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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
407/911

407.姉と弟と

「まさかダブルスコアで負けるとは……」


「さすがグリゼルダ様。一歩及びませんでした……」


 突然行われた釣り勝負の結果は――


 グリゼルダが15匹

 ルークが14匹

 ジャニスさんが7匹


 ……という形で終わった。


「ふむ、釣りとはなかなか面白いものじゃのう。

 ジャニスはもう少し精進すると良いぞ。ルークはなかなかやりおるわい♪」


「ありがとうございます!」


 最後の最後はグリゼルダとルークの一騎打ちで、ジャニスさんは少し置いてけぼりを食ってしまっていた。

 言い出しっぺであるにも関わらずその(てい)たらく。少し気まずかったものの、それよりも他の二人のデッドヒートが見応え十分だった。



「はぁ~、負け負け!

 でもあんたたちがうちの村に来てくれれば、漁獲量も増えて安泰だよ!」


「それは何よりじゃが、妾たちは漁などはせんぞ?」


「え!? それじゃ、何のためにこんなところに引っ越してくるの!?」


 ジャニスさんは意表を突かれたように、驚いて聞いてきた。


「えーっと……、私がこの辺りで錬金術のお店を出したいなぁ……って。

 ほら、自然に囲まれたところで……みたいな?」


「またまたー! こんなところにお店を出しても、誰も来ないよ?

 もしかしてアイナさん、お金持ちなの? 道楽?」


「いやいや、そういうわけでは無いんですけど……」


「アイナさんはSランクの錬金術師なんですよ!

 だからこの辺りでお店を出しても、お客さんはきっと来ると思います!」


 私が少し言い淀んでいると、エミリアさんがフォローしながらアピールをしてくれた。

 ……自薦よりも他薦。エミリアさんが言うことで、私の凄さが自然な形で伝わってくれる……と信じたい。


「ふぅん、Sランクかぁ……。

 そういうランク付けは詳しくないけど、聞くからに何だか凄そうだね!」


「あはは……。まぁ、ぼちぼちですね……」


 自分から詳しく言い直すのも何となく面倒……もとい嫌らしい気がしたので、ここは適当な感じで終わらせておくことにした。



「――まぁそれよりも、じゃ。

 ジャニスよ、約束通り魚料理を用意してもらおうかのう♪」


「ぐぬぬ、銀貨5枚です!」


 何故かお金を求め始めるジャニスさん。

 それは話がちょっと違うんだけど、その流れでグリゼルダがお金の話に念を押す。


「そうそう、賭け金の金貨1枚も妾に寄越すようにな!」


「今なら銀貨5枚の食事が金貨1枚で無料になります!

 お得ですね、毎度あり!!」


 ……へ?


 よく分からない流れで、ジャニスさんは金貨1枚の賭け金をうやむやにしようとした。

 別に賭けなんて、誰も本気にしてなかったからいいけど――


「ふむ、仕方の無いやつじゃな。まぁ金貨1枚はいいじゃろ。

 妾はアイナから小遣いももらっておうからのう」


「アイナさん、私にもお小遣いちょーだい!」


「……いや、何で会ったばかりの人にあげなきゃいけないんですか……」


 ジャニスさんは何やら、テレーゼさんとは違う感じで、ぐいぐいとくるタイプのようだ。

 よく分からない流れを遠慮無くぶち込んでくるから、しっかり自分を保って流されないようにしないといけない。


「まぁ、勝負は勝負だからね!

 約束通り、釣った魚で魚料理を振る舞ってあげるよ!

 それじゃ私の村に、れっつごー!!」


 勝負は勝負……! しかしそうは言うものの、賭け金の金貨1枚はどこかに行ってしまったようだ。

 うーん、まぁいいけど……。いや、いいのかなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ジャニスさんの明るく無責任なトークに振り回されながら付いていくと、寂れた空気が漂う村に到着した。

 規模としてはガルーナ村よりも小さくて、それこそ細々と暮らしている……そんな感じだった。


「――お客さん、姉貴が迷惑を掛けて、申し訳ありませんでした」


「なによぉ! 折角お客さんを連れてきたのに!」


 ジャニスさんの家で、がっちりした体型の弟さんと会うや否や、突然姉弟ゲンカのようなものが勃発した。

 弟さんの様子を見るに、ジャニスさんの言動や行動はいつも通りのことらしい。


 ……私は面白い人は好きだけど、万人受けするかと言えば、きっとしないんだろうなぁ……。


「どうせ姉貴の無茶な話に強引に付き合わせたんだろ?

 まぁ、釣ってきた量は凄いけど……。

 みなさん、少し待っていてください。じゃんじゃん料理を作っていきますので!」


「弟の料理は絶品なんですよ! ほらほら、早く~!」


「姉貴は手伝えよ!!」



 私たちが呆けている中、ジャニスさんと弟さんの会話は止まらない。

 何とも間が絶妙で、長年の付き合いが感じられる。

 ……ちなみに弟さんの名前は、ロブさんと言うらしい。


「ロブさん、ご迷惑をお掛けします。

 何か手伝いますか?」


「いえいえ、お客様はゆっくりなさってください!

 クレントスからここまではやはり遠いですし、きっとお疲れでしょう?」


 ジャニスさんに対して、ロブさんの心遣いがキラリと光る。

 ダメな姉に、デキる弟……そんな感じがびしばしと伝わってきてしまう。


「ありがとうございます、それではお言葉に甘えさせて頂きますね」



「よーし、リリーちゃん! ゲームして遊ぼう!!」


「分かったの! ゲームって何をするの?」


「デルポリング! ルールは知ってる?」


「初めて聞いたのー」



 離れた場所では、ジャニスさんとリリーが楽しそうに話をしている。

 他のみんなはその様子をまったりと眺めているようだ。


「……ジャニスさんって、何だか面白い人ですね」


「ははは、やかましいくらいに賑やかでしょう? お客さんたちも無茶なこと言われたんじゃないですか?」


「釣り勝負を持ち掛けられました。金貨1枚を賭けさせられて……」


「ええ……? も、申し訳ありません……。

 もしかして、払わさせられましたか……?」


「いえ、私の仲間が1位と2位だったので大丈夫でした。ジャニスさんが3位で」


「……漁師が釣り勝負を持ち掛けて、しかもビリだとは……。

 お客さんたちには申し訳無いですが、何とも嘆かわしい……」


「あ、あはは……」


 こと今回については相手が悪かったような気もするけどね。

 何せ万能超人と光竜王様が相手だったのだから。



「それよりも台所は大丈夫ですから、向こうでみなさんとゆっくりしていてください!」


「えっと、やっぱり手伝っちゃダメですか?

 私も旅先でよくお料理をするんですが、魚料理ってあまり作ったことがなくて」


「旅先で、ですか。凄いんですね!」


「アイテムボックスを持っているから、材料を結構持ち運べるんですよ。

 その関係で、食事は私が準備したりするんです」


「ふむふむ、なるほど……!

 食事は旅先での楽しみですからね。それでは申し訳ないのですが、お手伝いをお願いできますか?

 ……姉貴は、あの……すいません……」


 ジャニスさんの方を見ると、リリーと何やら騒いでいるようだった。

 どうやら今はフィーバーモードに入っているらしい。……どんなゲームをやっているんだか。


「いえ、うちの子たちも楽しそうなので、このままにしてあげてください。

 私はロブさんのお料理を見せて頂きますので!」


「分かりました。所詮は漁師の料理ですが、お教えできることはお教えしますね。

 俺は祖母から教わったので、それなりにいろいろ作ることができますよ!」


「わぁ、楽しみです!

 ちなみにジャニスさんは、お料理できるんですか?」


「……できると思います?」


「ワンチャンで……?」


「残念ながら、ハズレです……」



 ジャニスさんとリリーたちが楽しく遊ぶ中、私とロブさんは話をしながら料理を作っていった。

 教わることも多く、これからの旅先でも役に立てることができそうだ。

 やっぱりレパートリーが増えれば、食事の楽しみも増えるというものだし、ね。

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