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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
375/911

375.強引な再会

 朝7時!!


 ……睡眠時間、およそ2時間半……。


「ねむ……」


 いくら若いとは言っても、眠いものは眠い。

 しかしルイサさんの言葉から察するに、年齢を重ねれば重ねるほどもっと辛くなるのだろう。


 歳は取りたくないものだね。取らないけど。


 ……さて、それは置いておいて、今日もきりきり働くことにしよう。

 最低限の仕事としては、『野菜用の栄養剤』を作ることのみ。

 それ以外にも何かできることがあればやりたいけど、果たして探す元気は残っているかな……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 朝食と外出の準備を済ませて部屋を出ると、すぐ外で待っていたルークが急かしてきた。


「――さぁ、アイナ様! すぐに行きましょう!」


「え、えぇ!? ルーク、どうしたの?」


「お話はあとで! エミリアさんも早く!!」


「は、はい!?」


 ルークの傍らにいたエミリアさんも、訳の分からないまま急かされる。

 しかし、階段を降りて玄関に向かう途中で、ルイサさんがメイドさんと話しているのが見えた。


「ルイサさん、おはようございます」


「おはよう。アイナさん、しっかり眠れた? 3時間も眠れなかったでしょう?」


「あはは。凄く眠いんですけど――」


「アイナ様、急ぎますよ!!」


「……え? えぇ!?」


 私の背中をルークは優しく押しながら、ルイサさんとの話を切る形で外に連れ出そうとする。


「ちょ、ちょっと!? まだ話の途中――」


「ルーク! しっかりやんなさいよ!!」


「ほ、放っておいてよっ!!」


 ルイサさんの謎の言葉とルークの素の言葉を最後に、私はお屋敷の外に連れ出されてしまった。


 ……ああ、なるほど。

 私がいない間に、ルークはルイサさんからいろいろと言われてしまったのだろう。

 今の私に付き合ってくれる奇特な人なんて、ほとんどいないのだから。


 ……でも、私もルークもお互いそういう関係を求めていないわけで。

 ルイサさんのお節介も、完全に不発したって感じかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――ふふっ♪」


 錬金術の工房に向かう途中で、エミリアさんが嬉しそうに笑った。


「エミリアさん、どうしたんですか?」


「いえ♪ さっきのがルークさんの本来の話し方なのかなって♪」


「そうですね。地元の人に会うと、ああいうの出ちゃいますよね」


「あはは、確かに。他の人と一緒にいるときって、凄く恥ずかしいんですよね。

 ルークさん、とっても分かりますよ!」


「……うっ」


 エミリアさんの悪戯っぽい視線に、ルークは小さくうめき声を上げた。

 案外、精神ダメージを受けちゃってるなぁ……。


「それにしても、私は4時過ぎまでルイサさんと話していたんだけど、ルークはどうだったの?」


「はい、5時前に軽く身体を動かそうと部屋を出たところ……部屋の外にルイサさんがいまして」


「まさかの待ち伏せ!?」


「最初はそれこそ再会を懐かしんでいたのですが、途中で何やら空気が変わりまして……」


「……何だか察したよ」


「え? え? どういうことですか?」


 私とルークの暗い表情を見て、エミリアさんが不思議そうに聞いてきた。


「エミリアさん。

 つまりあれです、いわゆるおばちゃんのお節介……というやつです」


「あ……。……は、はい、私も察しました。

 確かにアイナさんとルークさんって、くっつきそうでくっつきませんしね」


「ちょちょっと、そんな目で見ていたんですか!?」


「いえ? 普段はそうでもないんですけど、たまに『あれ?』とは思いますよ」


「「思わないでください!!」」


「は、はぁ……」


 思わず声の合った私とルークと眺めながら、エミリアさんは生暖かい眼差しを向けてくれた。

 ……くっ、その視線が辛い……っ!!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 昨日と同じ工房を訪れると、これまた昨日と同じ錬金術師の三人が待機してくれていた。

 ちなみにルークとエミリアさんには、今日も外で見張りをしてもらっている。


「おはようございます!」


「師匠、おはようございます!」

「「アイナ様、おはようございます!」」


「みなさんお早いですね。しっかり休んでますか?」


「師匠こそ、思いっきり眠そうですけど……?」


 おっと、墓穴を掘ってしまった。

 確かにこの中で一番しんどそうなのは、私のようだ。


「すいません、昨晩少し話し込んでしまって……」


「おお! この街のこれからのことですか!?」

「錬金術の可能性についてですか!?」

「新しい神器のことですか!?」


 ……何だろう。私の期待値が無駄に上がっているような気がする。


「どれかと言えば……、この街のこと……?」


「やったー! ほらほら、さすが一番弟子でしょう!!」


「くそ、さすがレティシア……!」

「一番弟子は伊達じゃないな……!」


 満足げなレティシアさんを、他の二人が悔しそうな目で睨み付ける。

 レティシアさんの株も、何だか無駄に上がっているようだ。


「……さて、お察しの通り私は寝不足なので、さっさと今日の分を作ってしまいましょう。

 素材の搬入は終わっていますか?」


「はい! 師匠は一瞬で作ってしまうので、搬出しやすいように隣の部屋で準備をしておきました!

 昨日の3倍くらいの素材が集まっていますよ!!」


「おお、採集班も頑張っていますね! それじゃ、私たちも頑張りましょう!!」


「「「はい!!」」」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――とは言っても、作成自体は一瞬で終わってしまうわけで。


 本日作った『野菜用の栄養剤』は300個と少し。

 作った説明書は70枚。


 栄養剤と説明書のバランスは悪いものの、その辺りは配る人のコミュニケーション能力でカバーをしてもらおう。

 それと、『ぷちぷち君』の代わりの緩衝材を紙で作ってはみたものの、何だか微妙だったので使うのは止めておいた。

 ……たくさん割れるとか、そういう問題が出てきたら改めて考えることにしようかな。




 昼過ぎに工房を出てから、ルークとエミリアさんと一緒に街を歩いていく。

 空気は冷たいものの、暖かな陽射しが何とも気持ち良いものだ。


「アイナ様? 今はどちらに向かっているんですか?」


「……あれ、ここどこ?」


「えーっ。アイナさんが迷いなく歩いていくから、私たちは付いてきたんですよ!」


「えぇっ!?」


 ルークに確認を取るように視線を向けると、彼も静かに頷いた。


「アイナ様、お疲れのようですから……今日はもう戻ってお休みになられますか?

 少し危なっかしいですし……」


「むぅ……。確かに寝ぼけているところを襲われたらお間抜けだもんね……。

 ――って、冒険者ギルドがあるじゃん!!」


 話の途中、見知った建物を見つけてようやく居場所を把握する。

 こんなところまで来てしまったのか。……ダメだ、頭が全然まわっていない……。


「あはは♪ アイナさん寝坊助(ねぼすけ)さん~♪」


「うぅ……。でもここまで来たなら、折角ですし冒険者ギルドに寄ってみましょうか。

 ルークとエミリアさんのことを紹介したい人もいますし!」


「わぁ、是非~♪」


「いえ、アイナ様。私は外でお待ちしていますので」


「えー。ダメダメ! 拒否は許しませーんっ!!」


 私はルークの背中を押しながら、冒険者ギルドの入口に向けて歩き出した。


「アイナ様!? 押さないでください……っ!!」


「ルークだって今朝、私のこと押していたでしょ? おあいこっ!!」


「私もお手伝いします! それーっ!!」


 ルークの背中押しに、エミリアさんも参加してきてくれた。

 よーしよし、このまま冒険者ギルドに一気に入ってしまえーっ。




「うわぁっ!?」


「よーしっ!」

「大成功~♪」


「――お兄ちゃんっ!!」



「「え?」」


 どうにかこうにかルークを冒険者ギルドに押し込んで、その結果に満足していると、思いがけない言葉が聞こえてきた。


 声の方を見てみれば、そこにはいつも通り冒険者ギルドの受付嬢のケアリーさんが――

 ……身を乗り出して、こちらを見ていた。……え? どうしたの?


「……それに、お兄ちゃん……って?」


 ケアリーさんの視線の先には私たちしかおらず、そして男性といえばルークだけだ。

 そんなルークの顔を見てみると、何やら『あちゃぁ……』といった表情を浮かべている。



 え?


 ……ルークとケアリーさん、兄妹だったの……?

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