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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
385/911

385.暗闇から出でし

 私たちは派遣団と別れて、三人で問題の場所を訪れることにした。

 さすがに最初は大反対されたものの、『問題の場所』は恐らく『疫病の迷宮』になるため、そこは無理を押し通させて頂いた。


 一体何が待ち受けているのかは分からない。

 しかし私たちに不都合なことが起きたとしても、私たち三人だけであれば、情報操作も簡単に行うことができるのだ。


 ……『疫病の迷宮』を創ったのは私だけど、そのことはあまり世間には知られたくない。

 何しろ、その存在自体が人間を滅ぼすようなものなのだから――



「――何か、嫌な雰囲気……」


 馬車を一日走らせて、目的地に近付いていくと、何とも嫌な空気が身体に纏わりついてきた。

 私の記憶によれば、『疫病の迷宮』を創った場所はもっと南のはずだ。

 ここからで言えば、山をもうひとつ越えたくらいのはずなんだけど――


 ……私たちが今いるのは緑が少なく、岩肌と荒れ地が混在したような場所。

 今日の天気は曇りで、何となく『疫病の迷宮』を創った日を思い出させてくれる。



「アイナさん、あそこ!」


 突然のエミリアさんの声に反応してみれば、ずっと先の道端に人影が見えた。

 どうやら地面に倒れているようだけど――


「ルーク、あそこまで行って!」


「はい、かしこまりました!」


 馬車は進路を少し変えて、倒れている人影の場所へと急いで向かった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――死んでる……」


 地面に倒れている人影は、すでに事切れた冒険者だった。

 一人がもう一人を背負って、そのまま力尽きたかのように死体は折り重なっていた。


 遠くを眺めてみれば、ここから遠くの地面に人影がまた見えている。

 ……あれもきっと、もう亡くなってしまった人間だろう。


「この人たち、どうしたんでしょう……?」


 エミリアさんは祈りを捧げたあと、小さく呟いた。


「何かから逃げていた……? そもそも死因は――」


 ……そう思いながら遺体を鑑定してみると、案の定と言った感じで疫病の痕跡を見つけた。

 その結果を知った私の表情を察して、ルークとエミリアさんも死因を把握する。


「私たち、このまま向かっても大丈夫でしょうか……?」


「うーん……。でも、放っておくわけにもいきませんし……。

 せめて原因だけでも調べていきましょう。以前作った疫病無効の薬は、また新しく作っておきましたから」


「あれ? 素材にはガルルン茸が必要なんですよね? 無くなってませんでしたっけ?」


「時間がそれなりにあったので、私も少し育てておいたんです。

 『疫病の迷宮』の様子は、手が空いたら見に行こうと思っていましたし」


「なるほど、あの薬があればひとまずは安心ですね。

 ……あれのおかげで、私たちは生き延びることができたんですから」


 それはまさに、ガルルンの加護。

 私たちを救ってくれたのは、そう言えばガルルンだったのかもしれない。


「ひとまずここら辺にも疫病が来てるかもしれませんし、早目に飲んでおきましょう」


 そう言いながらアイテムボックスからポーション瓶を取り出し、三人でそれぞれ一気に飲み干す。

 ……とりあえずこれで安心かな。


「アイナさん、やっぱりガルルン茸は人類のためにたくさん育てないと!

 やっぱりこれ、凄いキノコですから」


「そうですね。でも私、変に有名になっちゃったから――ガルーナ村の人たち、これからも手伝ってくれるかなぁ……」


「大丈夫です! アイナさんのことはしっかり受け入れてくれますよ!

 今度一緒に遊びに行きましょうね!」


「……あはは、ありがとうございます」


 私はひとまずクレントスでは受け入れてもらいはしたものの、それ以外の場所ではやはり不安がある。

 人間、いざとなればどうなるかは分からない。今までが好意的であっても、何がきっかけで逆転してしまうかなんて分からない。

 ……そのことを、残念ながら私は学んでしまったのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 岩肌の上を駆け続け、岩場の合間を走り抜け、私たちはどんどん進んだ。

 道すがら、かなりの量の死体がそこかしこに転がっていた。


「……私が倒そうとした兵士では無いようだけど……。

 みんな、冒険者? 一体こんなところで何を……?」


「おそらくは『世界の声』を聞いて、来たのでしょう」


「え? ……ああ、そういえば場所も、大雑把だけど聞こえてきてたっけ?

 でも、何で――」


「それはもちろん『迷宮』だからです。

 迷宮には危険もありますが、それに見合うだけの宝が眠っているものですから」


「なるほど、いわゆる好奇心ってやつだね……。

 でも、『疫病の迷宮』だよ? 『疫病』だなんて、聞く限りではどう考えてもやばい気がするけど……」


 私の知っている迷宮――『循環の迷宮』も『神託の迷宮』も、名前自体は穏やかなものだ。

 それに引き換え『疫病の迷宮』なんて、イメージだけでも厄介なことこの上無い。

 名前からして、好奇心が刺激されるのは分かるけど……。



「――ッ!!

 アイナ様、エミリアさん! 向こうに何か……います!! ご注意を!!」


 引き続き馬車を走らせていると、ルークが大声で伝えてきた。

 辺りには生きている人間はいない。そんな場所に、いる何か。


 薄暗く不気味な空の下、肌に感じる不穏の中で――

 ……それは、地平線の向こうから徐々に姿を現してきた。



「――何、あれ……」


 それは大きな煙のような、影のような。

 大地から空に向かって生えるように揺らめく、人間の形をした黒く不気味な謎の影。


 そこまで大きくは無いとは言え、5メートルは優にある――……って、それでも十分大きいか。



「――……ヴァァアアアア……、ヴァアアアア……」


 近くに寄るほどに、人型の影からは声のような音が聞こえてくる。

 地面を震わせ、大きく揺らす声。聞いているだけでも身の毛がよだってしまう。


 なおも近付いていくと、人型の影が生えている場所がようやく見えてきた。

 その人型の影には足は無いものの、どうやら地面に空いた穴から出てきているようだ。


「……あの穴って、まさか――」


 ----------------------------------------

 【疫病の迷宮<深淵>】

 第七神の加護を受けて創り出された深淵クラスの迷宮。

 膨大な疫病に満たされ、生命の侵入を絶望的に拒絶する

 ----------------------------------------


「――うぇっ!?」


 思わず鑑定して、その結果に我ながら驚く。

 『第七神』だの『深淵クラス』だの、何が何だか――



「――……ドォオオオオオ……、グォオオオオオ……?」


 私が焦っている間にも、その人型の影は大きな声を上げている。

 ……正直、怖い。いろいろな経験を乗り越えてはきたものの、やはり怖いときは怖いのだ。


「アイナ様……、退却しますか?」


「……ううん、少し戦ってみよう。

 こんなのが街の方に行ったら、きっと相手をできる人なんていない……。

 見た感じは闇っぽいから、アゼルラディアでどうにかならないかな?」


「そうですね。効けばそのまま倒せば良いですし、もしもダメなら、そのときはまた考えましょう」


「光の力なら、私もお役に立てますので!!」


 ルークの言葉に、エミリアさんも続いた。

 そして馬車を止め、三人で外に出る。


 人型の影との距離はまだ離れているとは言え、少し近寄れば戦闘圏内に入る距離だ。



「――……ヴァァアアアア……、ヴァアアアア……ッ!!」


 よくよく見ると、当然のことながらその人型の影には目が無いようだった。

 しかし何故か、向き合っているうちに目が合ったような錯覚を覚えた。



 ……何だろう、この感覚。

 何だか分からないけど、その途端、私の目からは涙が溢れ出てしまった。

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