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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
361/911

361.クレントス最終戦①

 2日後の早朝、戦いが始まった。


 ……いや、戦い自体はすでにずっと続いているのだけど、最後の戦いが始まったのだ。

 今回は私も街から出て、たくさんの兵士や冒険者たちに混じっていた。


 王国軍がいわゆる軍隊なのに対して、こちらはいろいろな寄せ集め……といった感じだ。



「思ったより冒険者もいるんだねぇ……。ちょっと怖い人が多いけど」


 私が周囲にいる強面を眺めながらそんなことを言うと、ルークは丁寧に答えてくれた。


「はい、『仕事』としては報酬が多いですから。

 特に活躍した人にはかなりの額が支給されるそうですよ」


「ふーん? ……でもそれ、いざというときには大丈夫なのかなぁ。

 敗戦が濃厚になったら、一気に崩れる……みたいな」


「要所はクレントスの騎士団が押さえていますし、今のところは上手くまわっていますね。

 少なからず王政への不満を持っている人たちですので、そこまで薄情でも無いでしょう」


 ……まぁ、そんな心配をしても今さらか。

 アイーシャさんはそこを含めて、戦いを起こしているのだから。



「ところで、いつもはどんな感じで戦っているの?

 今は前線の一部が小競り合いをしているくらいだけど」


「いつもこんな感じですよ。ね、ルークさん」


 私の言葉に、エミリアさんがぴょこんと反応してきた。

 エミリアさんは何回も参加しているせいか、とても落ち着いているように見える。


「そうですね、今までは小競り合いをして終了……といった流れでした。

 王国軍は増援待ちでしたし、こちらは戦力が少ないので、なかなか踏み込めない状態だったんです」


「ふむー。今日は魔星クリームヒルトが来るだろうし、総力戦になるのかなぁ……」


「いずれそうなるのであれば、早々に決着を付けてしまいたいところですが……。

 どこでどうなるかは分かりませんので、お二人とも十分に気を付けてください」


「うん、みんなで元気に戻ろうね」


「はい! 祝勝会で、たくさんお料理を食べましょう!」


 ――戦場にあっても、エミリアさんは平常運転だった。

 実際、この明るさには何度助けられてきたことか。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――改めて考えると、ここは戦場である。


 戦場では命を賭してお互いが戦い合い、殺し合う。

 従って、怪我人なんてものは簡単にたくさん出てしまうわけだ。


「あぅ……。はぁ、はぁ……」


 時間を経るにつれて、救護スペースには怪我人が多く運ばれるようになってきた。

 小競り合いはとうに終わり、今は結構な人数同士でまともにぶつかり合っている。


 想像以上に怪我人が多いようで、私とエミリアさんは救護班に参加することにしていた。



「大丈夫です、気を確かに!!」


 私は怪我人に大声で話し掛けながら、どんどんポーションを作って振り掛けていく。

 支給品のポーションはたくさんあるが、いつ無くなってしまうかは分からない。

 そのため、自分で使う分についてはその場で作りながら使うことにしていた。


「あ、ありがとう……。

 はぁ、マジで熱っちいわ……」


 熱い――そういえばこの短時間で、火傷をする人が多くなってきたように感じる。

 それまでは剣や鈍器での外傷が多かったんだけど――


「もしかして、魔法でやられたんですか?」


「おう……。魔法使いの5人組がいてな、瞬殺だと思って襲い掛かったらこのザマだよ……。

 はぁ、情けねぇ……」


「もしかして、魔星クリームヒルト……?」


「俺には分からねぇが、そこらの魔法使いの雰囲気では無かったな……。

 ……ああ、すまん。ちょっとだけ眠らせてくれや――」


 そう言うと、目の前の男性はすぐに眠ってしまった。

 さすがに酷い火傷だったし、今は回復に専念してもらおう。



 顔を上げて少し遠くを見てみると、エミリアさんが別の怪我人に魔法を掛けているところだった。

 いつもはルークとペアで戦闘に参加をしていたそうだが、今日は救護の方にまわされている。


 怪我人が多いというのが理由のひとつだが、もうひとつには防護の魔法を使えるから――というのもあるらしい。

 ここを攻められたとしても、少しの時間、少しの人数なら護ることができるためだ。


 ……確かにエミリアさんは、前線よりもこういった場所にいる方が似合っているかな。


 ちなみにルークは、いつも通り他の部隊に混じって前線に行っている。

 私を戦場に残して離れるのは不満そうだったが、私を前線に連れていきたくないという気持ちもあったのだろう。

 案外素直に、今のような形になってしまっていた。



「……はぁ。この先、どうなるか分からないなぁ……」


 前線の方を眺めれば、より一層、戦いは激化しているようだった。

 エミリアさん曰く、いつもよりも戦いのペースがずっと速いらしい。

 王国軍としては、きっと戦いを今日中に終わらせたいのだろう。


 ……ルークは無事だろうか。

 そこら辺の兵士には負けるとは思わないけど、問題はやはり魔星クリームヒルトだ。


 先ほどの怪我人の火傷を見るに、あれは正直痛そうだ。

 これが元の世界であれば、元気に動けるようになるまでには相当の時間が掛かることになるだろう。


 この世界にはポーションがあるから、すぐに回復することができる。

 しかしそのせいで、戦いも泥沼になりやすくなってしまう。


 こちらの戦力がすぐに回復する分には何の問題も無いが、敵の戦力もすぐに回復してしまうわけだから――




「――うおぉおおおぉおおおぉ!! クリームヒルトぉおおおぉおぉ!!!!」



「え!?」


 突然、空に大声が響き渡った。

 驚いて見上げると、ポチに乗った獣星が空を駆け、王国軍に一直線に向かっているところだった。


「あぁっ!? 獣星さんっ!!」


 エミリアさんも彼を見上げながら、私のところまで走って近付いてきた。


「今、魔星の名前を叫んでませんでした?

 ……一体、どういうこと……?」


「あの……獣星さんの仲間たちは、魔星に殺されていたそうで……。

 多分、復讐に――」


 獣星は、ここから離れた東門側を今日も護っている予定だった。


 しかし魔星クリームヒルトの話をどこかで聞いてしまったのだろう。

 思わず逆上して、持ち場を離れてしまった――そんな感じだろうか。


「でも私たち、ここからじゃ何もできませんね……」


「はい……」


 エミリアさんは心配そうに、そのまま両手を組んで祈り始めた。

 せめて、命を落とさずに戻ってきてくれれば良いんだけど――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――ちっくしょう……」


 エミリアさんの祈りが届いたのか、1時間ほどすると酷い火傷をした獣星が私たちのところに運ばれてきた。

 運んできたのがポチだというあたり、何とも獣星らしいというか……。ただ、ポチも火傷だらけだった。


「獣星さん、大丈夫ですか!? ポーションを掛けますよ!!」


「俺より……ポチを先に……」


「ああ、もう! 一緒に掛けてあげますから! ほら!!」


 自分の方が重症なのに、仲間を優先させる獣星。

 それは立派な心掛けかもしれないけれど、何だか無性に歯痒かった。


「うぅ……。アイナ殿には何回助けられたことか……」


「はいはい、こういうときはお互い様ですからね!

 はーい、ポチ~♪ ポチにもポーションを掛けてあげますからね~♪」


「グリュ♪」


 私の声に、ポチは嬉しそうな返事をしてくれた。

 見た目はちょっと怖いけど、ポチって可愛いんだよね。

 ……飼い主が真っすぐな性格だから、ポチも良い子に育ったのかな。



「それで獣星さん、この火傷は一体どうしたんですか?」


 私がポチにポーションを掛けている間、エミリアさんが獣星に念のため……といった感じでヒールを掛け始めた。

 エミリアさんはエミリアさんで、獣星を結構気に入っている様子なんだよね。やっぱり真っすぐなところが良いのかな。


「クリームヒルトに仇討ちをしようと思って突っ込んだんだが……まわりの連中にしてやられてな……」


「え? クリームヒルトにやられたんじゃないんですか!!?」


 突然の私の大声に、獣星とエミリアさんは驚いてしまった。


「……いや、この火傷自体はクリームヒルトの魔法なんだが、まわりの連中に魔法の障壁を張られてしまったんだ。

 こっちの攻撃が通じなくて、そのまま反撃を食らってしまって……」


「魔法の障壁ですか?

 ……そういえば獣星さんって、攻撃はどうやってするんですか?」


「うん? 基本的にはポチのブレスや直接攻撃だな。

 あとは俺も、補助的に弓を使うぞ」


「え、えぇーっ!!? そ、それを先に言ってくださいよーっ!!」


「お、おぅ!?」

「アイナさん、何かあったんですか……?」



 私が頑張って作った矢なら、その局面では絶対に役に立ったのに!!


 ――でも、それも今だから言えることか。

 例の矢は結局1本しか作らなかったから、誰にも渡すことができていなかったんだよね。

 ……誰が魔星クリームヒルトのところに辿り着けるか分からなかったし、強力な弓使いに心当たりがあるわけでも無かったから。


 しかし、実力のありそうな弓使いは案外近くにいたのだ。

 本職よりも腕は落ちるかもしれないけど、それでも獣星は七星に選ばれるほどの実力者。

 きっと弓の実力も侮れないに違いない……!

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