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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
404/911

404.国を作ります!

 夕食を終わらせたあと、私は改めて話をすることにした。


 客室に呼んだのはルークとエミリアさん、ジェラードの三人。

 私の仲間になってくれた、最初の三人だ。


「アイナちゃん、今日はずっとアイーシャさんのところだったでしょ?

 疲れていないの?」


「あはは、疲れてますよ……。

 久し振りに勉強みたいなこともしてきましたし」


「お勉強ですか? 魔法の勉強はたまにやっていますけど、それです?」


「別件ですよー。今日のはまさに、THE・勉強って感じの勉強でした」


 政治とか経済の話だなんて、最近の情勢を追うだけでも『勉強』という気がしてしまう。

 今日は政治学とか経済学の話までにはならず、近年の出来事を追うくらいで終わってしまっていたけど。

 ……それなのにこの疲労感。人間、合う合わないがあるもんだなぁ……。


「では夜も遅いことですし、お話を早速お願いします。

 アイナ様、今日はどういった内容でしょう」


 雑談を打ち切って客室に呼んだものだから、何か話したいことがあるのはバレバレだ。

 スムーズに話せるように、ルークが場を取り仕切ってくれた。



「実は新しい目標ができました。

 私の旅は神器作成を目指していたものだけど、次は別件になります」


 その言葉に、三人は軽く身体を揺らした。

 特に表情には出していないが、何が来ても良いように身構えたのだろう。


「……次の神器の話では無かったんですね。

 『火竜の魂』も手に入れていましたし、その話かと思っていたのですが……」


 エミリアさんが少し、残念そうに呟いた。

 確かに『火竜の魂』は神剣カルタペズラを消滅させたときに手に入れているし、元にする杖もアドルフさんがほぼ作り終えている。


「そうですね、その話もしないと……!

 でもそれより、私たちの安全とこれからに関わることなので、今日はその話をさせてください」


「む、『これから』……ですか。分かりました、そっちの方が大切ですからね!」


 最近は安定しているとは言え、私たちはまだまだ追われている身だ。

 まずはここを解決したい――これは全員の悲願でもある。


「……新しいこと、ですか。

 アイナ様には毎回驚かされてしまいますが、今回はどのようなことでしょう」


 ルークは少し微笑みながら、そう言った。

 あらかじめそう言うことで、話すハードルを下げてくれているのだろう。



「――実は、国を作ろうと思っています」



「「……国?」」


 私の言葉に、ルークとエミリアさんは驚きを押し殺しながら言った。

 さすがにやっぱり、スケールが大きいものだから仕方が無い。


 ……反面、ジェラードは腕を組みながら、静かに頷いていた。


「あれ? ジェラードさんは驚かないんですね?」


「ふふふ♪ 次はこう来ると思っていたよ♪」


「えぇー……。読まれていたんですか……?」


「外国に渡るとか、ヴェルダクレス王国を何とかするとか、安全を得るにはいくつか方法はあるだろうけどね。

 今までのアイナちゃんの行動なら、思い切って国とか作っちゃうかなーって♪」


「ジェラードさん、アイナさんのことをとても理解しているんですね……」


 エミリアさんは驚きながらも感心していたが、ルークは少し微妙な感じで黙っていた。

 ……もしかして、悔しかったのかもしれない?


「まぁまぁ、これはアイーシャさんに言われて考え始めたようなものだから……。

 私としては、私たちの安全もそうだけど、リリーが普通に暮らせる街を欲しかった――っていうのが最初のきっかけなんです」


「リリーちゃん、ですか?

 それじゃ、決めたのは本当に最近のことなんですね」


「はい。具体的には、以前のメイドさんたちがリリーを怖がって逃げちゃったとき……ですね」


「ああ……。あれは今でも辛いというか、切ないというか……。

 リリーちゃん、とっても良い子なのに……」


「このお屋敷の者は全員がそれを知っています。

 つまりアイナ様は、このお屋敷のような国を作りたいと……」


「うん、そういうこと。

 ただ人が多くなれば、そんなに上手くはいかないとも思っているの。

 だからまた、みんなを巻き込んでしまって申し訳ないんだけど……、また手伝ってもらえますか?」


 私の言葉に、一瞬間が空いたあと――



「私はどこまでも、アイナ様に付いていきますから」


「国ですかぁ……。何だかいろいろ、面白そうですね。

 王都で無くしたものも、たくさん作っていきましょう!」


「僕は準備をしていたから、もちろん参加させてもらうよ♪」



 ――三人が三人とも、好意的に受け入れてくれた。

 さすがに大きな話ではあるが、今までの日々の中で、耐性が付いてくれているのだろう。


「……ありがとうございます!

 それじゃ、これからもよろしくお願いしますね!!

 ところでジェラードさん? 準備って何ですか……?」


「まぁまぁ、それはあとのお楽しみさ♪

 それで、国を作るっていってもなかなか難しいとは思うけど……どうやって作るの?」


「大まかに言うと、まずは街を作ります。将来、首都になる場所が良いですね。

 そのあと周辺地域を取り込んで経済圏を作って、人や物の流れができたら国として宣言しようかなって」


「……なるほど。

 まずは街か。いろいろ整うまでに、王国からの妨害を防がなくちゃいけないね」


「はい。……まだ広まっていない話ですが、王様が先日亡くなったそうです。

 王位継承問題も起きているそうで、さらに冷害などの対応もあるらしく――」


「確かに王国は混乱していくだろうね。

 それなら今が、事を進めるチャンスだ……っと」


 さすがにジェラードは理解が早い。

 実際、私の考えにも甘いところはあるだろう。でもきっと、その辺りは飲み込んで話してくれているんだろうなぁ。


「それでアイナさん。国を作るっていっても、どこに作るんですか?」


「アイーシャさんと連携したいので、クレントスが隣接するように作りたいんです」


「ふむ……。それでしたら、私は北部を推したいですね」


 ルークが思いがけず、具体的な提案をしてきた。

 私は北東部で検討していたけど、北部は北部で……いや、もう少しいくと大きな山が並んでいて、少し狭そうなんだよなぁ……。


「ちなみに何で北部が良いの?」


「北部には『神託の迷宮』があるじゃないですか。

 そこに国を構えるのであれば、アイナ様の神秘性も増すかなと……」


「そうですね! 何と言ってもアイナさんは、絶対神アドラルーンの使徒ですから!

 私としても、それは推したいです!」


「なるほど、その気持ちはとても分かります……。

 でもあそこ、クレントスから近いんですよね。馬車で1時間くらいの距離だし、もっと遠くにしたいです……」


「「確かに」」


 クレントスはこの辺りで最も大きい街だから、さすがにその距離で首都を作るのは避けたかった。

 当然のことながら、アイーシャさんからも文句も来てしまいそうだ。


「……そうすると、北東部になるかな。

 結構な広さの土地があるし、魚も少しくらいなら取れるからね」


 ジェラードはそう言いながら、彼のアイテムボックスからこの大陸の地図を取り出して広げた。

 なかなか使い込まれており、風格のようなものすら滲み出ている。


「位置的には北東部か、南部か、西部かなと思っていたんです。

 でもルークの話を聞くに、『神託の迷宮』は領地に含めたいですね」


「迷宮は世界にいくつかあるけど、その数も国のステータスになっているからね。

 『神託の迷宮』だけは例外だったけど」


「あそこには何もありませんでしたからね……。

 でも私にとっては、グリゼルダと出会った大切な場所になりましたよ!」


「……『出会った大切な場所』というなら、ガルーナ村も領地に入れたいですね!」


 私の言葉を受けて、エミリアさんは地図上でガルーナ村の場所を指差した。


「む……。

 それなら僕だって、ミラエルツを入れたいよ!」


 ジェラードも、負けじと地図上でミラエルツの場所を指差した。


「え、えー……?

 ミラエルツまでって、結構な距離と広さじゃない……?

 ねぇ、ルーク?」


「私としましては、クレントスが入っていれば大丈夫です」


 ルークはルークで余裕の微笑みを浮かべている。

 これはいわゆる『勝ち確定』が故の表情だろう。


 ……っていうか、何で張り合ってるの!?

 っていうか、いつの間にか領地が広がってるし!?



「う、うーん……。

 まぁ国として宣言するのはもっと後になるから、とりあえず首都の場所を決めたいんだけど……」


「さっきの三択なら、北東部で良いんじゃないかな。

 海を渡れないっていうのは、ひとまずのところ防衛にもなるわけだし」


「それに南部や西部だと、まわりから一気に攻められると辛いですもんね」


「私としても、北東部が良いかと思います」


 ……おお、自然な感じで票が集まってしまった。

 それじゃひとまず、北東部で進めてみようかな。


 進めていって、もしダメなようなら別のところに街を作り直せば良いわけだしね。



「……それにしてもアイナちゃん。

 国や街を作るだなんて、とっても凄いことだけど……お金はどうするの?」


 話の切れ間で、ジェラードが現実的なところを突いてきた。

 確かに自分たちですべてのお金を賄うのは無理なんだけど――


「住みたい人に、自分たちでいろいろ作ってもらおうと考えています。

 私には私しか作れないもの――錬金術がありますから。それを見返りにして、みんなにお金を出してもらおうかなって」



 ……例えば病気に苦しんでいる、貴族や富豪。

 例えば研究素材が手に入らなくて困っている、魔法使いや学者。

 不死を望む、強欲な連中――


 求めるものが手に入るなら、大金をいくらでもはたく人間はたくさんいるだろう。

 そこまでいかなくても、より快適な生活を目指す人だってたくさんいるはずだ。


 そんな人たちの願いを、欲望を、私は錬金術でひとまとめにしていく。

 私の国は、そこが根本になる。


 ――これが私の、私の国が示すことになる方針なのだ。

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