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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
369/911

369.神託の迷宮

 ――王国軍との戦いが終わって、今日で3日が経った。


 アイーシャさんは引き続き忙しい毎日を過ごしている。

 彼女の仲間の三人も同様で、その姿を見ることはほとんど無かった。


 そんな中、何となく手持ち無沙汰だった私とルーク、エミリアさんは、クレントスの街を三人でぶらついていた。



「……戦いが終わったのは良いとして、何だかやることが無くなっちゃいましたね」


「そうですね……、みなさんそれぞれ忙しそうですし。

 指示を出してもらえれば、いろいろと協力はできそうなんですけど……」


「微妙にお客様待遇なところがある……っていうか?」


「まさにそれです! アイナさんとルークさんがビッグネーム過ぎるんですよ!

 さすがにそんな人たちに雑用は頼めませんから……!」


 ……ビッグネーム。

 私は『神器の魔女』で売り出し中だし、ルークは『竜王殺し』という汚名を着ている。

 確かにそんな人たちに、誰でもできるようなことは頼めないだろう。



「……雑用では多分無いんですけど、アイーシャさんから『相談事』があるとは聞いているんですよね。

 でもそういう話の流れにならないし、どうしようかなぁ……」


「『相談事』……? 何でしょうね?

 すぐにお話が無いことを考えると、準備が必要だったりするんでしょうか」


「さぁ……?

 それにしても昨日も一昨日もまったりと過ごしちゃったから、今日こそは何かをやりたいですよね」


 ちなみに先日再会を果たしたジェラードは、早速別行動で何かを調べ始めたようだ。

 とても張り切っていたようだし、そのうちきっと良い情報を持ってきてくれることだろう。



「――アイナ様、時間があるなら『神託の迷宮』に行ってみませんか?」


 ルークが突然、そんな提案をしてきた。

 逃亡生活の中で、最後の望みとしてきた場所――


 ……私たちはすでに平穏を取り戻している錯覚を覚えてしまうが、そんなことはまるで無い。

 クレントスから外に出てしまえば、私たちはまだまだお尋ね者なのだから。


「まだお昼前だし、それも良いかな?

 ところで『神託の迷宮』って、ここからどれくらい掛かるの?」


「馬車を使えば片道1時間といったところです。

 クレントスまで乗ってきた馬車は、アイナ様がお持ちですよね?」


「うん、アイテムボックスに入れてるよー。

 馬は……えぇっと、街門の近くで預かってもらっているんだっけ?」


「はい、そのようにしています」


「それじゃ天気も良いし、ピクニックがてら行ってみようか。

 ……寒いけど」


「はい、冷えないように上着も持っていきましょうね」


 先日までは必死に目指していた『神託の迷宮』ではあるが、今は何ともゆるい感じになってしまった。

 しかし、行くとなれば気を引き締めなければいけない。何が起こるか分からないのだから。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――2時間後。

 私たち三人はクレントスの北部、廃れた遺跡を訪れていた。


 神殿のような建造物が崖に埋もれている――見た目はそんな感じだろうか。

 存在感のある2本の柱の間に、中へと続く大きな空洞が厳かに広がっていた。


「……ここが『神託の迷宮』?

 何だか『循環の迷宮』とは雰囲気が違うね……」


 王都の北部にあった『循環の迷宮』は、そのまわりにちょっとした街のようなものが作られていた。

 迷宮を訪れる冒険者を相手に、様々なお店や宿屋などが営業をしているためだ。


 ……しかし、『神託の迷宮』のまわりにはそういったものがまったく無かった。


「この迷宮には何も無いと言われて久しいですからね……。

 入ってもすぐに行き止まりの迷宮ですし、宝箱や魔物も特に無いので……」


「話には聞いていたけど、まさかここまで興味を持たれていないとは。

 ……とりあえず入ってみよっか」


「はい!」

「はーい、そうしましょう!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 特に何の妨害も無く迷宮に入ると、そこには学校の体育館くらいの空間が広がっていた。

 内部には障害物も無く、隅から隅まで見渡すことができる。


 壁は『循環の迷宮』と同じように、剥き出しの岩が微かに青白い光を放っていた。

 しかし、それだけと言えばそれだけ――


「……え? 何も無いよ?」


「はい、何もありません」


「ほ、本当に何も無いですね……」


 ……いや、ここって『迷宮』なんだよね? 迷う要素がまるで無いんだけど……?



「――光竜王様、何でここを訪れるように言ったんだろ……」


「まったくですね……。

 でも思い返してみれば、光竜王様は『無事に試練を乗り越えることができたなら』……って言ってましたよね?」


「え? だから試練って、王国から指名手配をされて、散々な目に遭ってきたじゃないですか――

 ……って、もしかしてあれは試練では無かった!?」


「うぅ……。正直、そうは思いたくないですが……」


 価値観が大きく変わるほどに、私たちは危険な逃亡生活を過ごしてきた。

 てっきりそれが試練だと思い込んでいたんだけど――


 ……違う?


 そう考えただけで、頭がくらっとしてしまった。

 もしかして、私たちはまたここから散々な目に遭わなくてはいけないのだろうか……。


「そ、そうだ! ここで何かが起きるには、何か条件があったり――とか!?」


「条件……?」


「例えば神託を受けるために、神器を捧げなければいけない、とか!!」


「おお! 可能性としてはありますね!!

 それではルークさん、早速お願いします!!」


「え、えぇ!? ……捧げるというと、普通に上に掲げれば良いのでしょうか……?」


 そう言いながら、ルークは神剣アゼルラディアを両手に持ち、上に向かって掲げてみた。


 ――しかし何も起こらなかった!!


「……ダメ、ですね。

 もしかしていわゆる伝説っぽく、聖女の祈りとかが必要なのでは?」


「それではアイナさん、お祈りをお願いします!」


「いやいや、私は魔女ですから。

 聖女といえば、どこからどうみてもエミリアさんじゃないですか」


「えぇー? アイナさんは絶対神アドラルーンの使徒なんですから、完全に否定はできないと思うんですけど……。

 ほら、魔女っていうのも割と自称じゃないですか」


「……そう言われると、ちょっと怪しいかもしれませんね。

 それではエミリアさん、一緒にお祈りをしてみましょう」



 私とエミリアさんはとりあえずルークの持つ神剣アゼルラディアに向かって両手を組み、目を閉じて祈ってみた。

 祈るといっても何をどうすれば良いのか分からなかったので、『何かが起きますように』と念じてみたのだけど――


「……何も起きませんね」


「んー……。

 ここはエミリアさん、祈りに加えて聖女の舞いが必要なのではないでしょうか」


「……アイナさん。もう完全に適当に言ってますよね」


「分かりました?」


「分かりますよ!!」


 私の適当っぷりに、エミリアさんは可愛く頬を膨らませて怒ってしまった。

 でも、そうそう良い案は出てこないんだよなぁ……。


「……私はもう、ネタ切れです。

 クレントスに行く前にこっちに来てたら、絶対に絶望していたパターンですよね」


「それ、想像したくないです……。先にクレントスに行って良かったです……」


「他案、他案……。

 ……やっぱり神器が何か関係あるのかな? ルーク、ちょっとアゼルラディアを貸して?」


「はい、気を付けてくださいね」


 そう言いながら、ルークは静かに剣を差し出した。


「私と私の仲間は、それなりに持てるようになってるから――

 ……っと、でもやっぱり重いか」


 ルークの補助を受けながら、私は神剣アゼルラディアを手に取った。

 例えば神器を作った私が、その神器を通すことで何かを感じられるのでは――そう思ったのだ。



 ……気持ちを落ち着かせて、精神を静めて、そして剣に意識を映す。



「……ん。んんー……。

 んんー? 何だか遠くの方で、よく分からない程度の音がするというか……?」


 ――錯覚、という自信もある。

 本当に、ただの気のせいかもしれない。


「アイナさんの仲間が持てるというなら、私も持てるんですよね?

 やらせてくださいー!」


「気を付けてくださいね」


 私はエミリアさんに剣を渡して、交代することにした。


「……わぁ♪ 実は私、アゼルラディアって初めて持ったんですよ♪

 えっと、それじゃ――集中っ!!」


 エミリアさんは楽しそうに言ってから、すぐに真面目な顔で集中を始めた。

 しばらくすると――


「……確かに、ゴゴゴ……みたいな感じの、聞こえてきますね!

 でも、何でしょう? 耳鳴り?」


 私とエミリアさんの結果を踏まえて、ルークも試してみる。

 すると――


「……本当ですね、確かに何かが聞こえるようです。

 私もずっとアゼルラディアを持っていますが、こんなことは初めてですよ」


 ……おお。三人が三人ともこれならば、何かのヒントにはなりそうだ!!



 ――しかし、そのまま3時間ほどいろいろと試したものの、それ以上のことは何も分からなかった。


 今日中に調べる必要も無いので、ひとまずはクレントスに戻ることにしたんだけど――

 ……それにしても、光竜王様は私たちに何をさせたかったんだろう?


 もしかして、本当にこれから『試練』が待ち構えているのかなぁ……。それ、絶対に嫌だなぁ……。

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