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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
429/911

429.猪のボス

 エミリアさんがずっと手を振り続けてくれるので、私はできるだけ急ぐことにした。

 さすがに全力疾走とまではいかないけど、そこそこ息を切らせる程度には急いでしまう。



「アイナさーんっ!」


「ど、どうかしたんですか? ……はぁ、はぁ」


「ああ、すいません、急がせてしまいましたね!

 それよりもこの猪! とっても大きいですよ!」


 エミリアさんの指差す先には、筋肉隆々の猪が横たわっていた。

 元の大きさは他の猪と同じくらいだけど、筋肉で肥大しているような状態だ。


「……マッチョですね」


「猪の群れの一番奥にいたのですが、コイツが猪たちを率いていたようです。

 アイナ様、額のところは見えますか?」


「額? ……んん? 何だか黒い石みたいのがあるね」


 その猪の額――目と目の間の、もう少し上のところ。

 いわゆる漫画とかで第三の目があるような場所に、黒い石が埋まっていた。


「もしかして、ボスの証……なのかな?」


 ボスといえば、以前『ゴブリンヒーロー』というやつと戦ったことがあったっけ。

 冒険者ギルドに届け出たら、普通のゴブリンとして扱われた微妙な思い出があるけど……。


 まぁそれはひとつの思い出として、この猪は一体なんなのかな?

 どれどれ、かんてーっ


 ----------------------------------------

 【ワイルドボアヒーローの死体】

 突然変異したワイルドボアの死体。

 英雄の運命に導かれ、ワイルドボアたちを率いていた

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「……この猪、『ワイルドボアヒーロー』って言う……らしいですね」


「猪の英雄さんでしたか!」


「ふむ……。ヒーローと言えば、ゴブリンヒーローは昔倒しましたね。

 いやはや、懐かしい限りです」


「それ、私も思い出してたよ。懐かしいよねー。

 ところで額の石って宝石みたいな感じだよね。貴重なものかな」


「気味は悪いですけど……」


 少し及び腰のエミリアさんに共感を得ながら、それでも鑑定をして、結果のウィンドウを宙に映す。


 ----------------------------------------

 【黒の欠片】

 黒色の結晶体。

 生命力や魔力を吸収して、周囲に負の感情を撒き散らす

 ----------------------------------------


「――これは!」


「これは!」


「……お蔵入りにしたい系のアイテムですね……!」


 軽く『創造才覚<錬金術>』で作れるアイテムを確認してみるも、やはり禍々しいアイテムばかりが並んでいた。

 こんなものを使う気はもちろん無いけど、いざというときには私も分からないからなぁ……。


 ……何と言っても、感情のままに『疫病の迷宮』を創ってしまった実績があるのだ。

 結果オーライだから良かったとは言え、やはり感情に支配されてしまったときは、自分で自分が分からなくなってしまうこともある。


「でも貴重そうと言えば貴重そうですよね……。

 アイナさんが使うとしたらよっぽどなときでしょうから、一応取っておいてはどうですか?」


「そうですね……。まぁ、そうしておきましょうか。

 壊すのももったいないし、他の人の手に渡っても面倒でしょうから――」


 そう言いながら、私は『黒の欠片』をアイテムボックスにぽいっと投げ入れた。

 使う気がない以上、扱いも少し雑になってしまう。


「しかし世界には不思議なアイテムがあるものですね。

 もしかしたら、『白の欠片』というものもあるのでしょうか」


「あー、そっちなら凄く欲しいかも!

 周りが幸せになりそうなアイテムが作れそうだよね」


 やはり自分たちのまわりは幸せに満ちていて欲しい。

 世界の平和も大切なものだけど、何よりもまずは自分たちの平和が大切だ。

 『白の欠片』というものが本当にあるのならば、その平和を助ける何かがきっと作れるだろう。


「……アイナさんには幸せになってもらいたいですからね。

 ルークさん、私たちでいつか『白の欠片』をプレゼントしてあげましょう!」


「おお、それは良い考えです!」


「えぇ? 『黒の欠片』と同じ価値だとしたら、結構貴重そうなものだよ?

 ……値段も鑑定スキルじゃ見えてこないし」


「貴重と言うのであれば、私はアイナ様から神剣アゼルラディアをお借りしていますが」


「そうですよ! 私だってその、ほら……?」


「はぁ」


 エミリアさんが若干の上目遣いで私を見てきた。

 はいはい、次の神器ですよね。前向きに検討させて頂きますよっと。



「さて、そろそろ村に戻ることにしましょう。

 アイナ様、このボス猪はどうしますか? 魔物化をした状態なので、基本的には土に埋葬すべきかと思います」


「そうだねー。一応、火葬までしておく?

 私はまだ見たこと無いけど、アンデッド化とかもあり得るんだよね?」


「念には念を……ってやつですね!

 もしかしたら今まで培ってきた冒険の勘かもしれませんし、そうすることにしましょう!」


「それじゃ、村の人たちにも手伝ってもらいますか」


 さすがに最後の最後まで、私たちだけで全部をする必要は無い。

 誰でもできそうな仕事は、しっかり分担してあげないとね。……私たちも楽だし。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ボス猪の埋葬も終わり、漁村から戻ったときにはもう夕食時になってしまっていた。

 今日は結局、ポエールさんに会って、猪を駆除しに行って、それだけで終わってしまったことになる。

 気分転換にはなったけど、建築の作業進捗的に見れば、もう少し何かをやりたいところではあったかな。


 夕食の準備をしていたルーシーさんと少し言葉を交わしたあと、焚き火の側でグラスを持ったアドルフさんが声を掛けてきた。


「――おお、アイナさん。やっと帰ってきたか」


「ただいま戻りました。

 あれ? 今日は一人で晩酌ですか?」


 グリゼルダは少し離れたところでリリーと遊んでくれていた。

 何ともかんとも、仲が良くて睦ましいところだ。

 ……私もたまにはリリーと一緒に遊びたいなぁ。よし、明日はずっと一緒にいることにしよう。


「いや、これはただの水なんだ。今は少し考え事をしたくてな」


「お、職人組合の件ですか?」


「ああ。やるとなったら俺は本気で取り組むぞ!」


「……あれ? 鍛冶の方が優先だったのでは……?」


「ポエールさんと話をしていたら、無性にやる気が出てきてな!

 妥協はしないぞ! 俺がアイナさんの求める組合を作ってやる!!」


「えぇ……?

 あの、鍛冶の方でもお願いしたいことがあるので……そっちは大丈夫ですか?」


「あー……、もちろん覚えているとも。

 両方ともこなしてやるさ! ポエールさんだってあんな無茶な仕事量をこなしているんだから、俺だって……!!」


 ……アドルフさん、何だか変なスイッチが入ってしまったようだ。

 身体を壊さない程度にしてくれれば良いんだけど……。


「あまり無理はしないでくださいね……?」


「おう!

 それでな、次にクレントスに行くまでに、ある程度のことを決めておこうと思うんだ。

 クレントスに戻ったらそっちでも少し動こうと思ってな」


「ふむふむ、仕事が早いですね」


「で、今のところで何か要望は無いかな?

 ポエールさんともよく会うことになるだろうから、メッセンジャー的な仕事も受け持つぞ!」


 そう言うアドルフさんの表情はやたらとキラキラしていた。

 職人組合の話を振る以前と比べれば、まるで別人のようだ。


「先に伝えておいたもの以外は、特には無いですね――

 ……あ、いや。冒険者ギルドのような、依頼の受発注ができるものが早めに欲しいです。

 今日も猪の駆除に行ったんですけど、そういうのをこなす人手が足りていないようで」


「ああ、なるほどな。

 建築の職人からも細かい要望が上がっているそうだから、そこに冒険者たちを充てることができれば……ふむふむ」


「でも、お願いしている職人組合の話とは別件ですからね。

 これはポエールさんに話しておいてくれるだけで大丈夫ですから」


「ん、分かった。でも組合の立ち上げのときには、冒険者ギルドがあった方が便利そうではあるが……。

 ……それ以外では、もう無いかな?」


「手を広げすぎてもよく分からなくなっちゃいますからね。

 ひとまずは大丈夫です!」


「了解だ。よーし、今夜は長くなりそうだぜ……!」


「えー……、そんなに頑張るんですか?

 必要でしたら夜食も作ってもらってくださいね」


「そうだな……。それじゃ申し訳ないが、あとでメイドの誰かにお願いさせてもらうよ」


「ミュリエルさん以外でお願いします!」


「うん……? おう、分かった」


 寝静まったあとに、アドルフさんの絶叫をこの辺りに響かせたくはないからね。

 ここはあらかじめ、ミュリエルさんという選択肢だけは外させて頂こう……。

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