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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
413/911

413.お酒作り大会

「妾にも1本くれんかのう……」


 私が錬金術で銘酒『竜の秘宝』を作っていると、グリゼルダがおずおずと話し掛けてきた。


「……別に構いませんけど、素材の代金はお小遣いから出してくださいね?

 もしくは現物で頂ければ無料で良いですけど」


「それなら3本はいけるかのう!」


「今月のお小遣い、渡したばかりじゃないですか。

 3本も作ると、ほとんど使っちゃいません?」


「ぐぬ、そうじゃな……! よし、それでは今回は1本だけで良いわ!」


「はぁ。それじゃ、これをどうぞ」


 バチッと作って、そのままグリゼルダに渡す。


「おお、ありがとう。代金はあるうちに払ってしまうとしよう!」


「無駄遣いはあんまりしちゃダメですよー」


「そうは言うがのう……。

 ほれ、妾はずいぶんと長く封じられておったじゃろ? 買い物というものがとても楽しくて仕方がないんじゃよ」


 グリゼルダは金貨を出しながら、申し訳なさそうに笑った。


「あ、そう言えばそうですね……。

 封じられる前って、買い物をしたことはあるんですか?」


「うむ。人化の術を使って、たまには街に下りてな。

 基本的には山奥で暮らしておったから、それこそたまに……といった感じではあったんじゃが」


「人化の術なんてものもあるんですね……」


「竜王ともなれば、そんな術はちょちょいのちょいじゃよ。

 街に下りるたびに、町娘からキャーキャーと騒がれていたものじゃ」


「へぇ……? グリゼルダって、転生前は男性だったんですね」


「特に意識せんでおったら男になっておったわ。

 それに、女に化けたときはいろいろと面倒じゃったからのう」


「面倒って……」


「ああいや、軟派な男どもからよく声を掛けられてな。

 それをいちいちあしらうのが面倒だった……ということじゃよ」


「確かにそういうことってありますよね」


 力の無い女性と思われれば、力づくで何かをしようとする連中も実際にはいるものだ。

 数百年も昔のことであれば、今よりももっと性差別とかはあっただろうし――


「まぁ、転生したらこの姿になっておったからな。

 今世では女で生きていこうと、そう思ったわけよ」


「ちなみに力を取り戻したら、また竜の姿になるんですか?」


「いや? 『竜人』として転生したようじゃから、姿はずっとこのままじゃな。

 だが、魔力を使えば竜の姿になることもできるぞ?」


「え、できるんですか!?」


「今はまだ、全魔力を使ってようやく……といったところじゃがな。

 まぁ必要に駆られなければ、わざわざ竜化することもあるまいよ」


「なるほど……」



 グリゼルダと話をしながらも、私は銘酒『竜の秘宝』を作り続けていく。


「……それにしても、たくさん作るんじゃな?」


「はい、ポエールさんから依頼されまして。

 土木や建築の職人さんを連れてくるそうなのですが、そこで『飴』として使いたいそうです」


「アメ? 飴と鞭、というやつかの? とすると、『鞭』もあるのかえ?」


「『鞭』は、リリーの全力気配を浴びせます」


「……ふむ。アイナの作る街は、そこが基準じゃからな。

 しかし、職人からして選別するのか……」


「きっと、ずっと働いてもらうことになるんですよ。

 それに、私の街で働く人は他のところで働く人よりも良い思いをしてもらいたいんです。

 だから最初から、リリーのことが大丈夫な人たちに来てもらいたいんです」


「……まぁ、少数派も集まれば(やかま)しくなってしまうものじゃからな。

 最初から弾いておくのも良かろうて」


「それを乗り越えてくれれば、美味しいお酒が飲めますからね!

 ……ああ、そうだ。『竜の秘宝』は市販できないから、もう少しグレードの落ちるお酒を作っておきたいんですよ」


「ほう、それは興味深いのう!

 妾としても、いろいろな種類の酒を飲みたいし……」


「飲んだくれですね」


「しっかり味わっておるぞ!?」


「それにいろいろなお酒を作ることができるようになれば、私がお酒の市場を独占できますから。

 お金まわりもよくなると思うんですよ」


「ふむ、街に来た連中に金を出させる計画ではあるが、それでも金は必要になるしのう」


「ポーションとかの錬金術のアイテムも完璧ですからね。

 ひとまず他の人が入ってこれないように、普通の金額に少し色を付けたくらいで売ろうと思ってます」


「S+級のアイテムにしては安かろうなぁ……。

 それだけでこの街に来たくなるというものじゃ」


「まさにそこが売りですから。あとは王都で好評だった美容品とか日用品とか……。

 当時でも知名度はありましたし、宣伝文句に使っても良いかも?」


「ほうほう、未来は明るいのう」


「あとはもうひとつ秘策があるんですが、これは準備が出来次第……っていう感じです」


「『秘策』とな! 何やら妾も楽しみになってきたぞ!」


「贅沢を言えば、実は街の近くに迷宮も欲しかったんですよね。

 冒険者の集客になりますし……」


「ん? あるじゃろ?」


「『神託の迷宮』ですか? いやいや、あそこは何も無いので例外ですよ」


「いや、それじゃなくて」


「もしかして『疫病の迷宮』です? さすがに冒険者の人には入ってもらえませんよ。

 ……いや、疫病の薬を一緒に売ることができれば……? いやいや、それでも危険ですってば」


「いや、それでもなくて」


「え? ……え!? あの辺りって、他にも迷宮があるんですか!?」


「……ああ、そうか。アイナにはまだ言っていなかったか。

 ちと厄介な場所ではあるが、『螺旋の迷宮』というものがあるぞ?」


「!!」


 ……何ということでしょう。

 まさか身近な場所に、他の迷宮があっただなんて。


「しかも深淵クラスじゃ!!」


「!!

 ダメじゃないですか!!」


 ルークの話によれば、深淵クラスの迷宮は『入ることすら難しい』『周辺環境に大きな影響を持つ』というものが該当する。

 『疫病の迷宮』の難易度を考えてみれば、普通の冒険者が挑戦するにはかなり厳しいものになってしまうだろう。


「ふふふ、まぁ落ち着くが良い。

 『螺旋の迷宮』は深淵クラスではあるが、入ってしまえば基本的には普通の迷宮じゃ。

 入ること自体が難しいパターンじゃな」


「えぇー……。入るのが難しいんじゃ、結局変わらないじゃないですか……」


「そうとも限らんぞ?

 ほれ、例えば『疫病の迷宮』を考えてみるが良い。お主は深淵クラスの迷宮の最下層まで辿り着いたんじゃろう?」


「確かにそんなこともありましたけど、『疫病の迷宮』はリリーだったからなわけで……」


「うむ。つまりな、ダンジョン自体に認められれば入ることも可能だということよ。

 上層あたりであれば、難易度も調整してくれるのでは無いかのう」


「そんなまた、無理難題を……。

 ダンジョン自体に認められるだなんて、一体どうすれば……?」


「まぁ何かしらやりようはあるじゃろ。

 続きは例の浜辺にいったとき――またの機会としようか。……それまでに答えは出ているかもしれんがのう」


「え? それってどういうことですか?」


「ふふ、アイナの味方は妾だけじゃなかろう?

 (あるじ)はでーんと構えて、従者の報告を待つのも務めじゃて♪」


「はぁ……」



 ――それにしても突然話に出てきた『螺旋の迷宮』。

 私は『循環の迷宮』の6階までと、『神託の迷宮』と『疫病の迷宮』の限られた場所しか行ったことがないから、どんなところかとても気になってしまう。


 『螺旋』っていうくらいだから、何かがくるくるまわっているのかな……?

 螺旋階段を延々と下りるような感じだったり?


 ……でも深淵クラスだからなぁ。一筋縄じゃ、いかないんだろうなぁ……。

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