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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
436/911

436.賞品それぞれ

 ポエールさんと話を済ませて、あちこちに資材を運び終わるころには、すでに夕食の時間を迎えていた。

 仕事をしている職人さんもおらず、何だか私だけが残業をしているような感じになってしまった。



 ――残業。

 何だか、懐かしい響きだなぁ。



「ただいまー」


「アイナ様、お帰りなさいませ!」


 私がテントに戻ると、キャスリーンさんが明るく挨拶をしてくれた。

 今回来ているメイドさんは、クラリスさんとキャスリーンさん。何となく、隙の無い感じの二人である。


「もう、夕飯?」


「はい、すぐに並べますので少々お待ちください」


 帰ってくる場所があるというのは嬉しいものだ。

 それが仮の場所であったとしても、やはり心が癒される。



「……っと、アドルフさーん!」


「おお、アイナさん。遅くまでお疲れ様」


「まだお酒、飲んでませんね? 今日も忙しい感じですか?」


「今日は引っ越し作業で終始してしまったなぁ。

 ほら、テントも増えたし」


 アドルフさんのテントの横には、新しいテントが2つ増えていた。

 中を見せてもらうと、鍛冶に必要な道具やら素材やらがところ狭しと並べられている。


「これは凄い……。

 凄いんですけど、やっぱり私がアイテムボックスに預かっていた方が良かったのでは?」


「何の何の、ずっと預けておくのは申し訳ないからな!」


「……でもこれ、防犯上は良くなさそうですよね。

 結構な貴重品もありますし」


「……確かに!」


「やっぱり今からでも、預かりましょうか?」


 私の言葉に、アドルフさんは考え込んでしまった。

 アイテムボックスに入る量はほぼ無制限だから、その辺りはあまり気にしないでくれても良いのだけど。


「そ、それじゃぁ、やっぱりお願いしようかな……。

 うぅん、貴重な1日が無駄になってしまった……」


「まぁまぁ、身体を動かせて良かったじゃないですか。

 最近、書類整理とか多かったでしょう? 馬車の中でも何か書いていましたし」


「なるほど、そう考えれば良いのか……。

 しかしテントもせっかく買ってきたものだし、どうしようかな」


「んー、そうですね。すぐに用途は見つからないかもしれませんけど、私のお屋敷ができるまでは3週間くらいありますし。

 それまでは仕事用にするとか、晩酌用にするとか、何かに使ってみては?」


「ふむ、別の用途か……。それならひとまずはこのままにしておくか……」



「アイナ様、アドルフさん。お食事の用意ができました」


 私たちが話をしていると、クラリスさんが声を掛けにきてくれた。

 私が帰ってきたタイミングで温めて直してくれたのだから、これは遅れるわけにはいかないだろう。


「うん、ありがとう。それじゃアドルフさん、ご飯食べちゃいましょう。

 テントの中のものは、そのあとにしまっちゃいますね」


「ああ、申し訳ないな。よーし、飯だ、飯!」


 気を取り直すように、アドルフさんが元気に言った。

 よーし、ご飯だ、ご飯!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 夕食をとりながら、それぞれが今日あった出来事を話す。


 アドルフさんは先に聞いた通り、テントの設営と引っ越し作業だ。


 ジェラードは早速、ポエール商会の方に足を運んでいたみたい。

 理由はぼやかされたけど、きっと例の女性職員に会いにでも行ったのではないかな?


 ルークはアドルフさんの手伝いと、この辺りを警備している人たちの話を聞きにいっていたそうだ。

 神器持ちだったり竜王殺しのふたつ名があったり……というのはもう知られているので、その辺りから畏怖や敬愛の念を抱く人も結構いるのだとか。


 エミリアさんはリリーとグリゼルダと一緒に、近くの村にお邪魔してきたらしい。

 リリーの気配は抑えながら、少しでも私たちの好感度を上げるために、ちょっとしたお手伝いをしてきたそうだ。

 こういう少しずつの積み重ねが、私たちの印象を決めていくんだろうね。


 クラリスさんとキャスリーンさんは、ポエール商会の食糧班や、露店の方々に挨拶をしてきたとのこと。

 それ以外にもこの辺りの様子を少し教わってきて、あとは夕食の用意をしてくれたってところかな。



「……というと、遊んでいたのはジェラードさんだけですね」


「アイナちゃん、酷いっ!」


「あはは、冗談ですよ。ジェラードさんは二手も三手も先を読む人ですから?

 きっと遊びに見えて、今回も何か考えがあるんでしょ?」


「ふ、ふふふ。もちろんさ!」


 ……あ、今回に限っては嘘かな。

 まぁまぁ、節度を守ってくれれば色恋沙汰も良いとは思うよ。

 いわゆるそういうお年頃の人も、私のまわりには多いわけだし。


「そういえば、今日はポエールさんともお話をしてきたんですけど。

 5日後にお祭りをすることになりました」


「お祭り?」


「ほうほう、なるほどのう。

 祭りは人の心をまとめるのに、とても良いものじゃからな」


「まつりー……って、なぁに?」


「人がたくさん集まって、食べたり飲んだり遊んだりするんだよー」


「わぁ、面白そうなの!」


 ……ああ、そうか。リリーはそういう経験をしたことは無いのか。

 それじゃ、リリーにも楽しんでもらえるように、何か提案をしておこうかな。


「それで、ポエールさんから賞品を頼まれているんですよ。

 ちょっとしたゲームをやるんですけど、そこで勝った人にあげる賞品を」


「それなら『竜の秘宝』を出してはどうじゃ?」


「はい、それは目玉で出します。

 それと、先日グリゼルダから教わった『あれ』も」


「おお! 『あれ』は甘くて美味かったからな!

 新しい目玉としても通用するじゃろ」


 グリゼルダの言葉に、エミリアさんが納得の表情で続けた。


「『あれ』は美味しかったですもんね。

 特にお酒を飲めない人には良いかも? ……何だかお酒だけだと、不公平な感じがありますし」


 あまりいないが、お酒を飲めない人もここには一定数いるようだった。

 確かにお酒ばかりを目玉にしてしまうと、飲めない人の肩身が何となく狭くなってしまうかもしれない。


「あとは私も、いくつか錬金術で作ろうとは思うんです。

 でもそればっかりだと面白味が無いから、みんなにも手伝ってもらいたいかなって」


「ふむ、それなら僕は『一日デート券』を提供することにしよう!」


 率先して言ったのはジェラードだった


「ああ、それは良いですね。採用です」


「え、えぇ!? アイナちゃん、本気!?」


「もちろんですよ。

 でも、賞品は男女で分けませんからね? あと、選択制ではなくて抽選制ですから」


「というと、ジェラードさん……男性とデートをすることも……?」


「そうなりますね」


「ちょ、ちょっと待った! やっぱ止め!!」


「もう採用済みです。はい、次ー」


「そんなぁ……」



「私たちはランチを提供するのはどうでしょう」


「わぁ、それは良いと思います!」


 クラリスさんとキャスリーンさんは早々に、彼女たちにしてはごく妥当なものを提案してきた。

 メイド服を持ってきているので、少しリッチな気分を味わってもらう――というのがコンセプトらしい。

 私以外の人に(設定上だけだけど)仕えることになるので、そこだけはキャスリーンさんが渋ったけど……。



「俺は持ってきた武器にしようかな。

 試しで作ってみた普通のナイフなんだが、これがまた結構な切れ味になってくれてなぁ」


「あれ、アドルフさんが作った普通の武器ですか?

 何だか逆に、レアですね」


「ははは、ちょっとしたものなら割と作るぞ?

 売り物ではないから、レアと言えばレアなんだけどな」


 ふむ、さすが鍛冶職人の実力者。

 でもナイフなら使うハードルは低いし、冒険の中ではいろいろと使い道はあるだろう。

 変に立派な武器よりも良いかもしれない。



「私は剣の修行を付けさせてもらいましょう。

 案外、警備の方たちからはそういう要望が多くて」


「へー。ルークは何せ、英雄と渡り合った剣士だからね!

 剣を使う人じゃなければ、冒険譚を聞かせてあげるとかでも良いんじゃない?」



「うーん、それでは私は……ああ、ネタがありません!」


 次々と決まっていく中、エミリアさんが難しい声を上げた。

 エミリアさんは聖職者だけど、今はどこにも所属していないから、それを売りにはできなさそうだ。


「エミリアちゃんも、僕と同じ『一日デート券』を……!」


「却下します。エミリアさんをどこの誰とも分からない人に預けられますか!」


「えぇ!? ぼ、僕はいいの!?」


「愚問ですね。

 ……えぇっと、あと決まっていないのはグリゼルダですか」


「ママー、私も決まってないの!」


「え? リリーもやるの……?」


「もちろんなの! 私はママの許可があれば、私のおうちに招待したいの♪」


「へ? リリーのおうち……?」


 いつの間にそんなものを――

 ……と考えていると、エミリアさんが小さな声で言ってきた。


「もしかして、『疫病の迷宮』のことでは……?」


「ぶっ!?

 ダメダメ、それは危な過ぎるからダメーっ!!」


「むぅ、残念なの……。それじゃ私も、まだ決まってないのー」


「……ふぅむ、ここには男連中が多いから、手編みの何かとか?」


「あ、そういうのなら私、できますよ!

 どちらかというと、やや得意な方です!」


「妾はさっぱりじゃのう……」

「私もやったことないのー」


「とりあえず一緒にやってみて、その間に何かできることがあればそっちにしましょう!

 アイナさん、それでも良いですか?」


「はい、ではそうしましょう。

 私たちがクレントスに戻るタイミングもあるから、戻る人はそれを注意しておいてね。

 ジェラードさんはずっとこっちだから、デートはいつでも大丈夫ですよ」


「お、おっけーさ……」



 心無しかジェラードの顔が曇っているけど、そこはまぁ言ってしまったのだから、しっかり責任を持ってやって頂きたいところだ。

 でも、『一日デート券』はあくまでも権利だからね。向こうが嫌なら、きっと使われないでしょ。

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