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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
433/911

433.固辞と条件

 次の日、私はアイーシャさんのお屋敷に呼び出された。

 話の内容は……まぁ、昨日話したルイサさんの件だろう。


 アドルフさんも夜遅くまで頑張ってくれたみたいだから、きっと良い返事が聞けるはず――……と思ったら。



「――アイナさん、ごめんなさい」


 アイーシャさんの書斎でルイサさんから伝えられたのは、そんな言葉だった。


 ……むぅ、アドルフさんの年の功を以ってしてもダメだったか。

 さすがにここまできっぱりと返されたのでは、逆転の目は無さそうかな……。


「そうですか……。残念です……」


 うぅーん。でもでも、ルイサさんと一緒にやりたかったなぁ……。


 私がこの世界に来て、初めてお世話になった宿屋の女将さん。

 それだけでも運命を感じてしまうのに、その上でいろいろと面倒まで見てくれたのだ。

 えぇー? 本当に一緒にやらないルートに行っちゃうのー?


 ……私がぐるぐると考えていると、アイーシャさんが話を続けた。


「私はアドルフの熱意に負けて、ルイサさんにもやることを勧めたんですよ?

 でも、当の本人が固辞してしまって」


「いやいや。アイーシャさんだって、ずっとごねていたじゃないですか。

 私ばっかりのせいにしないでくださいよ!」


 ルイサさんが少し叱るような感じでアイーシャさんに言うと、アイーシャさんはお茶目な感じで舌を出した。

 ……ああ、この二人はやっぱり仲が良いなぁ。きっとこの二人は、私とは違った絆をすでに築いているのだろう。



「分かりました。ルイサさんとは是非一緒にやりたかったのですが、すっぱりと諦めることにします」


「……でもルイサさん。あなただって、ずっと私の面倒を見てくれるわけでも無いんでしょう?」


「え? そりゃ、一生は見ませんよ。

 私だって宿屋を経営しているんですから、キリが良いところまでです」


「それならやっぱり、アイナさんの申し出を受けるべきじゃないかしら?」


「はぁ……。また堂々巡りになっていますよ?

 昨日から何回、そこから話をしていると思っているんですか」


「私だって最初は……まぁ、ごねたと言われても仕方ない感じではありましたけど。

 でも、今はアイナさんに理解を示しているつもりなんですよ?」


「……あれ? アイーシャさんがそう言うってことは、実はもうひと押し……とかだったりするんですか?」


「そうなんですよ」

「違うよ!」


 私の言葉に、アイーシャさんとルイサさんの返事が同時に響いた。

 ちょっと状況が分からないけど……まだ話す余地があるのなら、もうひと押ししてみようかな。



「……ところでこれは調査中で、あまり期待を持ってもらいたくはないんですけど――」


「「え?」」


「私たちが街を作ろうとしている場所は、海の側じゃないですか。

 ただ、海流が速くて海を渡ることができないんですよね」


「ええ、そうね。あれさえなければ、クレントスはもっと栄えていたと思いますよ。

 自然の力だから、仕方がありませんけど……」


「……いえ、あの海流、もしかしたら何とかなるかもしれないんです」


「えぇ!!!?」


 私の言葉に、誰よりも驚いたのはアイーシャさんだった。

 ルイサさんに至っては、突然声のボリュームが上がったアイーシャさんを驚いて見ている。


「まだどうなるかは分からないのですが、あの海流の原因が分かって、それをどうにかできそうな人がいて……。

 もしもどうにかなれば、きっと凄いことですよね?」


「も、もちろんよ!

 海を渡ることができれば、この一帯はもっと栄えることができるわ!

 あとは、その上でミラエルツを手に入れることができれば――」


 日頃の丁寧な口調が無くなるあたり、アイーシャさんもかなり興奮しているようだ。

 ……それにしても今、ミラエルツを手に入れる……とか、さり気なく物騒なことまで言っちゃったし……。


「えぇっと、ミラエルツは置いておいて……、きっと凄い人数の人が訪れるようになると思います。

 そうしたら、それまで以上に宿泊施設が必要になるわけで……」


「ぬぬ……」


 低く唸ったのはルイサさんだった。

 交易が盛んな港町であれば、『世界一の宿屋』を目指すのはとてもイメージがしやすい。

 逆に、いくら栄えていたとしても辺境の田舎街では、『世界一の宿屋』にはなかなか近付くことはできないだろう。



「それを踏まえて、ルイサさんがまだ考える余地があるのであれば、宿屋をお任せする件は保留にしておきますが……?」


「う、ううん。一瞬考えちゃったけど、それでも私は――」


「いえ、そうとなれば話は別です。

 ルイサさん、私をサポートしてくれるというのなら、是非アイナさんの街で宿屋をやってください」


「えっ!?」


 アイーシャさんの強い口調に、ルイサさんはつい……という感じで驚いた。


「仮にアイナさんの話が本当であれば、これはもう、この一帯はアイナさんの街を中心に栄えることになります。

 そうなればクレントスだって利益がある……。クレントスにも、いろいろな選択肢が示されるんです」


「ま、まぁ……。それはそうだけど。

 でも、私はアイーシャさんのことが心配なんですよ!」


「その気持ちはありがたいけど……。

 ……それなら今のアイナさんたちのように、クレントスと新しい街を往復するようにするのはどうかしら」


「往復……」


「私の面倒も見れるでしょう?

 しかも宿屋の統括……っていう立場になるのかしら? その仕事も両立できると思いませんか?」


「ああ、それは良いかもしれませんね。

 ルイサさんには別に、受付の仕事やベッドメイクの仕事をして欲しいわけではありませんから」


 そう、私がして欲しいのは全体の統括だ。

 細々とした仕事や日々の仕事は、従業員を雇ってこなしてくれれば良い。

 ……まぁ本人がやりたいというのであればやってもらっても構わないけど、私が求めるのはそこでは無いのだ。


「うぅ……。それなりの覚悟をして断ったんだけどねぇ……。

 私だって、アイナさんの街には興味はあるのよ。……はぁ」


「ありがとうございます。

 話をしていて、アイーシャさんのことを思っているのが凄く伝わってきました」


「それじゃ、話は大体決まったかしら?

 ルイサさんはアイナさんの宿屋のお手伝いをする。……但し、条件がある――」


「はい。例の海流をどうにかできたときに、改めて相談させてもらいます。

 実際のところ、そこがまだどうなるか分かりませんので」


「そうですね。申し訳ないのですが、そこを前提とさせて頂きましょう。

 ……もしも海流の件が解決できなければ、ルイサさんは安心して私の元にいてくださいね♪」


「何とも壮大な条件だけど……まぁ、私は大人しく待っていることにするよ。

 ……それにしてもアイナさん、海流なんて一体どうやって静めるの? もしかして錬金術で、そういうこともできるの?」


「あはは、さすがに錬金術では無理ですよ」


「だよねぇ……。多分私が聞いても理解できない気はするけど……」


「いえ、案外いけると思いますよ。

 ただまぁ……実際見てみないと信じられないというか……?」


「……ふぅん?」



 海流の原因は海底にある『螺旋の迷宮』で、それをどうにかするためには、それを管理している人魚にお願いする必要がある。

 人魚はこの世界とは少し違う世界にいて、そこへは特別な竪琴が無ければ行くことはできない――


 ……まるでファンタジー世界の話だ。

 いや、この世界はファンタジーな世界だけど、そんな世界から見てもやっぱり、人魚たちの世界はファンタジーな世界の話だ。


 ……ああ、ややこしい。



「話はまとまりましたね。

 それではアイナさん、引き続き街の方を頑張ってください。

 ……そうそう、アドルフにもよろしく伝えておいて頂けますか?」


「分かりました。アドルフさんは今日は……冒険者ギルドとポエール商会に行くって言ってました。

 夜にでも、今の話と一緒に伝えておきますね」


「よろしくお願いします。

 それにしてもアドルフも、急に忙しくなったようですね。昨日も少し、その辺りの話はしましたけど……」


「暇そうにしていたから仕事を振ったんですけど、思いがけずやる気を出して頂きまして」


「ふふふ、案外そういうことが好きなタイプなのかもしれませんね。

 鍛冶の方では、没頭するタイプだったから分かりませんでしたけど……」


「鍛冶でもいろいろとお願いしたいので、最終的には他の仕事はそこそこにして欲しいんですよね。

 今なら両方とも高いレベルでこなしちゃいそうですけど……、身体を壊さないようにしてくれると良いのですが」


「そういうときに、誰か側にいてくれる女性がいると良いんですが。

 奥さんが亡くなってしばらく経つけど、再婚は考えていないのかしら」


「案外、アイーシャさんのことが好きだったりして……?」


「うふふ、実は昔はそうだったんですけどね?

 でも、今はさすがに違うでしょう」


 アイーシャさんは懐かしそうに返事をしてくれた。

 私が知らない時代を、アイーシャさんとアドルフさんは過ごしている。


 ……一体そのときって、どんな感じだったんだろう。

 機会があったら、アドルフさんから聞き出してみようかな?


 素直には話してくれなさそうだけど、美味しいお酒をちらつかせれば、きっと話してくれることだろう。ふふん♪

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