36.お寝坊さん
コンコンコン。
…………。
コンコンコン。
…………んん?
「――アイナ様、おはようございます」
……んー?
目が覚めると朝だった。
うーん……、あれ? 今日はしっかり起きれなかったぞ……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――それにしてもアイナ様が寝坊だなんて、珍しいですね」
宿屋の食堂で朝食中。
ルークにとりあえずそんなことを言われる。
何だかんだで目覚めは良い方だったんだけど、今日は見事に寝過ごしてしまっていた。
「うー、面目ない。昨日は普通に寝たんだけどなぁ……。ああ、寝る前にいろいろと試してたけど」
「試してたって、錬金術ですか? もぐもぐ」
「はい、色々と思い当たることやっていたんですが。……目に見える成果はとりあえずコレしかないですけど」
そう言いながら、アイテムボックスからリンゴジュースを取り出す。
「はい、ルーク。錬金術で果物からジュースを作ってみたよ」
「ほ、本当に作ったんですか……? あ、頂いても?」
ルークは食事の途中、リンゴジュースに口を付ける。
「……おお、これは美味しいですね」
「ルークさん、私にもくださいー」
「えーっと……」
ルークがちらっとこちらを見る。はいはい、エミリアさんの分もありますよ。
「はい、エミリアさんの分。どうぞー」
「ありがとうございます! ごくごく……うん、美味しいですね! 爽やかな甘みが素敵です!」
評価は上々。リンゴだけで作れてこれなら良いよね。
「――というわけで旅先での美味しいジュースが約束されました。……っていうのは置いておいて。
あとは他に、『空箱の魔石(中)』なんですけど――エミリアさんはそれの効果、重さをどれくらい軽減するかご存知ですか?」
「中ですか? 確か30%ですね、小の2個分です。ちなみに大は45%だったかと思います」
「え、そうすると小3個と大1個が同じなんですか?」
「そうなりますね」
えぇー。小が15%、中が30%、大が45%……。覚えやすいけど、そんなものなんだ?
「ふーむ……。小3個で中1個を作れるらしいのでどうしようか悩んだんですが、止めてよかったです」
「え? 『空箱の魔石(中)』も作れるんですか……? あれって……作れるものなんですね……。すごいですね……」
ちなみに『空箱の魔石(小)』は金貨10枚、『空箱の魔石(中)』は金貨30枚、『空箱の魔石(大)』は金貨90枚ほどの値段らしい。
下位の魔石から上位の魔石を作って差額で儲ける……というのは出来なさそうだ。上手く出来ているなぁ……。
昨日は他にユニークスキルの検証もやったけど――これが一番大きな収穫だったけど、そもそもユニークスキルの存在自体、この2人には話をしていないからなぁ。
この報告は別に要らないかな。まぁ必要があればその内ってことにしよう。
「それにしても、この宿屋は朝から肉肉しいメニューだよね」
プレートに乗ったお肉を食べながら一言。
「朝食をしっかり取って、力に変えなければいけない街ですからね」
ルークも食べながら返事をする。
「そういえばアイナさん。金策って、何をするんですか? もぐもぐ」
エミリアさんがお肉を美味しそうに頬張りながら聞いてくる。
「まだ何も決まっていないので、とりあえず冒険者ギルドに行って何か依頼が出ていないか見ようと思ってます。
錬金術で何かを作って買い取ってもらうのも良いんですけど、私の場合はすごく目立ってしまうので」
「え? 目立つって、何ですか?」
エミリアさんがきょとんと聞いてくる。
「私が錬金術で何かを作ると、全部S+級になっちゃうんですよ」
「……それ、すごいですね……」
「あはは……。クレントスではそれでちょっと目立ってしまいまして……。
そんなわけなので何か依頼をこなして金策をするか、それとも別の何かを考えるか――ですね」
「アイナさん肝入りのガルルンの木彫りも、まだ出来てないですしね」
「そうですねー。でも、あれだってすぐ大人気になるとも思っていないので――……というわけで、別の何かで」
「そうしましたら、やはりまずは依頼でしょうね。魔物退治が多そうですが」
ルークが一旦、依頼の話に戻す。
「……魔物討伐となると、私は役立たずだけどね」
「そう仰らず。後ほど冒険者ギルドで、全員の適正を考えて良いものを選びましょう」
「うん、そうだね。みんな出来ることは違うしね。いざとなれば、私もアイテムボックスと錬金術をフル活用して、豊かな休憩時間を提供するよ!」
「やったー!」
「アイナ様……それは……いや、あの……、えぇ……?」
エミリアさんの反応は良かったが、ルークの反応はいまいちだった。何か思うところがあるのだろう。何となくは分かるよ、うん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドは賑わっていた。
やっぱり筋肉隆々の人が多いのは街の性格のようだ。
「ふーん? やっぱり魔物討伐の依頼が多いねー」
掲示板を眺めるとやはり目に付く魔物討伐。
「そうですね。近場は比較的安全なのですが、貴重な鉱石を採ろうとすると街から離れなければいけないんです。
そういった場所には魔物が棲んでる――という感じですね」
なるほど。
普通の鉱石は近場で採れる。いわゆる鉄とか銅とか、そういった一般的な鉱石だ。
これがこの街の主力産業になっているのだが、これとは別にいわゆる冒険者ご用達――といった鉱石もあり、こちらが先の魔物討伐に繋がるらしい。
「――もしかして、あれ? オリハルコンとかミスリルも採れるのかな?」
「アイナさん、オリハルコンは自然界には存在しませんよ」
「え? そうなの?」
「はい。オリハルコンは神の金属。神の祝福により生み出されると言われています。
現存するものは、伝わっているところでは皆無ですが……」
えぇー? そしたら神器なんて作れないじゃーん!?
……あ、そうしたら自分で作れば良いのか。
それにしても作るオリハルコンを作る素材が分からないと――って、そこで『英知接続』を使えばいいのか。
でもなんかあのスキル、あんまり使いたくないんだよなぁ。
『空箱の魔石(中)』を調べるだけであんなに体調崩したのに、それより明らかに難易度が高そうなオリハルコンなんて調べようとしたら……ああ怖い。
うん、ひとまずオリハルコンは後にしよう。
「……ちなみに、ミスリルは自然界にあるんですか?」
「稀にミスリル鉱脈が出たという噂は聞きますけど……。その噂が広がる前に、あらかた採り尽されてしまいますね」
「あるはあるんですね。ということは、市場に流通している……?」
「うーん、一般の市場ではあまり見ませんね。時価ではありますが、かなり高額になりますし……。それに、貴族がこぞって買いに名乗りをあげますから」
「うわー、もし買うってなったら貴族と財力バトルになるわけですか……。うーん、手持ちのお金すら無いというのに、それはきつい……」
――つまり、何はさておいてもまずは金策をしなければ。
でも、金策中に一発逆転の夢を見てミスリル鉱脈を探す――っていうのも良いよね。
「それじゃ今日はひとまず慣れるために、何か軽いやつを受けてみようか?」
「そうですね。それならこれはいかがですか? それとこちらは、アイナ様が可能であれば……ですが」
ルークが最初に示したものは魔物討伐の依頼。
私が可能であればと示したものは岩盤破壊。
……岩盤破壊?
「え? 私が岩盤破壊するの? ど、どうやって?」
「確か錬金術で爆弾のようなものが作れたかと思いまして……。
それにこの依頼でしたらアイテムの納品ではないので、アイナ様の作る爆弾がS+級であっても問題無いかと」
……なるほど。
そういえば今まで薬ばかり作っていたけど、爆弾みたいのも錬金術で作れそうだもんね。
脱・お医者さん!
それにしても爆弾かー。
今までちょっと馴染みが無いけど、材料は何がいるのかな?
どれどれ、『英知接続』――
――って、ダメダメ! あぶな、自然に使うところだったよ!!
ひとまず爆弾についてはどこかで実物を探して、それで作れるようなら岩盤破壊の依頼も受けてみようかな?




