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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第3章 鉱山都市ミラエルツ
46/911

46.ミラエルツでお店拝見③

「――うん? なんだか向こうの方が賑やかだね?」


 昼食を取るためにお店を探していると、何やら良い匂いが漂ってきた。


「ああ、向こうには屋台がたくさんあるんです。色々なところがあって面白いですよ」


「ルークは行ったことあるの?」


「はい。仕事で来たときは屋台でぱぱっと済ませてしまいましたね」


「ふーん? ちょっと気になるなー」


「私も行ってみたいです!」


 エミリアさんは勢い余って、何故か右手を挙手している。


「それじゃ、そっちに行ってみますか」


「はい」

「はい!」




 通りの角を曲がると、少し先の広場で屋台がひしめき合っているのが見えた。

 昼食の時間帯ということもあり、たくさんの人でごった返している。


 それにしても――


「何だか、圧倒的な男性率……?」


 思わず声をつぶやく私に、ルークが慌ててフォローしてくる。


「はっ……。そ、そうでした。ここは鉱山で作業している人がたくさん来る場所でした……」


 つまり、うん。女性陣はちょっと、場違いなのかな?


「でも……とっても美味しそうですよね……」


 エミリアさんが匂いをかぎながら、キラキラした目で言っている。


「え、えーっと……。別に私たちが行っても……問題無い……のかな?」


「そうですね……。ちょっとガサツな連中がいるので、何かおかしなことを言われるかもしれませんが……」


「私なら大丈夫です!」


 エミリアさんは力強く言う。

 う、うーん。私はちょっと怖いけど――


「まぁエミリアさんも行きたいって言ってるし……行ってみようか?」


「わーい!」


「アイナ様……、無理していませんか……?」


 ルークの言葉には何とも返事がしにくかったので、手を左右に振りながら笑って流すことにした。




 広場に入っていくと、たくさんの男たちの大声が席捲していた。

 うーん、賑やか! ……というか――いや、賑やかということに留めておこう。


「とりあえずどこに行くかはエミリアさんとルークで決めちゃって良いよ。

 今回は私は付いていくだけで――」


「えー? そうなんですかー?」


「ああ……確かにどの屋台でも、そんなに重さは変わりませんからね……。

 基本がっつりで、後は比較的に食べやすいものがいくつかあるくらいですし……。あの、アイナ様。本当に――」


「ここで食べてくから大丈夫だよぉ♪」


 大丈夫っていったらもう大丈夫なのだ。何回も聞くことじゃないぞー!


「わ、分かりました。すいません……。それではエミリアさん、どこに行きましょうか」


「私、あそこのお店が気になるんです! あそこお願いします!」


 エミリアさんの行動力が何やら輝いている。こういう場所でも積極的に動けるなんて羨ましいなぁ。


「それじゃ、そこに行ってみましょうか。エミリアさんの好きなものでも置いてあるのかな?」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「ここです、ここ!」


 エミリアさんに付いていくと、周囲の露店よりも一際の人だかりを集めている露店があった。


「……何かここ、やたら混んでいますね?」


「――あ? も、もしかして……エミリアさん、ここって――」


 ルークが何かに気付き、エミリアさんに声を掛ける。


「ルークさんは知ってますか? ほらほら、あれ!」


 はしゃぎながら言うエミリアさんの指差した先には張り紙があって、こう書かれていた。



 『相手に勝ったら全額無料! 相手に負けたら全額負担!』



 ――……え? 全額無料? 全額負担?


「えーっと……何ですか? これ……」


「アイナさんは知りませんか? たまに露店でこういうのをやってるところがあるんです。

 挑戦したい相手を見つけて、お店了解のもとで食べる量の勝負をして――それで勝ったら全額無料、というわけです!」


「――あそこのふたりが丁度やっているみたいですね。

 実際のところ通常よりも多く食べる羽目になるので店側としても利益になりますし、これ自体がひとつの見世物になりますしね。

 その反面、要らぬトラブルを起こすこともあるのですが」


「なるほどなるほど。それで……エミリアさんは、あれに参加したいと?」


「えー、私ごときが参加できるわけないじゃないですか。あんなのに挑戦するなんて、とってもたくさん食べなきゃいけないんでしょう?」


 エミリアさんも、とってもたくさん食べてる気はするけど……。


「ちなみにエミリアさんって、参加したことはあるんですか?」


「もちろん無いですよ! あの……この前もお話しましたが、あまり食べないように言われていましたので……」


 ああ、そうだったよね。

 ――そんな話をしていると、行われていた戦いがようやく終了を迎えたようだった。



「――くそっ、も、もうダメだ……! 俺の負け……ッ」


「へへっ! やったぜ、ご馳走さーん♪ げふっ」


「はいよ、お疲れさん。それじゃ負けたアンタ、お会計ね」


「――!? ま、まじか……。今月の小遣いが……」



 勝者は喜びに沸き、敗者は無念に悲しんでいる。

 勝負のテーブルに積み上げられた皿の枚数を数えると……一体いくらくらいになるんだろう?

 負けたらあれを全額負担なんでしょ? いやぁ、よく参加しようと思うなぁ。


 ……って思ったんだけど、それって私が小食だからかな? もしかして、大食いな人だったら参加したいと思うのかな――?

 そんなことを思っていると――


「えぇ……。あれくらいで終わっちゃうんですか……?」


 ――なんていうエミリアさんのつぶやきが聞こえてきた。


「あの……エミリアさん。もしかして……挑戦したいんですか……?」


「えっ!? そ、そんなわけ無いじゃないですか! や、やだなぁ、アイナさんってば!」


 参加したいんですね、分かります。


「それよりも、昼食ですよね! あ! あそこのお店なんていかがですか?

 お肉もありますし、麺類もありますし。そこまで重そうではないですよ!」


 エミリアさんは急に話を変えてきた。

 その切り替えの速さに一瞬思考が止まってしまう。


「え、えーっと?」


「ほらほら、ルークさんも! あそこで大丈夫ですか?」


「私は大丈夫ですが――」


 ルークはちらりとこちらを窺った。

 ジェスチャーで問題無いことを伝える。


「それではあそこにしましょう。まだ混み合ってますから、歩くときには注意してくださいね」


「「はーい」」




 何か誤魔化された節もあるが、今日の昼食はそこで頂くことにした。

 エミリアさんは満足気味だったけど、私にはやっぱり少し重かったかなぁ。

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