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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
408/911

408.人心掌握

 手早く作りはしたものの、やはり料理を作る時間に比べれば、食べてしまう時間の方が早いわけで。

 食卓に並べられた料理はエミリアさんとみんなの活躍もあって、あっさりと全部なくなってしまった。


「――ごちそうさまでした! とっても美味しかったです!」


「ふふっ。エミリアの食いっぷりは気持ちが良いものじゃのう」


 そう言うグリゼルダは、控えめな量で済ませていた。

 量よりも質で、きっとじっくりと楽しむタイプなのだろう。

 ……お酒を飲みながらだと、もしかしたらちょうど良いペースなのかもしれない。


「リリーもお姉ちゃんくらい食べられるようになるの!」


「まずは美味しく食べるのが一番ですよ!」


「うん! たくさん美味しく食べられるように頑張るの!」


 ……エミリアさん、お願いだからリリーをフードファイトの道に(いざな)わないでくださいね。



「いやぁ、それにしてもアイナさんが手伝ってくれて助かったよ。

 弟はさぁ、台所にずっと立ってると疲れちゃうんだよね」


「おい、姉貴!」


「えーっ。だっていつもはこんなに作ってくれないじゃーん」


 ロブさんが諭したにも掛からわず、ジャニスさんは相変わらずのマイペースで話を進めていく。


「あの、どこかお身体が悪いんですか?」


「弟はね~、脚を昔、怪我しちゃったんだよー。

 海に出たら渦に巻き込まれちゃって」


「だから! お客さんにそういう話をするなよっ!!」


「ああ、何だかすいません……。

 ところでこの辺りは海の難所って聞いていたんですけど、どんな感じなんですか?」


 折角の機会だし、申し訳は無いけどロブさん本人に聞いてみよう。


「……一見すると穏やかに見えるんですが、少し離れると潮流が激しいんです。

 アイナさんたちも興味本位で海に出ないようにしてくださいね」


「ふむ、確かに流れが下へと向かっているところがあったからのう……。

 まぁそれもこれも――」


「え?」


「……いや、何でもない。

 まぁまぁ、妾たちは海には出ないようにしておくとしよう」


「はぁ……」


 グリゼルダは何かを言い掛けてから、言うのを止めてしまった。

 天候にすら影響を及ぼす彼女なのだから、もしかして海のことにも関係していたりして……?

 ……いや、何でもかんでも紐付けてしまうのはさすがに迷惑か。



 ――さて、それはそれとして。

 ロブさんは脚が悪いということなので鑑定してみると、状態異常に『歩行異常(中)』が付いていた。


 『歩行異常』は『歩行障害』よりも程度の軽い状態異常のようだ。

 つまりアイーシャさんやルイサさんよりは問題無いけど、それでも普通よりは問題がある……ということかな。


「ロブさん、お料理を教えて頂いたお礼にお薬を差し上げますね。

 きっと良くなると思いますよ」


「え? 薬……ですか?」


 私はアイテムボックスから薬を出すと見せかけて、薬をバチッと作ってロブさんに渡した。

 入れ物はポーション瓶を使ったから、見た目はただのポーションなんだけど。


「アイナさんのお薬はよく効くんですよ!

 頭のてっぺんから足の先までばっちりです!


 エミリアさんが私の代わりに得意げに言ってくれる。

 ……頭のてっぺんって、育毛剤の話かな……。いや、あくまでも例えかな……?



「アイナさんは錬金術師だとは聞いていましたが……。錬金術って、そんな薬も作れるんですか?

 えぇっと……」


「折角もらったんだし、飲んじゃえば?」


 少し渋るロブさんに、ジャニスさんはあっさりと飲むことを勧めた。

 信用しているから……というよりも、勿体ないから……という雰囲気ではあったけど。


「そ、そうだな……。

 それじゃありがたく、頂きますね」


「はい、ごくりといっちゃってください!」


 ロブさんは不安な様子で、それでもぐいっとポーション瓶を口にした。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――夕方、私たちはジャニスさんたちと別れて、最初の浜辺へと戻っていった。

 ロブさんの脚も無事に治り、彼はとても感動していた。


 そしてそこからの流れで、ジャニスさんから『うちに嫁に来い』と言われ、何とも居づらくなって早々に戻ることにしたのだ。

 ……もう少し料理を教わりたかったけど、そんな雰囲気の中ではどう考えてもしんどいからね。


「アイナはモテモテじゃの~♪」


「はぁ……。いやいや、あれはそういうのではありませんよ?」


「えー、アイナさん気付いていなかったんですか?

 お料理を運んでいるときとかも、ロブさんは微笑ましい目でアイナさんを見ていましたよ?」


「微笑ましいって……」


「ルークさんも、悔しそうにしていましたもん」


「し、してませんよ!?」


 エミリアさんがまたルークをからかい始める。

 だから私たちは、そういう関係では無いんですってば。


「……微笑ましい目で見ていたというのは、きっと私が教え子だったからですね。

 ロブさんから魚料理をいろいろと教わりましたので。次の冒険のときは、魚料理も作ってみますよ!」


「おぉー! それは楽しみです!

 次はどこに行きましょう! 迷宮ですか!?」


 ……冒険に行くと言いつつも、その目的は完全に魚料理になってしまっている。


「お姉ちゃん、迷宮に行きたいの?

 ママが許してくれるなら入口を開けるよ?」


「え、えぇっ!? リリーちゃんの迷宮はちょっと、レベルが高すぎるから……!」


 リリーの提案に、さすがのエミリアさんも断った。

 そもそも疫病にまみれたあの迷宮、中に入ったら食事どころではない。

 それに行き帰りの時間だって、リリーがどこからでも入口を開けることができるから、そもそも発生しようがないのだ。


「残念なの……。

 でも入りたくなったらママに言ってね!」


「う、うん……」


 ……果たして『疫病の迷宮』に入りたい人なんているのだろうか。

 疫学の研究者はサンプルを取りに入りたいかもしれないけど……それくらいじゃないかな?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 最初の浜辺に戻ると、ポエール商会の面々が野営の準備をしていた。

 夜の様子もしっかり見るために、一晩だけ泊まることにしていたのだ。


「みなさま、お帰りなさいませ!

 食事まではもう少し時間がありますので、どうぞおくつろぎください」


「すいません、準備までして頂いて。私たちも手伝うことはありますか?」


「いえいえ、ここは私どもにお任せを!

 ……あ、でも、もしよろしければ、その――」


 ポエールさんは何かを言い淀みながら、私とグリゼルダをそれぞれちらっと見た。


「ふむ……。そうじゃな、せめてもの礼はしてやらんとな。

 アイナよ、『竜の秘宝』はまだあったかのう」


「あー……。

 そうですね、もう少しありますけど」


「それでは食事の際に、あるだけ振る舞うとしよう。

 妾はいらんから、商会の全員に飲ませてやると良いぞ?」


「ほ、本当ですか!!? ありがとうございます!!」


 グリゼルダの言葉に、ポエールさんは歓喜の声を上げた。

 ……ポエールさんはあのお酒のことを夢に見てしまうくらいだから、お礼としてはきっと最良のものになるだろう。


 そんなことを考えていると、グリゼルダが耳打ちをしてきた。


「――それにな、人心を掌握するにはあの酒は持ってこいなんじゃ。

 ほれ、ここは全員に飲ませてやって、人望を集めておくと良い♪」


「う、うわぁ。打算的ですね……」


「国を作ろうとする者が、物事を打算的に考えないでどうする。

 そういうことが苦手なら、妾がこれから教えていってやるからな♪」


 悪戯っぽく笑うグリゼルダではあるが、それは私のことを思ってのことだ。


 ……やっぱり彼女の言葉の端々からは、年の功を感じてしまう。

 肉体的には生まれたてなんだけど、『転生』は基本的に前世の延長みたいなものだからね。

 私だってこの世界に転生してきてから、まだ一年も経っていないわけだし。

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