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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
391/911

391.貴女を追い掛けて

「――ど、どうしたの……? えー……? みんな揃って……」


 私は呆然としてしまった。

 ポエールさんに案内された部屋で、数か月ぶりに見た懐かしい面々。

 私が王都でお世話になっていた、5人のメイドさんたち――


「アイナ様ぁああっ!!」


「うわっと!?」


 とりあえずキャスリーンさんが私の胸に飛び込んできた。

 先日リリーにも飛び込まれたし、私の胸は飛び込みやすいのだろうか。


「お会いしたかったですううぅうっ!!」


「あー、よしよし……。ごめんね、突然いなくなっちゃって……。

 ――えぇっと、それで……どゆこと?」


 私が説明を求めると、クラリスさんが答えてくれた。


「アイナ様、お久し振りです。

 それとこの数か月、とても大変な思いをされたかと思います。噂はいろいろと伺っております」


「クラリスさん、お久し振り。

 ……本当にね、何だかいろいろあったんだけど……何とか無事だったよ。はぁ……」


「ふふふ♪

 アイナ様が王都を出られてから、ほどなくしてお屋敷は王国に没収されてしまったんです。

 その際、使用人は全員散り散りになってしまいました」


「うん、そこら辺はポエールさんから聞いているかな」


「そうでしたか。

 私もメイドを辞めて、他の仕事をしようとしていたところに……あの、キャスリーンさんが私の部屋にやってきたんです」


「ふむ?」


「それで、一緒に旅に出よう、って誘われたんです」


「……はぁ?」


 私は変な声を出しながらも、胸の中で泣き続けるキャスリーンさんを見た。

 ……頭しか見えないけど。


「私もアイナ様と同じ返事をしてしまいました。

 最初は要領を得なかったのですが、キャスリーンさんはアイナ様以外の方には仕えるつもりが無いと……。

 ……メイドを続けるなら、どこまでも追い掛けたいと言ったんです」


「そ、それはありがとう……?」


「……はい。……ぐすっ」


「う~……、もう勝手にいなくならないから。

 ね? そろそろ泣き止んで?」


「……は、はい。申し訳ございません……」


 キャスリーンさんはようやく私から離れて、涙を拭いながらソファーに戻っていった。


「えっと、それでキャスリーンさんに付き合ってくれたの?」


「そうですね、私はメイドを辞めようとしていましたから。

 ただ、クレントスまで来て――またアイナ様がメイドを募集していると聞いて、心が揺らいでいます」


「クラリスさんが来てくれたら、心強いんだけどなぁ……」


「そ、そうですか? それではまた、よろしくお願いします」


「えっ」


「えっ!? ……あ、違いましたか?」


 思わぬスムーズな流れに、私の方が驚いてしまった。

 そんな私の言葉を受けて、クラリスさんも一緒に驚いてしまっている。


「う、ううん!? 助かるのは本当なんだけど、あれ? メイドを辞めるって話は大丈夫なの?」


「アイナ様と久し振りにお話をして、私もキャスリーンさんと同じだってことに気付いたんです。

 メイドを辞めたいのではなくて、アイナ様以外の方に仕える気が無かったんだなって……」


「あ、あはは……。何だか照れちゃうけど……。

 それで、マーガレットさんとミュリエルさん、ルーシーさんは? また働き口を探している感じ?」


「はい! クレントスでも新しいお店を発掘するように頑張ります!

 私も何だか、他のお屋敷だとやる気が出なくて……」


 そう言うのはマーガレットさん。

 ……顔が広い人だから、王都には少なからず思い入れがあっただろうに。



「私、もっともっとお料理が上手くなりたいんです!

 クレントスと言えば、魚が新鮮そうじゃないですか? アイナ様とクラリスさんの元で、また勉強させてください!」


 そう言うのはミュリエルさん。

 レアスキルのおかげでメシマズ状態なんだけど――新鮮な魚を使えば克服できるのかな。(いや、できない)



「……実は私、他のお屋敷で働き始めていたんです。

 でもクラリスさんとキャスリーンさんに誘われて、3日で辞めてきました」


 そう言うのはルーシーさん。

 大人しそうに見えて、案外やりおる。



 それにしても必ず雇われる確証も無いのに、こんな遠くの土地まで来てくれるなんて……。

 ただ、数日前ならこのまま即採用ではあったけど、今はそうもいかないのだ。


「……みんな、ありがとう。本当に嬉しいよ、ありがとう。

 でも、ちょっと今は条件があるの。ひとつだけクリアしてもらえれば、昔通り、また一緒に過ごしていきたい」


「条件、ですか……?」


 クラリスさんが思いがけず、といった感じで聞いてきた。

 私の性格から、条件が付くのは想像していなかったのだろう。


「ごめんね。でも今は、それが何よりも大切なことなの。

 ちょっと待っててくれるかな?」


 私は5人が頷くのを待ってから、一旦その部屋をあとにした。

 再び雇用するための条件――それは、リリーを怖がらないでいてくれること。


 ただそれだけ。怖がらないでいてくれれば、本当にそれだけで良かった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 リリーを連れて改めて部屋に戻ると、全員が驚いた顔をしていた。

 突然見知らぬ女の子を連れてきたのだ。その意味を図りあぐねているのだろう。


「――お待たせ。この子は私が旅の途中で知り合った子なんだけど……」


「初めまして! リリーなの!」


 リリーが元気に挨拶をすると、5人とも顔をほころばせた。

 ちなみに今は、強い気配を完全に抑えてもらっている。


「わぁ、可愛い子ですね!」


「黒い髪に黒い瞳……。エキゾチックですねー」


 キャスリーンさんとミュリエルさんが、リリーの顔を覗き込みながら嬉しそうに話した。

 それを見ているだけで、私としても本当に嬉しい。


「ママー。この人たちは?」


「マ……っ!?」

「あ、アイナ様!? まさかこんなお子様が……!?」


 マーガレットさんと、珍しく取り乱すルーシーさん。

 ルーシーさんのこんな表情、初めて見たかもしれない……。


「も、もちろん産んだわけじゃないからね!?」


 私の返事に、ルーシーさんは心底ほっとした表情を見せた。

 ……いや、えーっと? 逆に、それってどういうことだろう……。


 そんな中、クラリスさんだけは冷静だった。


「アイナ様、この子が『条件』なのですか?」


「うん。……あのね、本当に無理はしないで良いから。ダメっていうのは、これに関しては普通だから。

 実は昨日も、メイドさんが3人逃げちゃったんだ」


「え……? それは、一体……?」


「リリー。それじゃ、気配を抑えないでくれるかな?」


「うー……。分かったのー」


 昨日の嫌な記憶を引きずっているのか、リリーは少し躊躇したあとに、気配を解放した。

 私としてはもう慣れてしまった感じだけど、初めての人にとってはやはり厳しいはずだ。



「……ひっ? な、なるほど。これは……」

「これ、リリーちゃんの……力……?」

「ふお……」

「ひゃ、ひゃー……。何だか涼しい……」

「……凄い……ですね」



 5人とも、それぞれ驚きながらリリーを見ている。

 しかし恐怖のようなものは感じられなかった。


「――うん。リリー、ありがとう。もう大丈夫」


「分かったの!」


 リリーは返事をすると、気配をすぐに抑えてくれた。

 その場にいる全員が一息ついて、身体を小さく揺らしながら緊張をほぐしている。



「……この子は私にとって、大切な子なの。

 身近にいてくれる人には怖がってもらいたくない。私のところでまた働いてくれるなら、この子とも毎日接することになると思うんだ。

 だから……それでも構わないと言うのであれば、また働きにきてください」


「……リリーからもお願いなの! よろしくお願いしますの!」


 私の言葉に、リリーも続いてくれた。

 本当、何て可愛い子なんだろう。



「――アイナ様」


「はい!」


「……私は問題ありません」


 クラリスさんが最初に涼しい顔で言い切った。

 それに続いて――


「私も全然、大丈夫です!」

「これくらいじゃ私たちは諦めませんよ!」

「ふふふ、可愛い子ですしね♪」

「やっぱりアイナ様のところは、飽きませんね」


 ――他の四人も問題無い、と言ってくれた。

 さすがにこれには、私も感謝の気持ちしか出てこない。


「ありがとう……。

 ……それじゃ、またよろしくお願いします!!」


「「「「「はい!!」」」」」

「なの!」


「リリーはそっち側じゃないでしょ!?」


「えーっ」



 ……やはり最後はリリーに持っていかれてしまった。

 でも最後は明るい空気で終わることができたし、きっとこれも、リリーの力なのだろう。

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