表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
450/911

450.背神の英雄③

 私たちの前に現れた不思議な人影は、時間を経るに従って、少しずつその姿をはっきりさせていった。

 そして最後に、一人の男性が姿を現す――


 ……青年よりも成熟した風貌。中年よりも若々しい風貌。

 力の旺盛を極めた瞬間――……そんな空気が伝わってくる、圧倒的な存在感。



「――……これはこれは。私の帰還を待っていてくださったのですか?」


 最初に口を開いたのは、目の前の男――……英雄シルヴェスターだった。

 丁寧な口調の中に、鋭い殺気のようなものが含まれている。


 『英雄』とは言っても、以前私が対峙した英雄ディートヘルムとは空気感がまるで違う。

 ディートヘルムは火のような荒々しさを持っていたが、シルヴェスターは水のような静かな空気を纏っている。

 しかしただの水ではない。暗い、重い、そんな水――



「初めまして、私はアイナ・バートランド・クリスティア。

 あなたのことは以前、クレントスでお見掛けしたことがあります」


「ほう……。もしかして、ヴィクトリア様から過大な歓迎をして頂いたときですかな」


 シルヴェスターは話をしながらも、辺りの様子をゆっくりと窺っていく。

 そして最後に、私の傍らにいる人魚――マイラさんに目をやった。


「……マイヤさんは私の仲間ですので」


 私の言葉に、シルヴェスターはすぐにその意味を理解した。


「はははっ、大丈夫ですよ。私はもう、人魚たちには興味がありません。

 せいぜい、このまま静かに生きていけば良いでしょう」


「……ふ、ふざけるなぁああッ!!」


 マイヤさんはシルヴェスターの物言いに我慢できず、水の魔法を一瞬で撃ち出した。

 しかしシルヴェスターは、それを何ともないように、最低限の動きで避けていく。



「――殺されたいのですか?」


「っ!!」


 シルヴェスターの言葉に含まれる殺気が、一瞬にして溢れ出した。

 一言だけで、この圧を出せるというのは――


「私の興味は本当に、もう人魚には無いのですよ。

 『螺旋の迷宮』にはがっかりしました。あんなにまで人間を拒絶しているのだから、私の求めるものがあると思ったのに……」


「あなたは何を……? 何を求めているんですか……?」


 私の口から、自然とそんな言葉が出てきた。

 興味本位というところもあったが、しかしこんな場面、それだけで動くわけも無い。


 もしもここでシルヴェスターをどこかに行かせたら、彼の目的によっては、再び私たちと衝突することも有り得る。

 加えて彼は、マイヤさんの……人魚たちの仇。

 心情的にも、マイヤさんを仲間だと思っていればこそ、このまま行かせるのは難しいものがあった。



「君には特に言う理由は無い――

 ……いや? 名前が確か……。そうか、君が新しい神器を作った錬金術師でしたか」


 言葉の途中で、シルヴェスターの私を見る目が鋭くなった。

 ここでようやく、私は彼の興味の対象になったのだ。


「ダンジョンの中でも、『世界の声』は聞こえていたようですね」


「ええ。私も話には聞いていましたが、まさか本当に実在するものだったとは。

 ……それにしても、そうですか。神器を作って……そのあとの『疫病の迷宮』も、あなたが?」


「さぁ? どうでしょうね」


 個人的には、『疫病の迷宮』の方に話を持っていって欲しくなかった。

 シルヴェスターは『螺旋の迷宮』を『殺して』しまったのだから、リリーのことを知られてしまえば、どう動かれるかが想像が付かないのだ。



「……ふむ、実に興味深い。

 それに君の後ろの青年も――実に良い顔をしています。

 手に持っているのは新たな神器ですか? そういえばディートヘルムの神器……神剣カルタペズラは消滅したようですし……。

 まったく、私のいない間にいろいろなことが起きているものだ……」


 そう言うとシルヴェスターは、腰の鞘から美しい剣を抜き放った。


 神剣デルトフィング――それを見るのは、私も半年以上振りだ。

 まさかあのときに見た神器が、私たちに向けられることになろうとは……。



「その剣を収めてください。

 アイナ様に害意を向ける方は、私が許しません」


 そうは言いながらも、ルークは神剣アゼルラディアを手にして、シルヴェスターの前に立ちはだかった。

 人数としては7対1。圧倒的な差はあるものの、しかし相手は一人で迷宮を踏破した英雄――


「その意気や、良し。

 君は仕える主を見つけているのですね。実に羨ましい」


「そういう貴方こそ、世界でも名の知れた英雄です。

 仕える先など、いくらでもあったでしょう」


「ふっ。権力や富ばかりを見ている連中なんて、仕えるには値しないものですよ」


 シルヴェスターは事も無しに言った。

 彼ほどの実力者になれば、権力や富では心が揺らがない。

 やはり人間的に、心から尊敬できる人でなければ仕えられない――そんな感じなのだろうか。



「何を上から……っ!!

 アンタだって、何を探しているかは知らないけど、よくも私の仲間を……ッ!!」


 マイヤさんの絶叫が響いた。

 それはそうだ。シルヴェスターが何を思い、どう動こうが、それは他人には関係が無い。

 しかも同族を殺されたとあっては、感情のやりどころなんて限られてしまう。


「……たかだか100程度の命で、何を(わめ)いているのやら……。

 しかも世界から隔離されていた連中。そんな存在が、私の邪魔をするだなんて言語道断――」


「黙れッ!! アンタはもう口を開くなッ!!」


 その言葉と同時に、マイヤさんの周囲には大量の水の矢が宙に生まれ、シルヴェスターに襲い掛かっていった。

 しかし一瞬後、すべての矢は彼の剣によって散らされてしまう。


「くっ……!」



「――アイナ様、やはり凄まじい剣の腕です。

 ディートヘルムとは、強さの格が違います」


 ルークが私に向かって、声を小さくするように言った。

 何だかディートヘルムさん、いちいち引き合いに出されて可哀想だけど……しかし、敵の実力の指標としては優秀だ。


「……勝てそう?」


「負けるわけにはいきません」


 私の言葉に、ルークはすぐに答えた。

 しかしそれは、果たして答えだったのだろうか……。


「ここは僕も手伝うことにしようかな♪

 ルーク君ばっかりに格好付けさせるわけにはいかないからね」


 ジェラードはルークの横に立ち、短剣をくるくると舞わせてから右手で受け止めた。

 情報収集や女性の扱いが得意な彼ではあるが、剣術も一級品なのだ。

 ルークとタイプは違うけど、その腕は互角――いや、今はルークの方が上だったっけ。


「……おやおや、二人ともやる気ですか。

 アイナさん、ここは手を引いて頂けませんかね?」


 ここで一旦、シルヴェスターが状況打破の提案をしてきた。

 ……私は、どうしたい?


 マイヤさんの仲間たちの仇を討つ?

 放っておくと危険だから、ここで倒してしまう?

 危険は避けて、彼とは戦わないことを選ぶ?


 ……こんなところで誰かが死んでしまうのは、どうしても避けたい。

 だからといって、このまま目的の分からない彼を行かせるのは危険な気がする。


 つまり、やはり私はシルヴェスターの目的を知りたいのだ。



「……私たちも戦いたくはありません。

 でも、マイヤさんたち――人魚に手を掛けたのは許せません。

 その理由を教えて頂けますか?」


「なるほど、そこを落としどころにしたいのですね?

 ――では、その提案は却下いたします」


「っ!?」


 正直、この提案くらいは受け入れてくれると思っていた。

 しかし、結果はあっさり却下――


「君の後ろにはまだ、得体の知れない方が二人もいます。

 アイナさんを含めた三人は、実に興味深い。

 ……だが、他の者は凡庸。私がここで殺してしまいましょう」


「なっ、何でそうなるんですか!?

 あなたは英雄とまで呼ばれた人間でしょう!?」


「ははは、人間の世界での呼び方なんぞに深い意味はありません。

 英雄なんて称号は、この神器を手にするための手段。それ以外には、特に深い意味なんてありませんよ」


 シルヴェスターは剣を構え、静かに腰を落とした。

 これが彼の、攻撃に入るための姿なのだろう。


 ここからはいつ、どんな攻撃が飛び出してくるのかは想像できない。

 そんな中、エミリアさんは慎重に支援魔法を掛け始めた。



「……目的が分からないまま、ここから帰すことはできません。

 あなたと戦って、その目的を――聞き出します!」


「なるほど、なるほど。

 確かに神器なんて代物を作るお嬢さんだ。

 良いでしょう、私も三人の方には用がある。堂々と戦って、その身柄を拘束させて頂くことにいたしますよ」



 シルヴェスターはまるで問題が解決したように、満足しながら頷いた。

 勝った方が、自分の目的を果たすことができる。


 仕方ない、ここは戦うしか……!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ