438.お祭り②
歌と踊りが溢れる大きなステージに対して、謎の盛り上がりを見せ始める小さなステージ。
一体何をやっているんだろう?
全員をぞろぞろと連れて見に行ってみると、そこでは――
「うでずもう」
……を、していた。
屈強の男たちが誇りを懸けて競い合う、ごくシンプルな戦いだ。
「――あ! アイナさんだ!」
「どうもー」
職人さんたちとは、基本的にはどこかで一回は会っている。
受け入れ試験のときと、それ以外にも大体はどこかで話くらいはしているのだ。
「もしかしてアイナさんも、腕相撲に参加するんですか!?」
「おお、神器の力士!」
……そこ、変なふたつ名を付けるのは止めなさい。
「あはは、さすがに腕相撲は負けますよ。
それにみなさんも、私が相手だったら本気を出せないでしょう?」
「いやいや、こう見えて……実は?」
「英雄ディートヘルムを倒したくらいですからねぇ……」
神器――……神剣カルタペズラが消滅したことは、『世界の声』で知られている。
だからこそ、その剣を持つ英雄ディートヘルムを私が倒したという話は、信憑性を持ってしまっているのだ。
「まぁまぁ、とにもかくにも腕相撲だなんて無理ですよ。
見てください、この腕の太さ。全然違うじゃないですか!」
「ははは、こちとらこれが商売ですからね!」
「まったくですよー。
……ん? そういえばルークって、腕相撲は強いの?」
「私ですか? ほどほどにはいけると思いますが、そこまで力が強いというわけでもありませんので……」
……確かにルークはパワータイプというよりも、バランスタイプな感じがする。
ジェラードはスピードタイプって感じかな?
武器でがっちり組み合えばルークの方が強いけど、組むまではジェラードに分がある――みたいな。
「ルークさん、腕相撲に参加してみましょう!」
「お兄ちゃん、頑張るの!」
「ふむ、良いところを見せるのじゃぞ!」
「えぇ……?」
エミリアさんとリリーとグリゼルダに、突然無茶な要求をされるルーク。
でも私たちの中だと一番得意そうだから、ここは是非とも参加してもらおう。
「はーい、ルークが参加しまーす! よろしく!!」
「ちょっ、アイナ様!?」
「良いから良いから!
負けても全然、問題無いから! ね?」
「は、はぁ……」
私の後押しで、ルークはようやく参加を決めてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――勝負とは言っても、お祭りの中のひとつの余興である。
賞品はあるものの、そこまでルールは厳密なものにはなっていないようだ。
8人集まるたびにトーナメント方式で戦い合い、その優勝者が王者となる。
王者になったあとは、次のトーナメント戦の優勝者と戦い、勝てば防衛、負ければ陥落……といった具合だ。
王者は王者で、一勝するたびに賞品が出るらしい。
そしてルークはあれよあれよと決勝に進出。
今やっているのがトーナメントの1回目だから、ここで勝てば初代王者になるというわけだ。
しかしその相手というのが――
「ママー、あの人、大きいのー」
……リリーの言う通り、身長が2メートルもあろうかという大男だった。
腕もかなり太く、1回戦、2回戦と圧倒的な力の差で相手を叩き潰してきたのは記憶に新しい。
というか、ついさっきだし。
「大きいねー……。
ルークも私と比べれば大きいけど、あの人と比べればルークも小さいね……」
「あ、始まりますよ!」
「――レディ……ゴーッ!!」
審判が合図をすると、ルークと大男はそれぞれ腕に力を込めた。
大男の方は少し余裕があるようで、ルークの全力を受け止めているような状態だ。
「むむ……むむむっ!!」
ルークはルークで全力を込めて、大男の腕を制そうとしている。
……でも、これはさすがに難しいかなぁ……。
私が何となく心の中で諦めかけていると、ルークの腕も徐々に倒されてきてしまった。
「アイナさん、ここは応援ですよ!」
「へぁ? 応援ですか?」
「そうですよ! アイナさんの応援があれば、ルークさんは絶対に勝ちますから!」
「え、えぇー……?」
「ほら早く! 負けちゃいますよ!」
改めて言われると、何だか照れくさいけど――
……まぁお祭りだしね。少しくらいなら気にしない、気にしない!
「ルーク!! 負けないでっ!!!!」
「はいっ!!!!!!!!」
「う、うぉっ!?」
バターンッ!!
突然のルークの反撃に、相手の大男は身体を取られ、そのまま体勢を崩して倒れてしまった。
手の甲は大男の方が台に押し付けられ、負けの条件を満たしている。
「……おぉ!? ルーク、凄い!!」
ルークは大男を引き起こしてから、軽く深呼吸をした。
「アイナ様の応援のおかげで、勝つことができました!」
「おめでとう! 私の応援っていうのも、言い過ぎだと思うけど」
「えぇー、どこかですかー。
どう見ても、アイナさんの応援の効果だったじゃないですかー!」
エミリアさんはにやにやしながら私に言ってくる。
状況証拠的にはそうなんだろうけど……、自分からはなかなか、はっきり言えるものでも無いからね……。
「お兄ちゃんが勝ったのは、ママのおかげなの?」
「うむ、その通りじゃぞ。誰かの応援があれば、人は強くなれるものなのじゃ」
「ふーん、そうなんだー」
さり気なくグリゼルダがちょっと良いことっぽいことを言った。
リリーは素直に、その言葉を受け止めている。
「ふ……。負けたぜ、さすがアイナさんの騎士だ……」
相手の大男はルークの手を取り、高々と宙に掲げさせた。
……何これ。ボクシングの決着後のシーン?
「優勝おめでとうございます!
初代王者は、なんとアイナさんの守護者、ルークさんでした! おめでとうございまーす!!」
審判が改めて告知すると、周囲は再び盛り上がりを見せた。
まぁまぁ、お祭りだからね。ここは素直に喜んでおこう。やったー!!
「つきましては優勝の賞品を贈呈いたします!
これは凄いものですよ! ななな、なんと――」
なんと――!?
「神器の魔女、アイナさんの手作りポーションだああああああぁっ!!!!」
「「「「「「「「「「うおおおおおぉーっ!!!!」」」」」」」」」」
審判が大声を上げると、周囲の声もヒートアップしていった。
何せ賞品は私作のポーション!!
……えぇー? そんなのなのー?
「いやいや、アイナのポーションは貴重品じゃからな?」
私の表情から察したのか、グリゼルダがフォローをしてくれた。
「あぁ……、そういえばそうでしたね……」
ルークに贈呈されたポーションを見てみれば、それは中級ポーションだった。
さらにいつもの通りS+級だから、金額的にはそこそこするだろう。
……そう考えると、こういう場の賞品としてはとても良いもの……なのかな。
でも中級ポーションくらいなら、仲間にならいくらでも作ってあげられるから――
……ルークがこの場でもらうというのも、やっぱり何だか微妙というか、何というか。
ちなみに王者防衛戦の1回目で、ルークは見事に負けてしまった。
腕の太さとか、全然違ったしね。これはもう仕方が無いね。
……私が余所見をしてて、応援できてなかったせいじゃないんだからね。




