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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第3章 鉱山都市ミラエルツ
40/911

40.神の名は

「はい、お茶をどうぞ」


 気落ちするエミリアさんにお茶を出す。


「ありがとうございます……。はぁ、やはり温かいものは良いですね」


 そう言いながら、エミリアさんは無意識に手に持ったお菓子を食べ始めた。


「もぐもぐ……。――はっ!?」


 自分を自分で信じられないような表情を浮かべながら、エミリアさんは恐る恐るこちらを向く。


「いえ、あの。別に夜にお菓子を食べるのがダメだなんて言ってませんけど……」


「で、でも! こんなところを見られたら、絶対に『食いしん坊』だって思われちゃうじゃないですか!!」


「え!? いまさらですか!?」


「えっ!?」


 何故そこを驚きますか……。もしかしてまだ食いしん坊キャラの自覚が無かったんですか……?


「いえ、でも私は小食よりもたくさん食べる人の方が好きですよ? 私が小食なだけに」


「え……? そ、そういうものですか……?」


「……というか既に、食事時にいつもたくさん食べてるじゃないですか。

 少なくとも私は気にしていませんし、ルークも同じ様子ですし。別にたくさん食べても良いんじゃないですか?」


「ふむぅ……。やっぱり変わった方々ですねぇ……」


 不思議そうな表情を浮かべるエミリアさん。


「そうですか? 変わってますかね……?」


「ええ、あの……聖堂の方々はなんというかこう、ちょっと諦めムードでして……。

 それで、せめて外の人にはバレないようにって、すごく言い含められていたんです」


「……へぇ?」


「神に仕える者が無駄に大食いなんて恥ずかしい、と……。それでガルーナ村に向かうときも、強く言われていたんですが……」


 そういえば、ファンタジー作品で馴染みのある『七つの大罪』のひとつに『暴食』ってあるよね。

 神に仕える者としては、確かに恥ずかしいかもしれないけど――


「まぁ、私は無宗教ですしね。エミリアさんが美味しく、感謝して食べているなら何の問題も無いと思いますよ」


 その言葉を聞いて、エミリアさんはほろほろと涙を流し始めた。


「ああ、そんな価値観があるだなんて……。無宗教って素晴らしいですね、私も――」


「あ! その先はエミリアさん、多分言っちゃダメなヤツ!」


「――……はっ!? し、失礼しました。私の信仰がそんなことで揺らぐなんてこと、絶対にありません!」


 ……いや。今一瞬、危なくなかった……?


「というわけで少なくとも私たちと同行してる間は、特に気にしなくても良いかと思いますけど」


「ああ、アイナ様……。なんと慈悲深いことを……」


「いえいえ――って、ちょっとエミリアさん! そんな理由で呼び方をグレードアップしないで頂けますか!?」


「えぇ……? それくらい感謝しているというのに……。ルークさんばっかりずるい!」


「いや、ルークとは完全に主と従者の関係ですので……。いちおう」


「……なるほど、そこが一線ですか。そうしたら私はダメですね、聖堂の所属ですし」


「はい、エミリアさんは今までと同じように呼んでください」


「そうですか……分かりました、アイナさん」


 うん、エミリアさんはこっちの方がしっくりくるよね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、歓談をしばらくした後――


「ところでエミリアさんの聖堂って、どういう神様を信仰しているんですか?」


「え? どうしたんですか、突然」


「いえ、ちょっと思うところがあって。基本的なところを知っておきたいなと」


「なるほどです。でも私のところはメジャーですから――」


 そこまで言って、エミリアさんはハッと気付いた。


「あ、そうでしたね。アイナさんは知らないかもしれませんしね。では軽くご説明を」


 はい。この世界の常識を知らないところがあるんです。

 思い出してくれたようで、話が早くて助かります。


「私どもの信仰はルーンセラフィス教と言いまして、絶対神アドラルーンを頂点に、6柱の神々がいらっしゃいます」


「ふむふむ」


「6柱の神々は六属性をそれぞれ司り、アドラルーンの元でこの世界を正しく導いていらっしゃいます。

 ただ、この神々の振るわれる力というものが『絶対的なもの』では無いのです。

 人々の信仰が強く正しいものであればより強大なものとなりますが、

 人々の信仰が弱かったり悪しきものであれば……その力は小さいものとなり、この世界は荒れていくとされています」


「なるほど……。この世界は神々だけではなく、人間の信仰も力になって作られているんですね」


「その通りです! アイナさんは理解が早いですね、入信しませんか?」


「しません♪」


「そんなぁ。……アイナさんの力を信仰に役立てて頂ければ、どれだけの方が救われるか……!」


「信仰は置いておいて、出来る限りは人助けもするのでご容赦を」


「残念ですが、分かりました。……というわけで、簡単に説明するとこんな感じでしたが、大丈夫ですか?」


「大体分かりました! ……ところで神々が司っているっていう『六属性』って何ですか?」


「あ、それはいわゆる一般的な魔法属性と同じものです。『火』『水』『風』『土』『光』『闇』の6つですね」


「え? 『闇』も含まれるんですか?」


「はい? それは『光』が在るから『闇』も在りますし、『闇』が在るから光も在るわけで――。

 ……あ、いえ、そうですよね。確かにご存知ない方からすれば不思議かもしれませんよね。闇属性はいわゆる呪いや不死者が属するものですし」


「そうそう、それです!」


「ですよね。ただ、そうは言ってもそれを除外する教義では無いんです。

 すべての現象がこの世界を作っているということを受け入れ、それを正しく導いていくのがルーンセラフィス教の教えなんです」


 ふーん、何かちょっと珍しい感じの信仰だよね?

 私のイメージであれば、闇属性なんて悪魔や悪者のイメージなわけだし。


 ただ教義がそうだからといって、悪魔や悪者を等しく愛するということも無いそうだ。

 そもそもガルーダみたいな闇属性ではない魔物も普通に倒しているわけで。属性自体とそれに属する者については、完全に別解釈なんだろうね。


「ふむふむ。私の知っている宗教は『闇』がどうも敵対する感じになっているので、そういう意味では新鮮に感じました」


「アイナさんの知っている宗教は、そうなんですね。確かに敵対するような者が在れば、信仰を広めるにも分かりやすいですし……」


 ふむ、色々あるもんだなぁ。

 ちなみにルーンセラフィス教のいうことが正しいのであれば、私の会った神様って絶対神アドラルーンってことになるんだよね。

 うーん、あんなに平和そうなおじいちゃんがそんなに立派な神様だったとは?


「ところでエミリアさん、神様ってどんなお姿をされているのですか?」


「ええ、伝説上はとても立派で神々しいお姿を――とは言っても、それは昔の画家が描いた絵でしか残っていないんです」


「実際に会った人っていないんですか?」


「実際にですか? いえ、それはさすがに……」


 エミリアさんは苦笑しながら言う。

 私は会ったことがあるけど、まぁ信じてくれないだろうし、いちいち言うことでも無いかな。


「それじゃ、6柱の神々と会ったことのある人もいないですよね」


「そうですね。ただ、6柱の神々の眷属については――いわゆる『竜王』がそれに当たるという説もあります」


「竜王、ですか? そういえばいつだったか、ルークが話してたなぁ。確か……ガルーナ村に行く最中だったかな」


「竜王の存在自体は割と知られているのですが、実際に会うことはとても難しいと言われています。神々の眷属というのであれば、それも納得ですけど」


 うん、確かに納得。そんな高位の存在がおいそれとそこら辺を歩いていても困るわけで。




「――……ふわぁ。あっと、もう寝る時間ですね」


 気が付くと23時といったところか。さすがにそろそろ眠くなる時間だ。


「本当ですね。アイナさんも明日はお寝坊しないように、早く寝ないと!」


「う……。そ、そうですね。それじゃお話ありがとうございました」


「いえいえ、私も楽しかったです。またお喋りしましょうね! お菓子も用意しておきますから!」


 あ、はい。

 そのときはお茶も持参させて頂きます……。


「はい、それではおやすみなさい」


「はーい、おやすみなさい!」




 やっぱりお喋りは良いものだ。エミリアさんのことも知ることができたし、聖堂のことも知ることができたし。

 うーん、今日はゆっくり眠れそう!


 ちなみに自分の部屋に戻るときにルークの部屋の扉をノックしてみたけど、まだ戻っていないようだった。


 大丈夫かなー? ちょっと心配だけどいつ戻るか分からないし、今日は寝ちゃおうかな。

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