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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
438/911

438.お祭り②

 歌と踊りが溢れる大きなステージに対して、謎の盛り上がりを見せ始める小さなステージ。


 一体何をやっているんだろう?

 全員をぞろぞろと連れて見に行ってみると、そこでは――


「うでずもう」


 ……を、していた。

 屈強の男たちが誇りを懸けて競い合う、ごくシンプルな戦いだ。



「――あ! アイナさんだ!」


「どうもー」


 職人さんたちとは、基本的にはどこかで一回は会っている。

 受け入れ試験のときと、それ以外にも大体はどこかで話くらいはしているのだ。


「もしかしてアイナさんも、腕相撲に参加するんですか!?」


「おお、神器の力士!」


 ……そこ、変なふたつ名を付けるのは止めなさい。


「あはは、さすがに腕相撲は負けますよ。

 それにみなさんも、私が相手だったら本気を出せないでしょう?」


「いやいや、こう見えて……実は?」


「英雄ディートヘルムを倒したくらいですからねぇ……」


 神器――……神剣カルタペズラが消滅したことは、『世界の声』で知られている。

 だからこそ、その剣を持つ英雄ディートヘルムを私が倒したという話は、信憑性を持ってしまっているのだ。


「まぁまぁ、とにもかくにも腕相撲だなんて無理ですよ。

 見てください、この腕の太さ。全然違うじゃないですか!」


「ははは、こちとらこれが商売ですからね!」


「まったくですよー。

 ……ん? そういえばルークって、腕相撲は強いの?」


「私ですか? ほどほどにはいけると思いますが、そこまで力が強いというわけでもありませんので……」


 ……確かにルークはパワータイプというよりも、バランスタイプな感じがする。

 ジェラードはスピードタイプって感じかな?

 武器でがっちり組み合えばルークの方が強いけど、組むまではジェラードに分がある――みたいな。


「ルークさん、腕相撲に参加してみましょう!」

「お兄ちゃん、頑張るの!」

「ふむ、良いところを見せるのじゃぞ!」


「えぇ……?」


 エミリアさんとリリーとグリゼルダに、突然無茶な要求をされるルーク。

 でも私たちの中だと一番得意そうだから、ここは是非とも参加してもらおう。


「はーい、ルークが参加しまーす! よろしく!!」


「ちょっ、アイナ様!?」


「良いから良いから!

 負けても全然、問題無いから! ね?」


「は、はぁ……」


 私の後押しで、ルークはようやく参加を決めてくれた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――勝負とは言っても、お祭りの中のひとつの余興である。

 賞品はあるものの、そこまでルールは厳密なものにはなっていないようだ。


 8人集まるたびにトーナメント方式で戦い合い、その優勝者が王者となる。

 王者になったあとは、次のトーナメント戦の優勝者と戦い、勝てば防衛、負ければ陥落……といった具合だ。

 王者は王者で、一勝するたびに賞品が出るらしい。


 そしてルークはあれよあれよと決勝に進出。

 今やっているのがトーナメントの1回目だから、ここで勝てば初代王者になるというわけだ。


 しかしその相手というのが――


「ママー、あの人、大きいのー」


 ……リリーの言う通り、身長が2メートルもあろうかという大男だった。

 腕もかなり太く、1回戦、2回戦と圧倒的な力の差で相手を叩き潰してきたのは記憶に新しい。

 というか、ついさっきだし。


「大きいねー……。

 ルークも私と比べれば大きいけど、あの人と比べればルークも小さいね……」


「あ、始まりますよ!」



「――レディ……ゴーッ!!」


 審判が合図をすると、ルークと大男はそれぞれ腕に力を込めた。

 大男の方は少し余裕があるようで、ルークの全力を受け止めているような状態だ。


「むむ……むむむっ!!」


 ルークはルークで全力を込めて、大男の腕を制そうとしている。

 ……でも、これはさすがに難しいかなぁ……。


 私が何となく心の中で諦めかけていると、ルークの腕も徐々に倒されてきてしまった。


「アイナさん、ここは応援ですよ!」


「へぁ? 応援ですか?」


「そうですよ! アイナさんの応援があれば、ルークさんは絶対に勝ちますから!」


「え、えぇー……?」


「ほら早く! 負けちゃいますよ!」


 改めて言われると、何だか照れくさいけど――

 ……まぁお祭りだしね。少しくらいなら気にしない、気にしない!



「ルーク!! 負けないでっ!!!!」


「はいっ!!!!!!!!」


「う、うぉっ!?」


 バターンッ!!



 突然のルークの反撃に、相手の大男は身体を取られ、そのまま体勢を崩して倒れてしまった。

 手の甲は大男の方が台に押し付けられ、負けの条件を満たしている。


「……おぉ!? ルーク、凄い!!」


 ルークは大男を引き起こしてから、軽く深呼吸をした。


「アイナ様の応援のおかげで、勝つことができました!」


「おめでとう! 私の応援っていうのも、言い過ぎだと思うけど」


「えぇー、どこかですかー。

 どう見ても、アイナさんの応援の効果だったじゃないですかー!」


 エミリアさんはにやにやしながら私に言ってくる。

 状況証拠的にはそうなんだろうけど……、自分からはなかなか、はっきり言えるものでも無いからね……。


「お兄ちゃんが勝ったのは、ママのおかげなの?」


「うむ、その通りじゃぞ。誰かの応援があれば、人は強くなれるものなのじゃ」


「ふーん、そうなんだー」


 さり気なくグリゼルダがちょっと良いことっぽいことを言った。

 リリーは素直に、その言葉を受け止めている。


「ふ……。負けたぜ、さすがアイナさんの騎士だ……」


 相手の大男はルークの手を取り、高々と宙に掲げさせた。

 ……何これ。ボクシングの決着後のシーン?


「優勝おめでとうございます!

 初代王者は、なんとアイナさんの守護者、ルークさんでした! おめでとうございまーす!!」


 審判が改めて告知すると、周囲は再び盛り上がりを見せた。

 まぁまぁ、お祭りだからね。ここは素直に喜んでおこう。やったー!!


「つきましては優勝の賞品を贈呈いたします!

 これは凄いものですよ! ななな、なんと――」


 なんと――!?


「神器の魔女、アイナさんの手作りポーションだああああああぁっ!!!!」


「「「「「「「「「「うおおおおおぉーっ!!!!」」」」」」」」」」


 審判が大声を上げると、周囲の声もヒートアップしていった。

 何せ賞品は私作のポーション!!



 ……えぇー? そんなのなのー?



「いやいや、アイナのポーションは貴重品じゃからな?」


 私の表情から察したのか、グリゼルダがフォローをしてくれた。


「あぁ……、そういえばそうでしたね……」


 ルークに贈呈されたポーションを見てみれば、それは中級ポーションだった。

 さらにいつもの通りS+級だから、金額的にはそこそこするだろう。

 ……そう考えると、こういう場の賞品としてはとても良いもの……なのかな。


 でも中級ポーションくらいなら、仲間にならいくらでも作ってあげられるから――

 ……ルークがこの場でもらうというのも、やっぱり何だか微妙というか、何というか。



 ちなみに王者防衛戦の1回目で、ルークは見事に負けてしまった。

 腕の太さとか、全然違ったしね。これはもう仕方が無いね。


 ……私が余所見(よそみ)をしてて、応援できてなかったせいじゃないんだからね。

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