42.指輪と蛇と②
昼下がり。
広大な岩場。たまに草木が生えている程度の、殺風景な光景。
探し物の依頼で教えてもらった場所はそんな場所。頑張っても他に形用しようが無い場所だった。
「え、ここを探すんですか? アイナさん、大丈夫ですか……?」
目の前の広大な景色を見て、エミリアさんも心配そうに聞いてくる。
「うーん、確かに思った以上にだだっ広いですね……。もう少し絞られているとは思ったんですが……」
「それにしてもこの広さで金貨1枚と銀貨25枚なんですよね。アイナさんが受けなければ、きっと誰も受けなかったでしょうね……」
「そうですねぇ……。でもこういうのも人助けですよね。人助けにしてはお金ももらえますし。うん、お得な人助けですよね?」
「ふふふ。やっぱりアイナさんって良い人ですよね」
良い人……なのかな?
情が弱点なだけじゃないかな、とも思うけど。
「それじゃ早速始めますね。ルークとエミリアさんは何も無ければのんびりしていてください」
「え? 何もしないで良いんですか?」
エミリアさんの質問にはルークが答えた。
「はい。アイナ様が鑑定スキルで周囲を探索しますので、それをお待ちいたしましょう。
さすがにこんな広い場所では、二人で探したところで何の助けにもならないでしょうし……」
「え? 鑑定スキルで探すんですか? ……何だか私の知っている鑑定スキルと違います……」
それ、ガルーナ村の人にも言われたから!
――などと内心ツッコミを入れつつ、とりあえず依頼の指輪を探すことにした。
よーし、それじゃ広範囲用のかんてーいっ!
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【普通の岩】
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【固い岩】
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【枯草】
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【石】
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【サソリ】
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【埃】
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【回転草】
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【空き瓶】
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――なかなか見つからないが、15分くらいしたところでようやく引っ掛かった。
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【指輪】
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「あ! とりあえず指輪みっけ!」
「え!? ほ、本当に分かったんですか?」
ええっと、詳しくかんてーい!
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【思い出の指輪】
結婚指輪。夫婦の愛が刻まれている
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うん、多分これだね。
「はい、間違い無いと思います。少し歩く感じですけど、取りにいきましょう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
10分ほど歩いた場所、僅かに存在していた草むらに指輪が落ちていた。
「あ、これですね」
私が指輪を拾い上げるとエミリアさんが覗き込んできた。
「わぁ~、綺麗な指輪ですね。この部分、何だか不思議な色に輝いてますよね」
エミリアさんが指差したところは灰色と黒色の中間、そんな色で煌めきを放っていた。
「本当ですね。へー、すごく綺麗~……」
そんな話をしていると、ルークも参加してきた。
「アイナ様、もしかしてその金属……ミスリルでは無いですか?」
「え? ミスリルって……例の、魔法金属の?」
「はい。他の金属と合わせると別の色合いになってしまうのですが、ミスリル単体ではそういった色を出すんです」
へー。何となく青っぽいイメージだったけど、こんな色だったんだね。
一応、調べてみようかな。
えーっと、素材を調べるのは――『創造才覚<錬金術>』だね。
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【『思い出の指輪』の作成に必要なアイテム】
・ミスリル×1
・白金×1
・金×1
・ダイヤモンド×1
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「……うん、確かに素材にミスリルが入ってるね。ふーん、これがミスリルかー」
「私もミスリルを実物を見るのは初めてですね。うーん、良いものを見せて頂きました! 私も欲しいですー」
うん、本当に綺麗だしね。
赤色とか青色みたいな華美なものでは無いけど、しっとりとした存在感が大人の雰囲気。
「アイナ様、この依頼はこれで達成ですね」
「本当にすごいですね。合計で30分くらいしか掛かっていませんよ! これで金貨1枚と銀貨25枚なら……かなり割が良いですね」
「まともにやったらかなり割は悪いですけどね……。この範囲を普通に探すのでは、一日では無理ですし――」
私が苦笑しながら返すと、エミリアさんはなるほど、といった表情を浮かべた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
先ほどの場所とは少し離れた岩場。
「エミリアさん、気を付けて!!」
ルークの大声が響く。
ラージスネイクを見つけてルークが対峙したところまでは良かったのだが、間隙を縫って後ろに控えていたエミリアさんに向かったのだ。
「大丈夫です! パージング・フィールド!」
エミリアさんと私の周囲にうっすらとした白い場が生み出された。
この魔法は――敵の攻撃力を削ぐ聖魔法、だったよね。
ズザザザザ!!
ラージスネイクは声を立てず、砂埃を巻き起こしながら素早く移動する。
……そういえば蛇って鳴くことあったっけ? ……いやいや、そんなことを考えてる場合じゃなかった!
ズザッ!!
あ、ラージスネイクが白い場の手前で一旦止まった。
エミリアさんはそれに反応して、攻撃魔法を唱える。
「シルバー・ブレッド!!」
聖なる力、その塊がラージスネイクの額に向かって撃ち放たれる――
――が、すんでのところでかわされた。
「ああ! エミリアさん惜しい――」
エミリアさんがラージスネイクと応戦している間に、ルークが猛然とした勢いで間を詰めてくる。
「ハァッ!!」
ザン……という音と共に、ラージスネイクに初太刀が入った。
「コオオオオオオッ!!」
鳴き声、ではなく激しい息遣い。ラージスネイクの叫びが響いた。
うわぁ、身体が大きいだけに、呼吸だけでもうるさい……!
「ルークさん、続けてお願いします! ホーリー・バインド!!」
エミリアさんが魔法を唱える。
その瞬間、ラージスネイクは上から衝撃を食らったような感じでびくっと震えた。
名前からして、恐らくは束縛魔法――
「ハアアアッ!!」
そしてルークの強力な攻撃。
その攻撃はラージスネイクの首筋を斬り裂いて――そのまま絶命させた。
「二人とも、お疲れ様でした!」
「はぁ、はぁ……。いや、すいません。やはりラージスネイクは後衛に向かってしまいますね。でも、エミリアさんの機転で助かりました」
「いえいえ、私が持ちこたえられる時間なんてそんなに無いですから! ルークさんが即倒してくださったので何とか……って感じでした」
はい。私は無力でした。分かっていたとはいえ!
しばらく呼吸を整えた後、討伐の証拠品を確保することに。
「ラージスネイク討伐の証拠品って何かな?」
「えぇっと……牙2本か目玉2個ですね」
……目玉はちょっと生々しいなぁ……。
「牙にしておく?」
「そうですね、目玉は扱いが難しいですし」
え、理由はそこ? ……まぁ、慣れの問題……なのかな……?