたくさん入っているみたいですし、良い滑り出しですよね」


「ところで今、上客のための食事のコースを考えているの。この街でデザートを買うとなると、やっぱりルーシーさんのお店なのよね。

 アイナさん、取引の仲介をしてくれないかしら」


「え? 別に構いませんけど、ルイサさんが直接やれば良いのでは……?」


「そうなんだけどね? できるだけお安くしてもらいたいのよ」


「お安く」


 ……そりゃそうか。ルイサさんも商売なのだから、仕入れ値は安い方が良いだろう。


「あとは特別感を出すために、お店で出しているのとは少し違ったものが良いの。

 ……そう考えていくと、やっぱり誰か人を挟んだ方が良いでしょう?」


「まぁ、確かに仲介がいた方が良いかもですが……」


「もちろん、無理やり安くしろだなんて言わないから。

 アイナさんの人脈を活かして、材料費も何とかして……ね? ほら、何とかなりそうでしょ?」


「いえ、全然」


「若い子がそんなこと言わないの! それじゃ頼んだわよ!」


「えぇー……。やってみますけどぉ……」



 ……何だかんだで押し切られてしまった。

 今はそこまで忙しくは無いから、良いっちゃ良いんだけど……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「宿屋も順調でしたね!」


「私は仕事が増えましたけどね……」


 宿屋を出てから、少しだけ頭を抱える。

 ルーシーさんにお願いするのは良いんだけど、ルーシーさんも商売だからなぁ……。

 材料の方は、とりあえず話をしてから考えることにしよう。最悪、私がバチッと作れば良いわけだし。

 ……でも、一生作り続けるのは嫌だなぁ。



「――さて、アイナさん。次はどこに行きますか?」


「そうですねー。

 ……ああ、そうそう。ポエール商会に行かなければいけないんでした。

 別に明日でも良いんですけど、ここまで来たら行っちゃっても良いですか?」


「はい、もちろんです!

 今日は何のご用なんですか?」


「……書類の確認」


「お仕事じゃないですか!!」


「こう見えて、錬金術以外の仕事もしているんですよ?」


 ……まぁ、大体は確認してサインをするだけだけど。


 他には土木や建築現場でのお手伝いはしているから、『仕事』と言えば、そっちの方がずっと仕事っぽいかもしれない。

 私はそもそも、元の世界では一番下の作業者だったからね。

 サインを書くだけの仕事は、いまいち性に合わないのだ。



 そしてそのままポエール商会の拠点に行くと、そこはいつも通り忙しそうだった。

 この数か月でこの拠点にも改築が入り、徐々にしっかりとした建物になりつつある。

 街の中心地からは少し離れたところにあるけど、逆に言えば、中継地点としてこれからも十分に機能していくことだろう。



「――おっと、アイナさん!」


 拠点の中でまず声を掛けてきたのはアドルフさんだった。

 ……アドルフさんだった。


「アドルフさんだった」


「お、おう?」


「おっと、失礼」


 ……ついつい、頭で思ったことが声にも出てしまった。

 大切なので2回言ったつもりが、ついつい3回。


「うーん? ところでアイナさん、ここに何か用なのか?」


「はい、ちょっとお仕事に。

 そういうアドルフさんは何をしているんですか? そろそろ鍛冶屋、本腰入れましょう?」


「いやー、組合の仕事の方が忙しくて――」


「鍛冶屋ー!」


「今、ちょっとした企画が進んでいて……」


「鍛冶屋ーっ!!」


「うっく……。

 わ、分かったよ! それじゃ今の仕事が終わったら! それまでは続けさせてくれ! な?」


 ……アドルフさん、どれだけ組合の仕事が好きなんだ……。

 もしかして、人選が違う意味で間違えていたかもしれない……?


「しっかり弟子も受け入れてくださいね。

 近々、大量発注しますので」


「え、えぇ!? 大量発注って、何を!?」


「以前お伝えした『ちょっとした秘策』を、そろそろやろうと思うんですよ。

 鍛冶屋の建築費用、便宜を図りましたからね? ちゃんと協力してくださいよ♪」


「それを言われると弱いなぁ……。

 もちろん全力を尽くすまでだ。……けど、あと5日! あと5日はこっちの仕事をっ!!」



 ……数か月が経っても、アドルフさんはやはり相変わらずである。

 でも5日で切り替えてくれるなら、それはそれで問題は無いか。


 ひとまず言質は取ったことだし、次はポエールさんに会いに行くとしようかな。

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