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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
422/911

422.浜辺のお土産

 私がクレントスに戻ったのは、それから10日後のことだった。

 その間、私たちは職人さんの手伝いや、周辺の村に挨拶をしたりと、なかなかやることが多かった。


 次に浜辺に行くのは一週間後。

 それまではクレントスで用事を済ませながら、ゆっくりと身体を休めることにしよう。



「ただいまー」


「「「「お帰りなさいませ!」」」」


 私たちがお屋敷に戻ると、クラリスさん以外のメイドさんが出迎えてくれた。

 クラリスさんは出迎えられる側にいたが、少し慣れない感じで微笑んでいた。


「少し休憩したいから、お茶の用意をお願いできるかな?

 お土産もあるから、期待していてね」


「「お土産ですか!」」


 すぐに反応したのはマーガレットさんとミュリエルさんだった。

 この二人、そういうところで息が合っている。


 ちなみにルーシーさんとキャスリーンさんは興味が無い――ということも無く、一瞬だけうずっとした感じが伝わってきた。


「ほら! 早く動く!」


「「「「は、はいっ!!」」」」


 少しゆるっとした感じのメイドさんたちに、クラリスさんがすぐさま喝を入れた。

 さすがメイド長、締めるところはきっちり締めてくれる。


「それじゃみんな、一旦部屋に戻って荷物整理をしてきましょう。

 一息ついたら食堂に集合ということで」


 私の言葉に、それぞれが自分の部屋に散っていった。

 やっぱり自分の部屋があるというのは良いことだ。浜辺の方にも、早く自分の部屋が欲しいところだなぁ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 それから30分後、食堂に全員が集まってきた。

 クラリスさんはすでにメイド服に着替えていて、しっかりとメイドさん側で待機している。

 ……今日くらい、お休みしても良いんだけど。


「今回はクレントスの北東、海の方に行ってきたの。

 だからお土産は海関係でーす」


「海の幸ですね!」


 速攻で返してきたのはミュリエルさんだった。

 メシマズ職人とは言え、料理に関する上昇志向は人一倍強い。

 食材にすぐ興味がいくというのも納得の話だ。


「魚介類は全員のお土産として持ってきたから、あとで渡すね。

 ミュリエルさんには今回、『塩』を用意したよ!」


「塩、ですか?」


「海水から作ったんだけど、向こうではかなり好評だったんだ」


「アイナ様がお作りになられたんですか!?

 それじゃ、美味しくないわけがないじゃないですか!!」


 私が塩の入った大きめの瓶を差し出すと、ミュリエルさんは興奮気味に受け取った。

 彼女は一礼をしてから瓶を開け、少しだけ指に付けて舐めてみる。


「どう?」


「お……美味しいです!

 いつも使っているものとはまた違う感じで……!」


 他のメイドさんも料理をする人ばかりだから、その味には興味津々のようだ。

 次回からはお屋敷で使う用にも持って帰ろうかな。

 それまではミュリエルさんの特権ということで、彼女に管理を一任しておこう。


「あとね、ちょっと不思議な砂浜で綺麗な貝殻を見つけたの。

 本当なら全員分持ってこようと思ったんだけど、結局3個しか手に入らなくて」


「あの状況で3個も手に入れたのは凄いと思いますよ……?」


 エミリアさんの冷静なツッコミが私に飛んだ。

 『海鳴りの竪琴』を使って入った島で手に入れた綺麗な貝殻。

 マイヤさんに襲い掛かられたときに、かろうじてポケットに3個だけ入れておいたのだ。


「きっと物欲ですよね?

 それで、量が無かったから他のものに加工してみたの。

 ルーシーさんには、本の(しおり)を作ってみましたー」


 アイテムボックスから栞をひとつ取り出して、ルーシーさんに渡す。


「わぁ……。虹色に光って……とても綺麗ですね……。

 ありがとうございます……!」


「防水性で丈夫な紙だから、結構長持ちすると思うよ!

 次はキャスリーンさん……。同じ感じの髪留めを作ってみたの」


「ありがとうございます! 一生付けることにします!!」


「いや、それはちょっと……。

 どちらかといえばプライベート用とか夜用……かなぁ。お風呂上りに留めたり、そんな感じが良いと思うよ」


「はい! そのようにいたします!」


 キャスリーンさんは髪の量が多いから、髪留めは5つ作っておいてあげた。

 5つだからメイドさん一人ずつに分けられはするけど、今回はキャスリーンさんに全部使ってもらいたいかな。


「それじゃ次はマーガレットさん。

 さっきの貝殻を利用して、布を作ってみたよ」


「……布、ですか?」


 布というのは完成品ではなく、むしろ素材だ。

 個人的にはここから鞄を作りたかったんだけど、さすがにそれは錬金術の範疇では無いわけで。


 無理すれば作れるかもしれないけど、私の錬金術はデザインが壊滅的だから、結局布のままで渡すことにした。

 錬金術で鞄を作るくらいなら手作業で縫った方がまだマシだけど……、私もそこまで裁縫が得意ということも無いからなぁ。


「自分で難しいようなら、裁縫士さんに依頼するのも良いかもね。

 私が作っても良いんだけど……まぁ、上手くないから」


「いえいえ、アイナ様のお手を煩わせるわけには!

 とても綺麗な布ですから、これはまず、知り合いの裁縫士さんに自慢してきます!」


「え? そんな知り合いがクレントスにもういるの?」


「はい! この辺りのお店は、一通り挨拶に行っていますので!」


 ……さすが顔の広さが売りのマーガレットさん。

 その広さも、日々のこういう行動の積み重ねなのだろう。



「あの……。アイナ様、よろしいでしょうか」


 話の切れ間に、ミュリエルさんが聞いてきた。


「ん? なぁに?」


「頂いた『塩』は大変嬉しいのですが、私にも貝殻要素が欲しいです……!」


「……ああ、確かに」


 他の三人にあげたのは、それぞれ貝殻を使った栞、髪留め、布。

 これに対してミュリエルさんのお土産は、美味しいとは言え『塩』である。

 つまり、貝殻要素は皆無なのだ。


「それなら、余った『虹色の粉』をあげるね。

 ちなみに食べても問題無いやつだから」


「味はあるんですか……?」


「さぁ……?」


 私は鑑定しただけで、実際に口にしたことは無い。

 食べられるからといっても、味のためではなく、見た目のためということもあるのだ。

 日本でも、豪華な食事とかお酒に金粉を混ぜたりすることがあるからね。


「ミュリエルさんも私がもらった布みたいに、素材に加工してもらえば良いのでは?」


「マーガレットさん、それはナイスアイディアです!

 すいません、アイナ様。そういうお願いは大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。

 それじゃ決まるまでは、そのまま保管しておいてね」


「はい、ありがとうございます!!」



「――ところで、クラリスさんは何かもらったんですか?」


 ふと不安に思ったのか、キャスリーンさんがクラリスさんに聞いた。

 クラリスさんは私たちと一緒に行っていたから、もしかしてメイドの中で一人だけ、何も貰っていないのでは――、と。


「え? ううん、ちゃんと貰ってるから安心して」


「そうなんですね!

 ちなみに、何をもらったんですか?」


 塩と虹色の粉を手にしたミュリエルさんは、気を良くしながら聞いた。

 さすがに自分以上のものは貰ってはいないだろう――……何だかそんな競争心が見え隠れしている。


「えーっと……。

 アイナ様、どうしましょう……」


「あー、うー……。ま、まぁ見せてあげれば……?」


 私の言葉に、クラリスさんは少し考えてから、一回自分の部屋に戻った。

 しばらくして戻ってきた彼女の手には、貝殻で作られたひとつのペンダントがちょこんと乗せられている。


 部屋の照明を浴びて、そのペンダントはキラキラと煌めいていた。

 虹色の粉を使って作ったお土産よりもはっきりした色合いで、不思議な雰囲気がより強く伝わってくる。

 ……本当なら、この貝殻を人数分持って帰りたかったんだよね。


「このペンダントを貰ったんだけど……」


「「「「――ッ!! クラリスさん、ずるい!!」」」」


 メイドさん四人の言葉がしっかり合った。タイミングも合った。見事にハモった。

 ……貝殻そのものを使ったお土産と、それを粉にして作ったお土産――そこに少なからず、格差のようなものを感じてしまったのだろう。


「そうは言っても……。

 で、ですよね? アイナ様?」


「あはは。また探してくるから、今回はクラリスさん限定ということで……ね?

 それに、次からはみんな順番に来てもらおうと思ってるから」


「「「「!!」」」」


「……何だかすいません……」


 メイドさんたちの期待の表情と、クラリスさんの悩ましい表情。


 私としては、メイドさんにもこれくらいの感情は出してくれた方が嬉しいものだけど――

 ……でもクラリスさんとしては、もう少し引き締めてもらいたいんだろうなぁ。

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