374.ほんのり雑談
「――はぁ、アイナさんも大変だったんだねぇ……」
作ってもらった夜食を食べながら、私とルイサさんは食堂で話をしていた。
話の内容としてはアイーシャさんにしたことと同じで、あまり深いところまでは突っ込まなかった。
「ルイサさん、ルークも強くなったんですよ。
このお屋敷で一緒にお世話になっているので、明日にでも声を掛けてあげてください」
「そうだね、ルークのことも気になっていたんだよ。
手配書がまわってきたときなんて、昔の知り合いと一緒に目を丸くしたものさ。まさかあの子がね……って」
「やっぱり、インパクト強いですからね……」
私は苦笑しながら相槌を打つ。
まだまだ思い出にはなっていないものの、それでも少しくらいは昔のことになりつつある。
解決しなくてはいけないことはたくさんあるけど、再会の夜くらいは、少し他人事のように言っても構わないだろう。
「――私ももっと若ければ、アイナさんたちと一緒にいったかもね」
「おお、それは頼りになります!
となると錬金術師と裁縫士で――あれれ? 何の旅になるんでしょう?」
「あはは、何の旅だろう?
でも職人同士で旅をすれば、刺激し合ってお互いのレベルがもっと上がったかも?」
「ルイサさんが宿屋の女将さんになったのって、裁縫士をやったあとですもんね。
そっちの道を邁進してたら、もしかして旦那さんと会えなかったかもしれない?」
「……それはまずいね。
あの人と会わないだなんて……、どうにも想像ができないわ」
「おやや、惚気ですか!?」
「ふふふ、思い出は良いものだよ。
ところでアイナさんは、良い人はいないのかい?」
くっ、年配の女性と話をすると絶対出てくるコレ!!
……『良い人』と言うのは当然、『恋人』なり『気になる異性』のことだ。
「いませんねー。それどころじゃありませんでしたし、まだいいかなって」
「まぁ、アイナさんと釣り合う人なんてなかなかねぇ。
追われているとは言え、Sランクの錬金術師だし……。
……それに今や、世界中の有名人なんだから」
「まったくですね。私が希望しても、きっと相手なんて出てきませんよ」
「ふーん? そんなもんかねぇ……。いえ、そんなもんか。
早く平穏を取り戻して、良い人を探せると良いねぇ」
「そうですねぇ……」
――とは言うものの、私は特に恋人を探すつもりも作るつもりも無い。
ただ、あまり必死になっても怪しまれてしまうだけだから、ここは軽くスルーしておくことにしよう。
……というかこのままだと、どうせルークの名前が挙がってくるパターンだろうから、早々に話題を変えることにするか。
「ところでヴィクトリアって元気にしてますか?
してなくても良いんですけど」
「あー……。アイナさんとはいろいろあったみたいよね。
例の『世界の声』が聞こえた翌日なんて、ずいぶん荒れてたみたいだし」
確かそれ、ケアリーさんからも聞いた気がする。
その翌日、ヴィクトリアは錬金術師ギルドを訪れて騒いでいたとか何とか……。
「そうらしいですね。
あの人、私のことをずいぶんと馬鹿にしていましたから」
「それが今や、神器を作ったり、Sランクの錬金術師だったりするもんね。
ちなみにヴィクトリアさんは、C+ランクの錬金術師なのよ」
「へぇ……、思ったより高いですね。
実は錬金術師というか、魔物使いのイメージが強くって」
実際私はヴィクトリアの従魔、アーデルベルトに殺され掛けている。
街の中で錬金術のことをネチネチされたことよりも、そちらの方が印象強いのも仕方が無いだろう。
「アルデンヌ伯爵のお屋敷を占拠するときもね、やっぱりヴィクトリアさんの従魔がやっかいだったみたいよ。
結局はオリヴァーさんたちに倒されたみたいだけど」
……ッ!!
オリヴァーさん、グッジョブ!!
以前は直接やり返したい気持ちもあったけど、でも正直、今はどうやら吹っ切れているようだ。
……好きの反対は無関心。
そんな言葉があるように、私もきっとその状態に至っているのだろう。
「ところでヴィクトリアって、確かもう1匹の従魔がいるんですよね。
確か……トルトニスっていう名前だったかな? 私も見たことは無いんですけど」
「へー、他にもいたんだね。でも、私はそこまでは聞いていないよ」
「うーん、そうですか。
お屋敷を占拠されたということは多分倒されたか、もしかしたらペットみたいなものだったかもしれませんね」
「ペットね……。あのお嬢様のことだから、打たれ強い魔物だったかも?
裏でストレス発散に殴っているとか」
「あはは、そうかもしれませんね!
……でもルイサさんから見ても、ヴィクトリアってそんなイメージなんですか」
「あのワガママ娘はクレントスの……悪い意味でお姫様だったからねぇ」
「……悪い意味で! それは強く同意します!」
「私もしばらくヴィクトリアさんの相手をしていたけどさ、特に面白い話は無いよ。
王国軍との戦いの最中に変な動きをしないように……って、家事が得意でアイーシャさんの信用のある私が派遣されたってだけだから」
「確かにどさくさに紛れて、変なことがあったらまずいですもんね。
戦いの終わったあとではありましたけど、王国軍の人が3人、この街に紛れ込んでいましたし」
「それ、大丈夫だったの?」
「一人は私が倒して、もう一人は実は仲間で、残りの一人はその仲間が倒してくれました」
「へ、へぇ……。さりげなくアイナさんも倒しているけど、錬金術師っていうのは強いんだねぇ……」
「あ、多分それは私が特別なだけです」
「そうなのかい?
ヴィクトリアさんも魔物を使って強かったから――……ああ、そうね。錬金術は関係ないか」
他の錬金術師だって、例えS+ランクであっても強くは無いはずだ。
魔法やアイテムを駆使すれば、その分だけ戦闘力はあるけど――でもそれって魔法使いとかアイテムを持てる人なら誰でも良いわけで。
錬金術としては強さに結びついていないのだ。
……もしかしたら、錬金術のアイテムを使ったときの補正が入るスキル――そんなものがあるかもしれない。
もし『神竜の卵』みたいなスキルが手に入る機会があったら、次はそういうものも狙ってみたいかな?
「ところでヴィクトリアって、これからどうなる予定なんですか?」
「うーん……。生かしておくなら人質……みたいな感じかねぇ」
「人質?」
……誰に対する?
「一応、王国軍としては保護したいみたいだったのよ。
でもアイーシャさんたちが勝っただろう?」
「ああ……。助けにきたけど助けられなかった――ってことですか」
「そうそう。だからもう、アイーシャさんの一存なのさ。王国との交渉材料に使えるかは分からないけどね。
ちなみにアイナさんは、どうして欲しい?」
「えー? 別にどうでも良いですけど、奴隷堕ちくらいでも大丈夫ですよ」
「因縁がありそうだったけど、案外そうでも無いのかね……」
「とりあえずもう、接点が無ければ大丈夫です」
奴隷堕ちだってとても辛いことではあるが、ルイサさんの物言い的には私が死刑とでも言うと思ったのだろうか。
でも今さら、ようやく平穏が訪れつつあるというのに無駄なことで手を汚したくも無い。
今さらと言えば今さらではあるが、私も好き好んで命を奪うなんてことはしたくないのだ。
……強い理由があれば、都度相談って感じだけど。
「――誰かいるんですか?」
「え?」
突然聞こえた誰かの声に反応すると、食堂の入口にメイドさんが立っていた。
彼女はきょとんとした顔で私たちを眺めている。
「ルイサさんに……アイナ様、ですか?
こんな時間に一体、どうしたのでしょう……?」
「こんな時間?」
「いえ、もう朝の4時なのですが……」
「「――ッ!!」」
……この食堂には時計が無い。
慌ててクロックの魔法で時間を映してみると、確かに朝の4時を過ぎたところだった。
「思わず、長話をしてしまいました……。
ああ、時間を聞いたら途端に眠く……」
「私もだよ……。遅くまでごめんね、アイナさん」
「いえいえ、楽しかったです。……眠いですけど」
「今日も忙しいんだろう? すぐに戻って、少しでも寝ないと!」
「そういうルイサさんだって――」
「私は今日から2日、お休みをもらっているのさ♪」
「え!? ず、ずるーいっ!!」
……いや、別にずるくもなんともないんだけど、思わずそんな言葉が口から出てしまった。
ルイサさんはそれを申し訳無さそうにしながらも、楽しそうに私を見ていた。
「なぁに、若いんだから少しくらいは大丈夫だよ♪」
で、出たー!
若いから大丈夫っていう、歳を重ねた人のありがたいお言葉ーっ!!
……とか何とか言ってる場合じゃないか。
さっさと戻って、さっさと寝よ……。




