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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
358/911

358.彼の国では

 次の日の朝食後、外出の準備をしているとアイーシャさんが私の部屋を訪れた。

 彼女がわざわざ来るだなんて、とても珍しいことだ。


「アイナさん、おはようございます」


「おはようございます、アイーシャさん。

 突然、どうしたんですか?」


「うふふ、お礼を言おうと思って。あまり時間が無いので、立ちながらで失礼しますね」


 アイーシャさんは満面の笑みで、私に言った。


「……お礼?」


「ええ。メイドから聞きましたよ。

 お屋敷の消耗品、たくさん作ってくれたんですって? ほら、石鹸とか美容品とか」


 ……ああ、なるほど。

 昨晩のうちにいろいろと作って、アイーシャさんがいなかったからとりあえずメイドさんに渡しておいたんだっけ。

 とりあえずいろいろと雑多に渡したから、何を渡したかは細かく覚えていないけど――


「いえいえ、それくらいでしたら全然。私たちもお世話になりっぱなしですので。

 それと美容品はある程度調整ができますから、何かあったら教えてください」


「それは素敵ね!

 私も話には聞いていたけど、こんな錬金術師さんが近くにいたら贔屓にしてしまうわ♪」


「あはは。おかげ様で、王都では好評だったんですよ」


「……王族の女性方からすれば、アイナさんを手放さない方が良かったんでしょうね。

 まったく、国王陛下も一時の感情であんな命令をするなんて……」


 そう言うと、アイーシャさんは軽くため息を衝いた。

 『あんな命令』というのは、『私たちを殺す命令』のことだろう。

 そのおかげで私たちはクレントスを訪れるまで、ずいぶんと酷い目に遭ってきたのだ。


「王様も裏でいろいろ画策したとは言え、死ぬきっかけが私だったっていうのは申し訳が無いですけど……」


 ……という考えはさらさら無く、こう言ったのは言葉の綾である。

 自分の欲――もしかしたら『王様という立場の欲』なのかもしれないけど、王様はそれに振り回された結果の自業自得だ。


「――そうなんですか?」


「え?」


 ……アイーシャさんは優しい顔で、私の真意を見透かすかのように言った。

 彼女に掛かってしまえば、薄っぺらい言葉なんてすぐに看破されてしまうか。


「そんなアイナさんに、良い知らせか悪い話かは分かりません。

 ひとつ、王都の情報が入ってきているのですが――」


「むむ? 何ですか?

 悪い話でも、聞いておきたいです」


 突然去らなくてはいけなくなってしまった王都。

 私の王都での記憶は、すべてあの日のところで止まっているのだ。

 だからこそ、何かを教えてくれるのであれば、それが何でも聞いておきたかった。



「――アイナさん。アイナさんは死んだと思い込んでいらっしゃいますが……国王陛下は、まだご存命ですよ」


「は!?」


 アイーシャさんの言葉に、私は思わず声を荒げてしまった。

 王様は『白金の儀式』のペナルティとして、私の目の前で致死ダメージを受け、そして自身の血の海に沈んだはず――


 ……正直、私は驚きを隠せなかった。


「いえ、そうは言っても『生きているだけ』です。

 今もなお、高名な聖職者や治療師が24時間体制で治療を続けているそうなんですよ」


「も、もしかして……このまま、死なない……?」


「いえ、それは無いと思います。

 何でも、傷がまったく塞がらないのだとか。そういう呪いもあるそうですが、今回はその呪いというわけでも無いようで……」


 致死ダメージは、『白金の儀式』のペナルティ。……その効果はさすがといったところか。


 あのときの王様の目的は、私を隷属させることだった。

 しかし普通に奴隷紋を刻まなかったのは、それが解除される可能性があったからだ。


 私が奴隷になったところで、例えば魔法を打ち消す魔法――バニッシュフェイトを使えば、どんなに強固な奴隷紋であったとしても解除ができる。

 だからこそ、王様はわざわざ『白金の儀式』という超越的な仕組みに頼ることにしたのだ。


「……そうですよね、きっと王様が目を覚ますことは無い……。

 でも、まだ生きていたなんて――」


「一般には公表されていない話です。

 ただ、このまま先の見えない治療を続けるか、そろそろ諦めるかで、王族の中でも揉めているそうです」


「意識を取り戻す可能性は無いでしょうし、ずっとこのままでは政治にも影響がありますからね……」


「はい。そこでまたひとつ大きな問題がありまして……。

 王位継承問題なんですが……」


 アイーシャさんは再びため息を衝いた。


「確かに王様が亡くなるのであれば、次の王様を決めなければいけませんよね」


「今、王族が2つの陣営に分かれて、争いが起きているんです。

 これは本来では考えられなかった争い。……アイナさんをきっかけに起きた争いなんです」


「……私の?」


 さすがにそれは、私も驚きだ。

 まさか私の存在がそんなところに影響しているだなんて……?


「アイナさん、国王陛下が亡くなった場合、誰が次の国王になると思いますか?」


「え? それは子供とか、いるのかは分からないですけど、副王様とか?

 ……もしかして、お妃様?」


「いえ。王位継承順位第1位の方が、ただちに王位を引き継ぎます」


「ああ、そういう順位もありましたね。

 ちらほら聞いていましたが――なるほど、すぐにそっちにまわってしまうんですか」


「はい。そして問題なのは、現在の王位継承順位第1位の方なんです。

 ……その方は、アイナさんもご存知のはずですが……」


 確かにそんなフレーズは王都にいる間中、何回も耳にした記憶がある。

 『白金の儀式』のときもそんな話をされたわけだし。えぇっと、今の王位継承順位第1位の王族は――



「――っ!!

 オティーリエさん……!?」


「その通りです。

 『白金の儀式』での勝利を確実なものとすべく、彼女はそのためだけに王位継承順位を第22位から第1位に上げていたんです。

 本来であれば、次の日には順位の降格を行うことまで決まっていたそうなのですが……」


「今は、第1位に残ることを望んでいる……?」


「国王陛下の復讐のためと、あとは王族にもしがらみがありますからね。

 そのあたりで、引くに引けない状態になってしまっているそうです」


「オティーリエさんは人間としても問題があるのに、王様になんてなったら……どうなるんでしょう?」


「あの方は直情的で感情的なので……やり難い相手になってしまいそうです。

 軍事の方向に傾いてしまうかもしれません。もしかしたら、そのまま自滅してくれるかもしれませんが」


「はぁ……。

 ……王様が死んだっていう話を聞かないと思っていましたけど、まさかそんなことになっていたなんて……」


「天候と大凶作の問題に加えて、王位継承問題。

 ……私たちにとっては、向こうの問題はありがたくはありますが――」


 そう言いながらも、アイーシャさんは困った顔を見せる。

 結局のところ、しわ寄せが行くのはこの国の人たちなのだ。



「……戦いが終わっても、いろいろありそうですね」


「はい。だからこそ、アイナさんにはたくさん頑張ってもらわないと。

 頼りにしていますからね!!」


 そういえば、戦いが終わったあとにはアイーシャさんから『相談事』があるんだっけ。

 その辺りをひっくるめて、アイーシャさんとの付き合いもまだまだ長くなっていきそうだ。


 ……このままクレントスで暮らしていければ良いなぁ。

 しかしそこに至るには、とりあえず目先の戦いを何とかしないといけないのだ。


「――お任せください!

 あ、そうだ。お話は伝わっているとは思いますが、今日もいろいろと探し物をしてこようと思います」


「『魔響鉱』……というものを探しているんでしたっけ?

 私も軽く調べてみましたけど、なかなか出回っていないようでしたね……」


「それは残念……。

 でも、どうしても必要ってわけでも無いので、あまり心配はしないでください」


「分かりました。でも、一応は探しておきますね」


「ありがとうございます。

 ……ああ、魔法関連のお店にあったはあったのですが、金貨12枚と言われて保留にしています。なので、あそこは無視で大丈夫です」


「少し高いですけど、でもそれくらいなら――」


「……信憑性は分からないんですが、あそこで買うと、魔女の場合はご主人と恋愛フラグが立ってしまうそうなんですよ」


「ええ? あそこの主人って――……ああ、アイナさんには少し年上ですね。

 でも、『魔女』っていう条件は、アイナさんには当てはまるような……当てはまらないような?」


「あはは。何だかもう、ちょっと相手したくないっていうか……」


 ただ、そうは言っても最後の最後には買ってしまっても良い気はしてきてしまった。

 あのご主人は、交渉から恋愛に発展すると言っていた。それならば、交渉をせずに即金で買ってしまえば良いだけなのだ。


 ……でも、別れ際の言葉から察するに……正直、まだ諦めてはいないようだったよね……。



「――ま、まぁまぁ。

 アイーシャさんはもっと大きなことを考えているのですから、素材探しくらいは私の方でやりますよ!

 いろいろと考えて頂いて、ありがとうございます」


「そう? でも困ったときは相談してくださいね。

 私がいなければ、私の仲間やメイドに伝えてください。

 ……それではそろそろ失礼しますね。今日も頑張りましょう!」


「はい!」



 私との会話を終えると、アイーシャさんは急ぎ足で廊下を走っていった。

 忙しい中、わざわざお礼を言いにきてくれるなんてありがたいことだ。


 そういえばアイーシャさんの髪、いつもよりツヤツヤしていた気がするけど……ああ、しまった。そこに触れることができていなかった。

 おのれ、オティーリエさんめ――っていうのは、さすがに責任転嫁が過ぎるか。


 ……でも正直、王様たちの話は驚いてしまったなぁ……。

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