37.Bomb Debut
「れんきーんっ」
バチッ
いつもの平和な掛け声と共に、右手に爆弾が作り出される。そしてこちらもお約束――
「かんてーいっ」
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【初級爆弾(S+級)】
物理属性、火属性
攻撃力:30、範囲:7
※追加効果:攻撃力×2.0
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鑑定で確認すると、やはり安定のS+級。
……ふむ。初めて爆弾を作ったけど、作り方は薬とあまり変わりないね。
あまりというか、同じだね。そんなのは私だけだろうけど。
「というわけで爆弾が出来ました」
「うわー。アイナさん、本当に作りたいものを見るだけで作れちゃうんですねー……」
エミリアさんがしきりに感心している。
冒険者ギルドで爆弾のサンプル品が置いてあったので、素材を買って早速作ってみたところだ。
「ふふふ。でもまぁこれは、ここだけの秘密ですよ?」
「……あ、そうなんですね。確かにこんな技術、私も初めて見ましたし……。分かりました、黙っています!」
エミリアさんの素直さもプラチナカードのおかげだろうか。……いや、元の性格かな? 多分、元の性格っぽいな……。
「しっかり作れたから、岩盤破壊の依頼もいけそうだよ!」
爆弾を見せながらルークにも伝える。
「ではその依頼は受けるとして……。それと、最初に選んだ魔物討伐の依頼も場所が近いですし、このふたつを受けるということでよろしいですか?」
「うん、おっけー。エミリアさんも良いですか?」
「はい、大丈夫です。しっかりフォローしますね!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――とは言うものの」
魔物討伐の場所に着いて、私は空を見上げながら言う。
「魔物討伐においては私は無力。フォローも出来ません」
「大丈夫です、私にお任せください」
私がつぶやくやいなや、ルークが素早くしっかりフォローしてくれる。
「うーん、それはありがとう。ところで……今回討伐する魔物って、あの怪鳥だよね?」
いわゆるガルーダというやつが高い岩場の間を飛んでいる。
普通に攻撃しても届かなそうなんだけど。
「はい、今回の討伐依頼はガルーダを5匹ですね。倒した証拠として、頭部か足のどちらかを5つ持ち帰るように……とのことです」
どちらかを5つ。……うん、なるほど。
『頭部を足のどちらでも』だと、1匹倒して頭部と足で2カウント……みたいな誤魔化しが効いちゃうからね。どちらか、了解しました。
それにしても証拠を持ち帰るために、倒したら解体するのは自然の流れなんだね。
なかなかにワイルドな世界である。ゲームみたいにフラグ管理が出来れば楽なのに。
「……さて、それであのガルーダはどうやって倒すの? あんなに高いところを飛び回っているんじゃ、攻撃も当たらなそうだし」
「はい。ガルーダは縄張り意識が強いので、近付いていけば割とあっさり襲ってきてくれます。……そこを遠距離攻撃で狙うことが出来れば楽なんですが――」
「地面くらいまで降りてきてくれたら、私の魔法の射程範囲に入りますよ」
エミリアさんが気合を入れながら言う。
「それでは私がガルーダの縄張りに入ってヤツらを刺激してきますので、エミリアさんは影からガルーダの翼を狙ってください」
「はい、分かりました」
「ルーク、私は何をすれば良い?」
「そうですね、私のことを信じていてください」
「え? あ、はい」
イケメンかよ!
……いやまぁ客観的に見ればかっこいいんだろうけど。
ルークがガルーダに近付くと、ガルーダは群れを成してルークに襲い掛かった。
さすがに5匹からの波状攻撃は防戦一方だ。
しかし――
「シルバー・ブレッド!!」
「グギャアアァ!!」
エミリアさんの攻撃魔法が当たり、1匹2匹と地面に撃ち落とされていく。
プリーストって強いなぁ……。何か私の想像よりも攻撃的なんですけど……。
それはそれとして、地面に落とされて暴れているガルーダの首をルークは一閃二閃と斬り飛ばしていく。
いつもの爽やかさが嘘のように、手際良く修羅のように狩る。
結局、交戦時間は10分にも満たなかった。
「やっぱりルークって強いねー! エミリアさんも強い! さすがー!」
エミリアさんと一緒にルークを迎えに行く。
「一匹一匹はそんなに強く無いですしね。それに私にはアイナ様の応援と、エミリアさんの支援がありますから」
イケメンかよ!(2回目)
エミリアさんはエミリアさんで、少し照れながらルークにヒールを掛けている。
ちなみに私は当然のようにやることが無い。
「いや、本当に私は戦闘になるとやることが無いね……」
「適材適所ですから。私には及びつかないことをアイナ様はされているのですから、戦闘くらいは私たちにお任せください。
……さて、ガルーダの頭を回収しなくては」
足でもいいんだけど、頭部はもう5匹全部斬り飛ばしているからね。それなら後は拾うだけか……。
「ところでその頭、どうやって持ち帰るの?」
「え? それはもちろん、この皮袋に詰めて――」
「それなりにかさばるから、私がアイテムボックスに入れて持っていこうか?」
「あ……なるほど。それでは、お願いしてしまってよろしいですか?」
「おっけー。少しはやることが無いと肩身が狭いからね。助かるよ」
「そんなお気遣いは無用なんですが……、でも本当に助かります」
うん、魔物討伐でも私にはやることがあると分かった。うん、良かったー。
……荷物持ちだけどね!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次に向かったのはガルーダを倒した岩場の近く、広いけど浅めの洞窟。
依頼主とは途中で落ち合ったが、洞窟の中で説明を受けてから一旦外に出てもらった。危ないかもしれないからね。
「さてと、この岩盤を壊せば良いのね。……っていうか、何でこんな依頼があるの? 依頼主が自分で壊せば良いんじゃない?」
心持ち声を潜めてルークに尋ねる。
「まぁ確かに、冒険者ギルドでも爆弾は売ってますからね。ただ、自分でやって出来なかったときは自分の責任になるでしょう。
逆に、依頼を出してそれを受けた人が失敗したとしても、それは依頼を受けた人の責任になります。
つまり今回のような場合は、あらかじめ決められたお金を出す代わりに、確実にことを済ませたい……そういう需要になります」
ふむ、なるほど。
それに爆弾を使うと怪我しちゃうかもしれないしね。やりたくない人も当然いるよね。うん、納得。
「それじゃ早速やってみますか……。えっと、ふたりとも下がってー」
「あ、もし良ければ私がやりますが……」
「まぁまぁ。ここは私にやらせてよ。それじゃ、いきまーす」
火を付けて――ぽいっとな。
ドカーーーーーーン!!
(ドカーーーーーーン)
(ドカーーーーーーン)
「…………おお……結構……響くね……」
「そうですね……。それと、火力が高いせいもあるのではないでしょうか。S+級の爆弾だけに」
「そうかな? それにしても、一発で壊せれば良いんだけど……」
爆発の煙が収まると、そこに見えたのは砕けた岩盤だったのだが――
「たしかに砕けたけど……これじゃ足りないよね? この依頼って、岩盤の向こう側まで貫通させるんだよね」
「はい、そうですね」
「うーん、今の爆弾だって、普通のに比べれば威力は2倍だったんだけどなぁ……。
いや、これを見越して依頼を出したのかな……?」
「そうかもしれませんね。これはなかなか厳しいかもしれません。
どうしますか? このまま進めるか、もしくは依頼を破棄するか――」
「うーん、出来れば破棄はしたくないよね」
とはいえこのままだと何発の爆弾を使うことやら。
爆弾には当然ながらあまり詳しくないんだけど、威力を集中させる的な工夫は出来ないものだろうか。
『創造才覚<錬金術>』で、手持ちの素材から作れる爆弾を確認していく。
「……お、これは何か(元の世界で)聞き覚えがあるぞ……。いけるんじゃないかな? れんきーんっと」
バチッ
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【初級指向性爆弾(S+級)】
物理属性、火属性
攻撃力:3~57、範囲:1~13
※追加効果:攻撃力×2.0
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指向性爆弾!
爆発の方向を絞って、特定の方向に偏らせた爆弾である。
「うん、おっけー。次はこれで挑戦してみるね。セットするのを手伝ってー」
岩盤に指向性爆弾をセットする。
「アイナ様、これは投げるタイプではないんですか?」
「そうなの。特定の向きを壊す感じの爆弾だから、しっかり方向を決めて、固定してから使うの」
「へぇ……。そんな爆弾もあったんですね……」
「これでよしっと。それじゃいくよ、離れてー?」
導火線に火を付ける。火は導火線を伝って――
ドガン!!
大きな音が洞窟を揺らした。
煙が収まると――見事に岩盤を貫通した光景が目に飛び込んできた。
「いけたいけた♪」
「おお、すごい……。それにしてもこの岩盤、結構な厚みがありましたね……。これはなかなか壊せないですよ。
それでもってあの報酬の金額というのは……ちょっと安すぎの気がしてきましたね」
「まぁまぁ。今回は爆弾の練習ということで良しとしよう。
……それじゃ依頼主さんを呼んでくるねー」
依頼主さんを呼んでチェックをしてもらう。
チェックはどう見ても貫通してるから、あっさり通ったんだけど――
「それにしても……たった2発で済んだんですか……? 自分たちでやれば良かったかな……」
――とか言ってたよ?
やっぱり壊しにくい岩盤だったのは把握してたんだね。まぁ普通の爆弾だったら2発では済まなかったとは思うけど。
その後、報酬の引換証をもらって依頼主さんとはお別れ。
この引換証を持っていけば、冒険者ギルドの窓口で報酬をくれるんだって。
「――さて、それじゃ2件ともこなしたし、そろそろ帰ろうかー」
「アイナさん! 少し疲れましたし、お茶でも飲んで休憩していきませんか?」
安定のエミリアさんである。
でもまだ日も高いし、それも良いかな?
「それじゃ少し落ち付いてから戻りましょうか。今日はちょっとしたお菓子も持って来たんですよー」
さりげなくお菓子を用意していた私の手腕に、エミリアさんもルークも驚きだ。
「わーい、アイナさん気が利くー♪」
「い、いつの間に……」
その後、少し休憩してから街に戻った。
うん、1日目にしては何事も無くスムーズに終わっちゃんじゃないかな?