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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
388/911

388.疫病の迷宮③

「リリー……」


 それは、私が逃亡生活の中で出会ったスライムの名前。

 本当に辛い日々の中で、私に癒しを与えてくれた子。


 しかし『疫病の迷宮』を創る直前、呪星ランドルフ率いる王国軍との戦いの中で、命を落としたはず――


 ……忘れようの無い出来事。

 今日に至るまで、思い出さない日は無かった。長い期間では無かったとは言え、私を支えてくれた仲間のひとりなのだ。



「……ママ? 何で泣いてるの? どこか痛いの……?」


 涙を溢れさせる私に、リリーは心配そうに話し掛けてきた。


「ううん、違うの。これはリリーにまた会えて、嬉しい涙なの」


 詳細はまだ分からないが、幼い女の子の前でぼろぼろ泣き続けるわけにはいかない。

 私は涙を拭い、努めて明るく振る舞った。


「本当? 私も嬉しいの……!

 ――そうだ、お兄ちゃんとお姉ちゃんも来てるんだよね?」


「え?」


「ルークお兄ちゃんと、エミリアお姉ちゃん!」


 ……ああ、なるほど。

 あの二人はそういう位置付けなのか。


「そうだね、一緒に来たんだよ。

 私だけ、リリーの声が気になって一人で来ちゃったんだ」


「……えへへ♪」


 満面の笑みを浮かべる女の子に、私はとても癒された。

 元のスライムだったときの面影は無いけれど、リリーはいつでも私を癒してくれる。


「それじゃ、会いに行こうか」


「うん!」


 私の言葉に、リリーは明るく返事をした。

 すると次の瞬間――


 ふわっ


 ――リリーは軽く、宙に浮いて私にくっついてきた。


「え、えぇ!? リリー、浮くことができるの!?」


 彼女からは重力を感じず、普通の存在とはやはりかけ離れたものを感じてしまう。


「そうみたいなの。きっと、ママが自由にしてくれたからなの!」


 ……確かに私が来るまで、リリーには黒い茨が絡みついていて、移動もできないようだった。

 初めて動けるようになったわけだから、つまり宙に浮かんだのも初めてのことだったのだろう。


「凄いね……。ところでリリーって、前からこんなに賢かったっけ?」


「んー……。ママがいじめられてたあとにね、何だかまわりが暗くなっちゃったの。そのあと、光がぱーってなって~……。

 それで気が付いたらここにいたんだけど、そしたらママたちみたいに、お話できるようになってたの!」


 いじめられて――というのは、呪星ランドルフとの戦いのときのことだろう。

 暗くなっちゃった――というのは、リリーが矢を受けてやられちゃったときのことかな?

 光がぱーってなって――というのは、私が『疫病の迷宮』を創った影響……?


「ふーむ……」


「それでね、それでね!

 私もいろいろ分かるようになったの! それまではいろいろ分からないことがたくさんあったんだけど――

 ……でも、ずっと私、ひとりだったの……」


 リリーは明るく言ったあと、途端に寂しい表情をしてしまった。

 私が辛い思いをしてきた間、リリーは寂しい思いをしてきたのだろう。


 何で普通のスライムが『疫病の迷宮』になったか――

 ……それは分からないけど、そんな力を持ってしまった今でも、リリーはリリーでいてくれる。


「大丈夫、もうひとりじゃないから。ね? 元気出して」


「……うん! えへへ♪」


 私の言葉に、リリーは明るく笑ってくれた。

 以前のリリーは表情がよく分からなかったけど、今のリリーは表情がころころと変わって何とも愛おしい。

 ……でも結局、私としてはどっちのリリーも大好きなようだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 リリーと一緒に、今まで歩いてきた道を歩いて戻る。

 ……戻る場所はよく分からなかったけど、リリーが大体の方向を案内してくれた。


 しばらく歩くと仄かな光を見つけて、そこではルークとエミリアさんが二人で話していた。


「アイナ様!」

「アイナさん!」


「ごめんなさい、ちょっと離れてました。二人とも、大丈夫?」


「アイナ様こそ! ――って、その女の子は……?」


 声を少し慌てさせながらも、ルークはリリーに注意を払った。

 ……さすがに相手は女の子だから、神剣アゼルラディアは抜いたりはしていないけど。

 エミリアさんは静かに、私の答えを待っているようだった。


「えっと、この子は『疫病の迷宮』の――……何て言えば良いかな。

 私もちょっと、どう説明して良いのか分からないんだけど……自己紹介いってみようか?」


「うん! 私の名前は、リリーなの!

 お兄ちゃん、お姉ちゃん、久し振りなの♪」


「は……?」

「リリー……ちゃん……?」


 ルークとエミリアさんは驚きながら、目を見開いた。

 いわゆる目を白黒させる――というやつだろうか。うん、気持ちはとても分かる。


「話してみたんだけど、私たちが知ってるリリー……みたい。

 ちょっと、経緯までは分からないんだけど……」


「信じられないですけど……、本物……?」


「お姉ちゃんにも、たくさん優しくもらったの!

 ……私のこと、忘れちゃったの……?」


「そっ、そんなことないじゃないですか!!

 でも――……お帰りなさい」


 そう言いながら、エミリアさんはリリーを抱き締めた。

 ルークはその光景を、まだ信じられないように眺めていた。



「――もしかしてアイナ様。

 『疫病の迷宮』を創るときに、リリーの魂……のようなものが使われたのでしょうか」


「あ……。そういえばあのときは頭がごちゃごちゃになっていたから、何の素材を使ったか覚えてないんだよね……。

 今さらだけど、ちょっと見てみようか……」


 私は『創造才覚<錬金術>』の履歴を宙に表示させてみる。

 えぇっと、確か――


 ----------------------------------------

 【『疫病の迷宮<深淵>』の作成に必要なアイテム】

 ・ダンジョン・コア<疫病の迷宮>×1

 ・魔物の魂×1

 ・触媒:神魔の書・漆×1

 ・特殊条件<大地>

 ・特殊条件<絶望の宣言>

 ・特殊条件<深淵の宣言>

 ----------------------------------------


「――そうそう、こんな感じだった!」


「『魔物の魂』……というのが、リリーの魂だったのでしょうか……」


「……確かに、『疫病の迷宮』を創る直前にやられていたからね……。私の足元で……」


 あのとき、まわりには他の魔物なんていなかった。

 あまり意識はしなかったけど、創れるなら問題無しってことで、進めちゃったんだっけ。


 正直『魂』なんてものは目に見えないから、しっかり把握できていなかったというのもあるんだけど――


「……しかし、私たちはリリーのおかげで助かったんですね……。

 いえ、アイナ様の尽力は前提として……ですが」


「そう、だねぇ……。リリーの命を、魂を使わせてもらっちゃったって感じになるね……」


 錬金術ではいろいろなものを作ることができるけど、私はまだまだ『命』や『魂』というものを扱うには及び腰だ。

 私は転生をしたことがあるから、死んでも『魂』は無くならないことを知っている。

 だからこそ、『魂』を素材とすることには、強い抵抗感があるというか――


 ……しかし今回については、リリー本人も喜んでいるから、良しとしておこう。

 偶然が偶然重なった結果ではあるけど、再会できたことは私も嬉しいし……。



「――さて、そろそろ戻ろうか。

 ねぇ、リリー。ここからはどうやって出るの?」


「うん! 普通には出られないから、私が外まで送ってあげるの!」


 リリーがそう言った瞬間、辺りが歪んだ気がした――

 ……が、一瞬後、一気に視界が開けた。



「――うわっ、眩しっ!!」


「ご、ごめんなさーいっ!!」


 突然の光に驚いたものの、目が慣れていくと、特に眩しくもない曇り空が広がっていた。

 ……それだけ、『疫病の迷宮』の中は暗かったということだ。


「アイナさん、迷宮の入口が……消えてますね……」


 エミリアさんの言葉に、私は辺りを見まわした。

 寒々とした荒野に、巨大な影と戦った跡がところどころに残されている。

 そこは確かに『疫病の迷宮』があった場所。しかし、その場にあるはずの迷宮の入口は綺麗に無くなっていた。


「ねぇ、リリー。『疫病の迷宮』って、どうなっちゃったの?」


「その迷宮はね、私なの! だから、私がいればどこからでも入れるの!

 ……ママ、また入りたいの?」


 リリーがあどけなく聞いてくる。

 いやいや、リリーのことは大好きだけど、敢えてその迷宮に入りたくなんてないよ?


「ううん、大丈夫! えっと、危ないから突然出さないようにね?」


「分かったの! ママがお願いしてくれたときだけ、開けるようにするの!」


 ……リリーが良い子でよかった……。

 それにしても、どこからでも迷宮に入れるとか……。


 これってもしかして、移動型迷宮ってこと?

 何だかやたら物騒な能力だなぁ……。


「――そうしてくれると嬉しいな。

 さて、それじゃ帰りますか!」


「「はい!」」

「なの!」



 ……それではいざ、クレントスの愛しの我が家へ!!

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