441.お祭り⑤
「まぁまぁ、そこを何とか!」
……えぇー……?
ビンゴ大会の開催を宣言したあと、早々にステージを降りようとしたところでポエールさんに止められてしまった。
彼曰く、このまま私にビンゴ大会の進行をお願いしたいとのこと……。
「……そもそもはどういう段取りだったんですか?」
「はい、予定では私がやる予定だったんです。
しかしアイナさんの挨拶はご立派でした! 掴みもしっかり取れていましたし!!」
「確かに笑いは軽く取りましたけどぉ……」
でも、こういうのに関してはズブの素人だよ?
こんなステージに上がったのなんて、卒業式で卒業証書を受け取った以来のことだし。
「それにですね。アイナさんは今、良い感じで好感度があるじゃないですか。
ここで進行役を上手く勤めることができれば、さらに好感度が上がるというものですよ!!」
「んー……」
好感度が上がってどうなるかと言えば、街の運営が多少は上手くいく――……ようになるのかな?
人間というものは、よく分からない人よりも、良いイメージを持った人の方を手伝いたくなるものだし……。
「数字の抽選や賞品の受け渡しは商会の職員がやりますので!
アイナさんは合間合間にトークを挟みながら、場を盛り上げちゃってください!!」
……さすがイベント中。ポエールさんのテンションも何だか少しおかしい。
となれば、私も付き合って少しくらいはおかしくなった方が良い……のかな。
日頃お世話になっているわけだし、せめてこれくらいは……?
「うーん、分かりました。
でも、トークが滑ったら助けてくださいね」
「おお、ありがとうございます!
いざとなれば、私もステージの上で『バナナの皮に滑って転ぶ芸』をお見せしますから!!」
「うわぁ、ベタですね」
……いや、それよりもそのネタ、こっちの世界にもあるんだ?
これはもしかして、あらゆる世界で共通の鉄板ネタ……なのかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ポエールさんと進行について軽く打ち合わせたあと、私はステージに戻ることにした。
そんな私を見て、ステージの下からはどよめきのような、少し低い声が響いてくる。
「えーっと、すいません、戻ってきました。
何か私、このまま進行役をしろってことでしたので、引き続きよろしくお願いします」
「「「「「おかえりなさーい!!!!」」」」」
……参加者も大概、ノリが良いものだ。
「はい、ただいまですよ。
さて、ここでポエールさんの登場です。ご存知の通り、ポエール商会の一番偉い人です。
偉い人なんですが、今日はガラガラをまわす役を買って出ていただきました」
「頑張ってまわします!!」
「「「「「がんばれーっ!!!!」」」」」
「ポエールさんの前にあるガラガラ……これ、名前は何て言うんですか?」
「ガラガラとか、福引器って言うらしいですよ」
「ガラガラ……って、そのまんまですね。
で、これをまわすと1から75までの数字が書かれた玉が出てきます。
……一回やってみましょうか」
「はい、いきますよー!!」
私の言葉に、ポエールさんはガラガラを勢いよくまわし始めた。
正直、何だか凄く楽しそうに見える――のは置いておいて。
ガラガラガラガラ……コロン。
「――はい、75が出ました!
一番大きい数字ですね。75が手元の紙に書いてある人ーっ!?」
「「「「「あったー!!」」」」」
「「「「「ない……」」」」」
会場からは嬉しそうな声と、寂しそうな声が入り乱れて聞こえてくる。
「はい、75があった人は、指でそこに穴を空けてください。
あ、そうだ。当たった人も外れた人も、中心のマスは空けておいてくださいね」
「「「「「りょうかーいっ!!!!」」」」」
「……で、この穴が縦か横、斜めに5マス繋がったら『ビンゴ』って叫ぶんですよ。
一回練習してみましょうか。はい、せーのっ!!」
「「「「「ビンゴー!!!!」」」」」
「はい、よくできました!
ちゃんと恥ずかしがらずに叫びましょうね。叫ばなかったら賞品はお預けですからね」
「「「「「りょうかーいっ!!!!」」」」」
……まずい、何だか楽しくなってきた。
このまま変なテンションで押し切れば、何とか最後までいくことはできそうだ。
「それじゃ、どんどんいきますよー!
次の説明は、誰かが揃えてからしますね。それじゃ、はい! ポエールさん! ガーラガラっ!!」
「ほいっと! ガーラガラ!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――はい、次は13! 13でーすっ」
ビンゴ大会は順調に進み、今は6回目の抽選が終わったところだ。
ここで揃ったら、かなり速いタイミングではあるんだけど――
「び、ビンゴっ!!」
「お? 揃いましたか?」
「はいっ! ビンゴーっ!!」
「おお、おめでとうございます! それではステージに上がってきてください!!」
しばらくすると、二十歳を少し過ぎたくらいの青年がやってきた。
名前は覚えていないけど、確か上下水道の工事現場でよく見掛ける人だ。
「はい! 一番乗り、おめでとうございます!
せっかくなのでお名前をどうぞ!!」
「あ、このまま喋れば良いんですか?」
青年はこっそり私に聞いてきたが、残念なことに拡声魔法でその声を拾われ、周囲に大きく響き渡らせてしまった。
その様子に、会場からも笑いが起こる。
「――はい、私と同じ失敗をしましたね!
ひそひそ話をするときは、口を手で押さえましょう」
「は、ははは……。こう、ですね。
改めまして、俺の名前はジルです。アイナさんにはいつもお世話になっています!」
「いえいえ、いつもお仕事ありがとうございます!
今日は是非、良いものを当てていってください!」
私がそこまで言うと、ポエール商会の職員が大きな箱を持って近付いてきた。
箱は両手で抱えるほどの大きさで、薄い木で作られているようだ。
天面には丸い穴が空いていて、そこから手を入れて、中の紙を1枚取る――という寸法だ。
私が促すと、ジルさんは恐る恐る箱に手を突っ込み、紙を一枚取り上げた。
「――はい、取りましたね。
この紙にもらえる賞品が書いてあります。賞品は全部で……30個でしたっけ?」
「そうです!」
30個……ともなれば、後半はある程度急いで進めないとダメそうだ。
でも今はまだ一回目だから、ここはゆっくりと進行することにしよう。
「それではジルさん、何が書いてあったか教えてください!!」
「はい! えっと――
……『リリーのお絵描き券』……?」
「何ですと!!?」
「ひゃいっ!?」
「それ、私が欲しかったのに!!」
「「「「「あははははっ」」」」」
……先に当てられたのは残念ではあるが、一応笑いは取れたから良しにしよう……。
――リリーのお絵描き券。
それはリリーが似顔絵を描いてくれるという、とってもとっても貴重な券である。
リリーも最初はエミリアさんと同じように、編み物を賞品にしようとしていたんだけど――
……グリゼルダ共々、編み物は性に合わなかったらしく。
リリーは賞品を変えることになったんだけど、その流れでグリゼルダまでよく分からない『券』に変えちゃったんだよね。
そっちはそっちで、誰が当てるのかがとても気になるところだ。
……ちなみに私には必要ないものだから、グリゼルダのやつは当たって欲しくは無いかな。
「はい! ジルさん、おめでとうございます!
明日あたりに時間をくださいね! リリーに似顔絵を描いてもらいますので!!」
「ありがとうございます、大切に使わせて頂きます!」
「そうしてください!!
……こんな感じで、ビンゴのあとに抽選して賞品が決まります!
なかなかビンゴにならなくても、最後まで希望は捨てないでくださいね!」
「「「「「りょうかーいっ!!!!」」」」」
……さてさて、先はまだまだ長い。
でもこの調子で、徐々にスピードを上げながら盛り上げていくことにしよう。
私もこのノリが続く間に、しっかり役目を果たし終えないとね……!!




