397.開催決定
遅い夕食を済ませて、そしてそろそろ休もうかと思ったときに、クラリスさんから声を掛けられた。
「アイナ様、お疲れのところ申し訳ございません。
このあと、お時間をよろしいでしょうか」
「え? 明日じゃダメ?」
「いえいえ、是非是非」
「うーん。……じゃぁ、あんまり長引かなければ。
ところでグリゼルダの部屋って、準備できた?」
「滞りなく準備できております。食事後、ルーシーさんに案内させますので」
「りょうかーい。
グリゼルダ、部屋はメイドさんに連れていってもらってください」
「うむ、承知した。突然のことなのに、手間を掛けるのう」
「とんでもございません!」
グリゼルダに話し掛けられて、クラリスさんは目をキラキラさせた。
んん? これは一体、何事か……。
「……それじゃみんな、今日はお疲れ様でした。
リリーは私の部屋に、先に戻っていてね」
「分かったの!」
「アイナさん、また明日です!」
「私は今晩、警備の手伝いをするので……。何かあれば声をお掛けください」
おお、ルークも今日は疲れたろうに、まだ働いてくれるのか。
本当に何だかありがたいやら、申し訳ないやら……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私が書斎でまったりしていると、クラリスさんがお茶を持ってきてくれた。
「お時間を頂きまして、ありがとうございます」
「ううん、大丈夫だよ。座る?」
「いえ、大丈夫です」
夕食の準備で疲れているだろうと思って勧めてみるも、やっぱり立場的には座れないか。
「えっと、それで何かな?」
「アイナ様、あの方はいったいどういう方なのでしょうか!」
「あの方……?」
……まぁ状況的に、グリゼルダのことだろうけど。
「あの気品溢れる佇まい! さり気ない所作から滲み出る高貴な貫録!
そこらの王族などでは到底出せない、ただならぬ雰囲気を感じます!!」
「高評価だね……。
いや、別に教えても良いんだけど……急に、どうしたの?」
「私の血が! メイドとしての魂が!
あの方をもてなしたくて仕方が無いのです!!」
「ふぇ……?」
クラリスさんの目がやたらとキラキラしている。
まるで憧れの人を目の前にしたような、心から好きな仕事をしているような――
……そういえば王都でお食事会を企画したときも、大商人のピエールさんや大司祭様を招待したがっていたっけ。
きっと偉い人や凄い人をもてなしたいという思いが強いのだろう。
「ところで本人から聞いたのですが、グレーゴルさんを警備メンバーに雇用するというお話もあるんですよね?
加えまして、王都から来て頂いたレオボルトさんの準備もできたようです。
あとはリリーちゃんの歓迎会もしておりませんので、全部をひとまとめにして、何かしてはいかがでしょうか……!」
「おー、それは良いね!
そしたら、私がお世話になってる鍛冶屋のアドルフさんも呼びたいなぁ」
「良いお考えです!
今回はあまり増えすぎないようにしたいのですが、他にはどなたかいらっしゃいますか?」
「そうだねぇ……」
あとはジェラードと、今後頑張ってもらうことになるポエールさんくらい……?
アイーシャさんやクレントスのお偉いさんたちは、ちょっと違う気がするかなぁ。
今回は接待や顔繋ぎの場ではなく、純粋に楽しみたいから――
「……ジェラードとポエールさんの、2人かな」
「かしこまりました!
ただ、ジェラードさんは基本的に所在不明と伺っているので、スケジュール的に合わせられるかどうか心配です」
「あ、確かに。
……でもこういう話をしてると、次の日あたりにひょっこり来るものだよ。ジェラードは」
「そ、そうなんですか……」
「だからもう、最速で開催しちゃえば良いんじゃないかな?」
「ではお言葉に甘えまして、そうしましょう! 明日開催いたします!」
「はやっ!!」
……まぁほぼ身内だし、ポエールさんは多少の無理をしてでも来るだろうし……。
ここは強行開催でも、問題は無いかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやー、びっくりしたよ!!」
ジェラードが開口一番、そんなことを言った。
……噂をしたら、本当に次の日に来てしまった。
もしかして、どこかに盗聴器が仕込まれてる?
そうでなければ、何らかの運命によって繋がってしまっているとか……。
「あはは、いろいろ変わりましたからね。
ジェラードさん、3週間くらいはいなかったでしょう?」
「こっちもいろいろあったんだよー。
それでようやく戻って来れたと思ったら、どこかで見たメイドさんが玄関から出てくるし!
……いやぁ、時間が昔に戻ったかと思っちゃったよ」
「少し前にメイドさん、全員逃げちゃったんですよね。まぁ、いろいろあって」
「逃げた、って……。えー、それは斡旋したところにクレーム入れた?」
「いや、そこは仕方の無い理由があって……。
だから今の5人が来てくれたのは、本当に助かったと言うか」
その流れのまま、私はジェラードに掻い摘んで話をした。
もちろんリリーの正体を含めて、だ。
「――……なるほど。
なかなか信じられない話だけど、まぁアイナちゃんだしね……」
今回に限っては、その理解はとても助かる。
理解に困ったときの免罪符。それが私!
「さらに昨日、スペシャルゲストがやって来たんですよ。
それがあって、昨日は帰るのが遅くなってしまったんですが」
「へぇ……? でも『疫病の迷宮』の子に比べれば、驚くことは無いと思うよ♪」
「そうですよね!
転生してきた光竜王様だなんて、驚きが足りませんよね!」
「……へぁ?」
驚かせる気が満々だった私に対して、しっかり驚いてくれるジェラード。
ふふふ、この超越した存在のツートップには敵うまい。
「それで今晩、みんなの歓迎会みたいのをやろうと思っているんです。
ジェラードさんも歓迎される立場なので、ちゃんと参加してくださいね!」
「う、うん、分かったよ……。
迷宮に、竜王……。迷宮に、竜王……」
「本当ならジェラードさんの予定を確認してから決めたかったんですけど、最近戻ってなかったじゃないですか?」
「いやー、それが僕の方もいろいろとあってね。
……アイナちゃんほどでは無いんだけど」
「最近の私よりも凄いことがあったら、本当に凄いと思いますよ……」
「だよねー……。迷宮に竜王だもんねー……」
「それで、やっぱり人魚伝説を調べていたんですか?」
「そうそう。話を聞きに行ったらさ、急に襲われちゃって。
いやー、参った参った」
「えぇ……?」
「何か聞かれたくないことでもあったんだろうね♪
ある程度の情報は頂いたから、もう少し精査してから話すことにするよ」
「……ジェラードさん、何でおとぎ話を調べてて襲われるんですか……」
謎が謎を呼ぶ、今回のジェラードの調査。
でも、だからこそわざわざ調べているとか……?
……うーん、まったく謎である。




