410.新しい武器
翌日、朝食をとっているとジェラードが戻ってきた。
昔の貴族の屋敷に探索をしに行っていたという彼の手には、怪しい輝きを放つ緋色の宝石が収められていた。
ジェラード曰く、今後の目的を果たすためのキーアイテムらしい。
……鑑定をしても、残念ながら効果はいまいち分からなかったけど。
ポエールさんたちは計測や調査を昨日の時点で済ませ、近くの村にも挨拶をしていたそうだ。
私たちも偶然ジャニスさんと会って、彼女の家に遊びに行ったわけだけど、それはそれで評価をしてくれた。
どこかに出向いたときは、少しの縁でも残しておくべきだ、と。
……まぁ確かに、そこから何かが始まるかは分からない。
現実は小説よりも奇なり――とも言うくらいだしね。
例えばジャニスさんがどこかの王女様で、私たちが作る国を強くバックアップしてくれる……そんな展開が、もしかしたらあるかもしれないし。
……いや、100%無いか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして馬車に揺られて3日、私たちはクレントスに帰ってきた。
最近の私たちのホームタウン。やはりここに帰ってくるだけでも、何だか落ち着いてしまう。
……私たちがこれから作る街は、もっと落ち着くことができるのだろうか。
「――はぁ。こやつらも懲りんのう……」
グリゼルダは、彼女の足元に倒れている荒くれ者たちを見下ろして言った。
ポエール商会の敷地に入ったところで、突然襲われてしまったのだ。
「ぐ、グリゼルダ様もお強いのですね……」
予想外の出来事を見たからなのか、感動することが何かあったのか、ポエールさんが声を震わせながら言った。
「ふん。こんな連中、何ともないわ。
しかし素手ではやはりスマートじゃないのう……」
「それなら私が手配の方を……」
「ああいや、もうすでに注文しておるのでな。
お主の心遣いだけ、もらっておくとしよう」
「かしこまりました、ありがとうございます!」
グリゼルダの凛とした雰囲気に、どうやらポエールさんは魅了されているようだ。
まぁ私の担当ではあるけど、所詮私は小娘だからね。
グリゼルダは生まれたばかりとはいえ、見掛けは艶っぽい感じだし、大人受けはきっと良いのだろう。
「それにしてもポエールさん、警備を少し強化した方が良いかもしれませんね。
大切なものを扱うときに、こんな荒っぽい人に狙われたら怖いですし」
「まったくその通りですね。ご心配をお掛けします。
今後は各所で人手が必要になってきますので、まずはここを重点に人を集めることにしましょう」
「横やりを入れられてもつまらないですからね。よろしくお願いします」
「……まぁ、無粋な連中がいれば、倒していけば良いがのう」
「そうなんですけど、無駄な時間は使いたくないんですよね……。
こういう人たちを相手にするくらいなら、まったり休んでいたいと言うか」
「そうじゃのう。戦いについて言えば、妾もおるし、ルークもおるし、そもそもアイナだって強いからなぁ」
「私は近距離の攻撃特化ですから、打たれ弱いですよ?」
打たれ弱い割に、死なないんだけどね。
……でも危険なのは嫌だから、少しずつ努力はしているのだ。今は絶賛、たまに走り込み中だ。
「それではこの連中は縛ってしまいますか。
アイナ様、少々お待ちください」
「お兄ちゃん、私も手伝うの!」
「ありがとう。それではリリーちゃんは向こうからお願いね」
「かしこまり! なの!」
元気に明るく手伝うリリーを見て和む。
何だか凄くぐるぐる巻きにしてるけど、まぁ動けなくなるなら良いか。
……解くのが少し大変そうなのは黙っておくことにしよう。
「ところでアイナよ、これからアドルフのところに行かんか?
さすがにそろそろ、妾の武器もできておるじゃろう」
「そうですね。まだ明るいですし、今から行きましょうか。
私の杖もできてるかもしれませんし」
「そろそろ次の神器のことも決めないといけませんよね!
ふふふ、今から楽しみです♪」
エミリアさんも、楽しそうに声を弾ませる。
そうそう、次の持ち主は『魔法使いの』エミリアさんの予定だしね!
「ところでエミリアさん、最近は魔法の勉強は順調ですか?」
「はい、新しくいくつか覚えましたよ!
最近は戦う機会も減ってきましたけど、これからもしっかりばっちり支援しますからね!」
……聞く限り、当然のことではあるが、光属性の支援魔法のようだ。
うぅーん、もし今の司祭風の服のままいくなら、似合ってくれるかなぁ……。見切り発車、しすぎたかなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アドルフさんに会うため鍛冶屋にいくと、いつも通りお店の人に悲しい対応をされる。
何だかさすがに、そろそろもう慣れて欲しいというか……。
……うん、あの人は私が作る街には出禁かな。
ふふふ、強権発動なのだ。
そうこうしていると、アドルフさんがお店の奥から出てきた。
「おお、みんな来たのか!
どこかに出掛けるって聞いてたから、その間に仕上げをしておいたぞ。
……あ、グリゼルダ様の武器も完成しておりますよ!」
「待ち侘びたぞ!
先ほども戦闘をしてきたんじゃが、やはり素手ではスマートでは無くてのう……」
「その割に、喜々として戦っていませんでしたか?」
「なぁに、戦闘は冒険の花形じゃからな!
それにあんな連中に、ルークの神器も使いたくはあるまい?」
「まぁ、そうですけど……」
一応、ポエール商会の人たちはそれなりの使い手ではある。
しかしやはり、基本的には一般人だ。一般人を越えた強さを持つ者がいるなら、素直に任せてしまった方が良い気はする――
……ものの、さすがに神器までいくとオーバースペックと言うか。
光竜王様直々の鉄拳も、どうかとは思うけどね。
「それよりも妾の武器じゃよ! 早速見せて見るが良い!!」
「はい、こちらです!!」
アドルフさんは自身満々に、ひとつの金属の束を出した。
グリゼルダはそれを受け取り、少しいじってみていると、突然金属の塊が扇状に開いた。
「おお♪」
早速コツを掴んだのか、グリゼルダは扇を閉じたり開けたりしている。
閉じているときの装飾も美しいが、開いたときは金属の色合いと装飾が見事に調和している気がする。
……そういえばミスリル製だけど、色は黒っぽく収まったのか。
「魔石スロットも、こっそりサポートを頂いたおかげで5つ付いていますからね!」
「こ、これっ!」
「はっ!? す、すいません……!」
「……んん? グリゼルダの武器にも、魔石スロットを5つ付けたんですか?
それって、回数制限があるようなことを言ってませんでしたっけ……」
「わ、妾の分は別腹じゃて。……のう?」
「まったくその通りでございます!!」
……アドルフさん、完全に言わされてる……。
いやまぁグリゼルダの力だから、私としても細かいことは言えないけどね?
「そ、それで使い心地は良さそうですか?」
「うむ、重さも動きもばっちりじゃな。
それに色合いとデザインがとても妾好みじゃ。さすが名うての鍛冶師……と言ったところじゃのう」
「あはは、アドルフさんにもふたつ名を付けてあげたいところですね」
「ふたつ名? ……ああ、アイナさんの『神器の魔女』みたいなやつか。
いやぁ、俺はそういうやつは別に――」
「そうじゃのう、妾が考えておいてやるわい。
アイナの仲間に相応しいものを付けてやらないとな」
「――おお、ありがとうございます!
楽しみにしていますので、よろしくお願いいたします!!」
……あれ?
ねぇねぇ、アドルフさん? グリゼルダに少し甘くないですか?
ポエールさんもそうだったけど、やはり大人の男性は少し艶っぽい女性の方が良いのだろうか。
エミリアさんもどちらかと言えば可愛い方だから、艶っぽい……とは言えないんだよね。
「でも、グリゼルダ。そういうやつを考えるのって、得意なんですか?」
「もちろんじゃ。妾のセンスを疑うつもりかえ?」
「まぁ、グリゼルダの命名を聞いたことが無いですから。
センスが良いか、悪いか、どっちかかなって……」
「疑り深いのう……。
そうじゃな、例えばリリーは『疫病の迷宮』じゃな」
「そのままじゃないですか」
「エミリアは『暴食の聖人』じゃな」
「理解はできますが、それなら賢者――」
「だから他のにしてくださいっ!!」
「ポエールは『微笑みの酒豪商人』じゃな」
「うわぁ、可哀想……。何だか、どちらかと言うと――
……ああ、そうだ。自分に付けるなら、どんなのですか?」
「妾にか? ……そうじゃのう。
『白銀の竜姫』というのはどうじゃ?」
「……何で一番、自分のがまともなんですか……」
それに格好良いし、可愛いし。
グリゼルダの外見的な特徴も押さえているし――
「……何故か、グリゼルダのふたつ名が決まりました」
「おお、そこら辺が良いんじゃな。
よしよし、それを考慮しながら検討するようにしよう」
「よろしくお願いします!!
――さてアイナさん、次は杖の番だな! もちろん出来上がっているぞ!!」
「ありがとうございます!!」
アドルフさんに渡された杖は、先日見た通りの感じではあったが、やはり完成品となれば良い物に見えてしまう。
これが次の神器――うん、何だか良いイメージが出て来そうだ。
……でも正直、やっぱり聖職者用の杖というか、魔法使い用の杖だねぇ……。
エミリアさんよりも、私の方が似合ってたりして……。




