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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
456/911

456.背神の英雄⑨

 ――激しい戦いも終わり、時間が経つに連れて徐々に人が集まってきた。


 大きな竜巻がいくつも生まれ、戦いが起きた場所はめちゃくちゃになっている。

 ただ、浜辺で戦闘になったというのだけは不幸中の幸いだった。

 これがもう少し陸地だったなら、私たちが作っている街もめちゃくちゃになっていたはずなのだから――



 ……しかしそんなものは、時間を掛けていけばどうにでもなる。

 壊されたとしても、それは直せば良いのだ。


 長い時間の中では、戦いも起こるだろうし、事故も起こるだろう。

 その結果、作ったものが壊れてしまうだなんて、そんなのは当たり前のことなのだ。



「リリー……」


 あの子が私の前から消えてから、すでにかなりの時間が経っている。

 私たちを護るために何をしたのかは分からないけど、実際に私たちを護ってくれた。


 もしかして、もう――……


 ……そんな嫌な想像が頭から離れない。

 これからはずっと一緒。私と不老不死の、長い時間を一緒に歩んでくれると疑っていなかったのに。

 何事も順調に進んでいたと思っていた矢先の、この出来事――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 幸いにして、死者は出なかった。

 ……というよりも、確認できなかった、と言うべきか。


 リリーとシルヴェスターは行方不明。

 戦いの最中で海に消えていったマイヤさんも行方不明。


 ……ただ、それ以外には人的な被害は無かった。


「リリーも、人魚も、迷宮も――……」


 この戦いで得たものは、私たちには何も無い。




 私は今、ひとり浜辺で夜空を見上げている。

 今日の日中、戦いがあった場所。


 少し前まではルークやエミリアさん、ジェラードが代わる代わる私の様子を見に来てくれていた。

 しかし今は、そんな近しい仲間とも話す気がしなかった。


 ……きっと他の仲間とリリーとでは、何かが違うのだろう。

 いくつか思い当たる理由はあるけれど、しかしそれが該当したからと言って、どうということは無い。



 大切なのは結果。


 結果という現在。


 現在から続く未来。


 そこに一緒にいるはずだった、可愛いあの子。



 『あの子』。



 その言葉に辿り着いた途端、私の目からは涙が溢れてきた。


 逃亡生活の中ではよく泣いていたものだ。

 しかしその後、今ではようやく平穏な生活が始まろうとしていた。


 いつか辛い現実が待っているだなんて、当然覚悟はしていた。

 仮にずっと何も無かったとしても、いつかは誰かの寿命を目の当たりにしてしまうのだから。


 ……しかしそんな現実が、まさか今日この日にやってくるだなんて――



「ママーっ」



 耳を澄ませば、リリーの声が聞こえてくる気がする。

 こんなにも明鏡に記憶に残っているのに、このことすらもいつか忘れてしまうのだろうか。


「ママー? 泣いてるのー?」


 ……そりゃ泣くよ。

 リリーの声がこんなにも鮮明に蘇えるのに、これからは一生会えないだなんて――


「ねー? ママー!」



 くいっ



 何となく、私の服が引っ張られたような気がした。


 ああまずい、五感までおかしくなってきているのかな……。

 さすがにそろそろ戻らなくてはいけないか。明日だって、私にはやらなきゃいけないことがあるんだから――



「ママっ!!」


「ひょわっ!?」


 ズシャァッ!!



 私がテントに戻ろうと歩き出そうとしたとき、何かが脚に絡みついてきた。

 そしてそのまま、私は砂浜に思い切り身体を投げ出してしまったのだ。


「にゃ、にゃーっ!? ママっ、ごめんなさいっ!!」


「ちょっと、リリーっ!? 危ないよ!?」


 聞こえてきた声に釣られて上半身を起こすと、そこには――


「しゅん……」


 ――リリーがいた。



「……ダメだ、幻覚まで見えてきた……」


「幻覚じゃないのーっ!!」


「えー……」


 恐る恐る目の前のリリーに触れてみると、柔らかな温かさが伝わってくる。

 今日の朝まで普通に触れていた、あの子の温かさ――


「にゅ!」


「……本物……?」


「そうなの! ただいまなの!」


「……幻覚じゃなくて……?」


「本物なのっ!」


「……本物――」


「そうなのーっ!!」


「――っ!!」


 私は思い切り、リリーを抱き締めた。

 この感覚。幻覚なんかじゃない。まさか無事だったなんて――


「ママーっ、痛いのーっ!」


「……ふえぇ、リリー!

 心配したよーっ!! お帰りいぃーっ!!」


「むぎゅぅ」


 それからどれくらい経ったのかは分からない。

 ……気が付いたときには、ルークが様子を見にきてくれていた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 私がリリーを抱き上げてにこにこしていると、ルークも何だか涙目になっていた。

 ……ああ、また心配を掛けてしまった。まったく、いつもいつも申し訳ない。


「アイナ様、良かったですね」


「うん! ……ごめんね、取り乱しちゃって……」


「いえ、まったく問題ありません。

 リリーちゃんの話も聞きたいところですが、他のみんなも心配しております。

 このままテントの方に戻りませんか?」


「あ、そうだね。リリーのこと、みんな心配していたんだからね?」


「えへへ、ごめんなさいなの。

 ……あ、違うの、そうじゃないの!」


「「え?」」


 リリーの言葉に、私とルークの声が被った。


「ママ、あのね!

 あの人魚さんが死んじゃいそうなの! すぐに助けに行くの!!」


「……人魚さん? もしかして、誰か生き残りがいるの?」


「みんないるの! でも――えっと……、まいやさん?

 まいやさんが死んじゃいそうなの!!」


 その言葉を聞いて、私はルークと顔を見合わせた。


 マイヤさんは戦いの最中、シルヴェスターに斬られ、そして海の中へと消えてしまっていた。

 あのときの血の量からして、もう死んでいるものだと思っていたけど――


「う、うん、分かった! 時間との勝負なんだね!?

 ルークも一緒に来てくれる!?」


「はい、もちろんです!」



 命を落としたと思い込んでいた二人をもし助けられれば、私の中で、今回の戦いは悲劇ではなくなってくれる。


 マイヤさんが死に掛けていようが、私の錬金術なら何とかなるはず。

 早く、その場に向かわなくては……!!

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