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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
396/911

396.平和な帰り道

「ふーむ……。お主は面白い存在じゃのう……」


「えへへ。おばちゃんも強そうなのー」


「おばっ!?」


 『神託の迷宮』からの帰り道、私たちは行きと同様、馬車に揺られていた。

 リリーとグリゼルダ様……もとい、グリゼルダは何となく良い雰囲気で話をしていた。


 実はちょっと心配だったんだよね。

 鑑定スキルによれば、『疫病の迷宮』は第七神の加護を受けているらしい。

 そしてその第七神は、ルーンセラフィス教では異端視されている神なのだ。


 ……そこら辺の事情をまったく知らない状態で、ただ雰囲気で心配していただけなんだけど。



「――エミリアさん。もしかしてグリゼルダ様って、神話とか伝説に詳しいんでしょうか」


「そうですね、本人が神話みたいなものですから……。

 ……って、アイナさん、呼び方!」


「うぅ、さすがに呼び慣れない……」


 笑顔のエミリアさんに、困惑顔の私。

 神様の眷属を最初から呼び捨てにするだなんて、さすがにハードルが高いのだ。

 しかし呼び方を間違えればすぐにツッコミが入りそうだし、これはもう慣れるしか無いのか……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――む? アイナ様、道を塞がれているようですね」


 御者台のルークが、馬車の速度を緩めながら言った。

 少し先には松明の小さな灯りがいくつも見える。どうやらたくさんの人間が集まっているようだ。


「何あれ? バレバレじゃない?」


「私たちが街の外に出たという情報が漏れたのでしょうか。

 ここで討ち取れば、クレントスの街門を通る必要はありませんから」


「ああ……。街の外で殺して、そのまま王国側に引き渡す――ってことね……」


 無駄が無いというか、効率的というか――でもその分、街中で無暗に襲ってくる連中よりも、何だか腹立たしいというか。


「……アイナよ。お主は人間共に狙われているんじゃのう」


「はい、高額の懸賞金を懸けられているものでして。えーっと、金貨5万枚ほど……」


「ほう、さすがは『神器の錬金術師』よな。うんうん、良いことじゃ」


「良いって……。

 あ、ちなみにふたつ名は『神器の魔女』で売り出し中なんです。王族からも『魔女』って呼ばれていたので」


「ふむ、それも良い響きじゃのう。妾は好きじゃよ、そういうのは」


「ルークに至っては『竜王殺し』ですからね?

 光竜王様を殺したって思われてて、その流れなんですけど」


「ふふっ、『竜王殺し』とな。何とも武骨な名前よのう♪

 それで、エミリアはどうなんじゃ?」


「えっ!?」


 グリゼルダの突然の振りに、エミリアさんは戸惑った。

 彼女にはまだ、これというふたつ名は無いのだ。


「一応、『暴食の賢者』というのが候補で――」


「それは嫌ですってば!」


 私の言葉は途中で遮られた。

 ……やっぱり嫌なようだ。まぁ、まだ賢者じゃないもんね。聖職者だもんね。


「それもなかなか良さげではあるが、つまり未定ということじゃな。

 強き者にはふたつ名が付くもの。時が来たら、素直に受け入れるが良いぞ?」


「うぐ……」


 グリゼルダの言葉に、エミリアさんは言葉を詰まらせた。

 仲の良い感じで話をしているが、グリゼルダの中身は光竜王様なのだ。

 ルーンセラフィス教の教えが染み込んでいるエミリアさんにとっては、その言葉がどういうものであれ、軽視することはできないだろう。


「――ふむ。それにしても妾は今、とても気分が良い。

 新しい身体にも馴染みたいところじゃし、あの連中は妾に任せるが良いぞ」


「え? もしかして、倒してくれるんですか?」


「お主たちには遠路はるばる迎えに来てもらったからのう。

 これくらいの礼はさせておくれ。クールにびしっと決めてくる故にな」


 そう言うと、グリゼルダは馬車を降りて、松明の方へと一人で歩いて行った。

 ルークも続こうとしたが、グリゼルダに強く拒否され、御者台の上で待つことになってしまった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――ぬかったわ」


 10分ほどもすると、グリゼルダは血まみれになって馬車に戻ってきた。


「ちょ……。血、大丈夫ですか!?」


「うん? ああいや、これは返り血じゃぞ?

 妾に限って、あんな連中に後れを取るわけは無かろう」


「そ、そうですか……?

 でも折角の着物がこんなに汚れちゃって……。綺麗にしちゃいますね」


 そう言ってから、私は洗濯の魔法――ウォッシング・クロースを掛けさせて頂いた。


「おお、助かるぞ。

 いやそれにしても、新しい身体は何とも柔らかくてのう。爪や牙で軽く倒してやろうと思ったんじゃが、それも叶わなくてな」


「武器は持っていなかったんですか?」


「うむ、何も持っておらんぞ。

 仕方ないから、普通にパンチやキックで倒してやったわ!」


「まさかの格闘術……」


「グリゼルダ様、強いですね……」


「しかし同時に、お主らの苦労も察したぞ。

 いつまでもこんな連中に絡まれていては落ち着くまい。早く平穏な日常を手に入れんとな」


「はい、いろいろと考えてはいるんですけど――」


 ……ただ、具体的には何も決まっていない。

 しかし私を支えてくれる人もずいぶんと増えてきたのだから、そろそろ動き出すときではあるのだろう。




「ママー、ぐちゃぐちゃー」


 ……グリゼルダの戦いの痕跡を見て、リリーがそんなことを言った。

 しっ! 見ちゃいけません……!!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 お屋敷に戻ったのは、22時頃だった。

 何だかんだで、『神託の迷宮』の往復にはかなりの時間が掛かってしまった。


「……おお。アイナ殿、遅かったな」


「あ、グレーゴルさん。ただいま戻りました。

 ずっと警備してくれていたんですか?」


「うむ、ポチが怪しげな連中を捕まえてきてな。

 絞り上げたら仲間がいるって言うんで、全員とっ捕まえていたらもうこんな時間だよ」


「あー……。私たちも、外で襲われたんですよ。何か関係があるのかな?

 そうそう、こちらのグリゼルダに倒してもらったんですが」


「そうだったのか。

 グリゼルダ……新しい仲間か? それにしても、この雰囲気は――」


「ふむ、お主はグレーゴルと言うのか。

 妾はアイナを加護する者。この度の働き、褒めて遣わすぞ」


「はっ、ははーっ!!」


 グリゼルダの言葉に、グレーゴルさんはめちゃくちゃ恐縮した。

 あまりの勢いに、こちらが怯んでしまうほどだ。


「え、えぇ!? グレーゴルさん、どうしたんですか!?」


「いや、アイナ殿!? この方はとても尊い方なんだろう!?

 俺の六感がそう叫びまくっているぞ!!」


「……ほう、なかなか良い感性をしておる。

 魔獣使いのようじゃが、なかなか珍しいものを使役しているようじゃしの」


「ありがたきお言葉……っ!!」


「ただそこまで恐縮されると、妾がアイナに注意されてしまうのでな。

 もっと普通に喋ってもらって構わんぞ」


「かしこまりました……!

 ……それにしてもアイナ殿、こんな方まで仲間にしてしまうだなんて……さすがだな……」


「いやぁ、グリゼルダの凄さを見抜けるグレーゴルさんも凄いと思いますよ……」


 私から見れば、グリゼルダは不思議な着物を着た艶っぽいお姉さんだ。

 強さや凄さはやはり感じるものの、『尊い方』とまで言い切れるのは凄い――


 ……もしかして、角を見て言ったのかな?

 いや、さすがにそんなわけは無いか……。

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