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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
356/911

356.巻き込まれたくないお店

 ――眠い。


 天気は良いものの、やはり外の気温は低く、肌寒い。

 これがぽかぽか陽気だったなら、もっと眠気は酷いのだろうけど――


 ……こと今日に関しては、この寒さには少しだけ感謝したいところだった。


「さて、ケアリーさんに教えてもらった魔法関連のお店は……ここかな?」


 冒険者ギルドから30分ほど歩いた場所の、魔法使いご用達の小さなお店。

 以前、このお店に『魔響鉱』が売られていったらしい。


 それは半年前の話らしいから、残っているかどうかは怪しいけど……はてさて、どうなることやら。



「こんにちはー」


「はい、いらっしゃませ。げっふっふ」


 ……ん? 何か変な感じの笑いがあったぞ……?

 私を出迎えてくれたのは中年の男性だったけど、例の『ひぇっひぇっひぇっ』のお婆さん姉妹を思い出してしまった。


「すいません、『魔響鉱』っていう鉱石を探しているんですが、こちらに置いていますか?」


「お客さん、お目が高い!

 『魔響鉱』ならコレ! 金貨12枚でお売りしますよ!!」


「高ッ!!」


 そんな値段じゃ、半年経っても売れないわ!!


「……いえ、私もね、それは分かっているんですよ。

 しかし高名な占い師に言われたんです。これをずっと置いておけば、私のタイプの女性が必ずこのお店に現れるって!!」


「は、はぁ……?

 ……その占い師さん、ちゃんと当たるんですかね……」


「もちろんです! その筋ではとても有名な方なんですよ!

 私も3か月待って、ようやく占ってもらえたくらいですから……。ちなみに占い料は金貨10枚でした」


「高ッ!!」


「わ、分かってますとも。高いですとも……!!

 だからこそ、途中で諦めるわけにはいかないんです! でも、もし占い料を負担してくれる人がいるなら、そろそろ諦めても良いかなぁ……って」


 ……な、なるほど。

 冒険者ギルドに払ったのが金貨2枚で、占い師に払ったのが金貨10枚――つまり、合計金貨12枚。

 これをまるまる負担してくれる人がいるなら、『魔響鉱』を手放しても良い……ということか。


 ……とは言うものの、やはり金貨12枚は高いわけで。



「占いの結果って、ご主人のタイプの女性が『魔響鉱』を買いにくるっていう話なんですか?」


「はい、そうなんですよ!

 高額に設定しておけば、交渉を通して親密度が上がって、それをきっかけに二人の心は近付いていき――……だ、そうなんです!!」


「は、はぁ……」


「ちなみに私のタイプの女性ですが、頼りになる人が良いです。

 包容力というか、そういうものを持っている感じの……!!」


 ご主人は話の流れのまま、自らの好みのタイプを語り始めた。

 ……別に聞きたくは無いんだけど……。


「包容力ですか……」


「はい、大切ですよね!

 それに加えて、魔法や錬金術の知識が豊富で、強さに裏打ちされた気高さがあると直球ストレートです!!」


 ……私と微妙に被ってるような、被っていないような……?

 ただ、私は別に気高くは無いからなぁ……って、被っていたらそれはそれで嫌だけど!!


「具体的に、どういう方が良いとかってあるんですか?」


「え!!? そそそ、そんなぁ……。照れちゃうなぁ……」


 私の言葉に、ご主人は顔を赤らめながら恥じらいを見せた。

 ……しまった。私は何を聞いているんだ……。



「――えっとですね、お客さんには何かの縁を感じます。なので言っちゃいますね!

 ……引かないでくださいね?」


「はぁ」


 引く。

 多分、この流れは絶対に引く。絶対、そんな流れになると思う。


「私の同業者なんですが――ミラエルツの魔女様がタイプなんです……!!」


「ひぇっ!?」


「おお!? 彼女をご存知なんですか!?

 あの笑い声も、とってもチャーミングですよね!!」


「そ、そうです……か?」


「ええ、とっても素敵です!!

 彼女を強くイメージしながら、占い師さんにお願いしたんですよ。『魔女様と良縁を持ちたい』って!!」


 あぁー……。

 私も一応『神器の魔女』を名乗っているところだから、仮に私が来ることを占っていたら、占いは当たっているということになるのか……。

 ……もしかしてその占い師さん、本当に凄いのかな!?


 でも、ご主人の願いの本質からは離れているよね……。


 まぁ、金貨12枚で買うのはもちろん嫌だし、値切り交渉をして万が一にも変な流れになるのも嫌だ。

 ……というかぶっちゃけ、もうこのお店にいるのは怖くなってきたというか――


「金貨2枚くらいで譲って欲しかったのですが、難しそうですね」


「はい、申し訳ないです。

 さすがに2枚では売れません……」


 金貨2枚であれば、商売的にもプラスマイナス0になってしまうから、それがダメなのは仕方が無い。

 うーん。一旦ここは諦めて、冒険者ギルドの依頼の方に賭けるかなぁ……。


「すいません。値段の折り合いが付かなそうなので、今回は失礼しますね。

 他で手に入らなければまた来ますので」


「え? もう行ってしまうんですか?

 ……そうそう、この街に『神器の魔女』と呼ばれる魔女様が来ているそうなんですよ。

 その方にも是非お会いしたいなぁ……。きっと素敵な淑女の方なんだろうなぁ……。もしかして、占いの結果に出てきた魔女様っていうのは……ぐふふ♪」


 私は背筋に冷たいものを感じながら、ご主人を残して急いでお店を出ることにした。


「もし『魔響鉱』を探している魔女様いたら、是非うちに連れてきてくださいね!

 ここまで話したんですから、絶対ですよ!!」


「は、はい。分かりました……」


 ご主人の熱意に、ついつい流れで返事をしてしまう。

 私以外で『魔響鉱』を探している魔女さんがいたら、このお店を是非教えてあげることにしよう……。

 ……いないだろうけど。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、小走りで冒険者ギルドに戻ると、ケアリーさんが笑顔で出迎えてくれた。


「アイナさん、お帰りなさい! どうでしたか?」


「モノはあったんですけど、金貨12枚って言われました……」


「え!? さ、さすがにそれは売れないのでは……?」


「詳しくは省略しますが、お店のご主人もそれは認識済みのようで。

 ちょっと無理は言い難い感じでしたので、ひとまず諦めて帰ってきました」


「うーん、そうでしたか……。

 それなら冒険者ギルドの依頼として出しておいて、良かったですね!」


「まったくです。でも、今日中に欲しいんですよね。

 ……金貨2枚での買い取りにしていましたけど、4枚に上げても良いですか?」


「はい、大丈夫ですよ。

 破格の値段ですから、手持ちのある方がいれば、すぐに出てくると思います!」


「出てくると良いなぁ……。

 他の街と行き来ができないせいか、冒険者ギルドにも人が少ないようですし……」


「でも、それなりに人数はいるんですよ。

 クレントスは今、大変な時期ですけど……逆に、儲け話が出てくるかもしれないので」


「なるほど、逞しいですね……。

 それなら冒険者の人に直接当たるっていうのも良いかもしれませんね。

 ……探しに行くとすれば、酒場とか食堂でしょうか」


「そうですね。もうお昼の良い時間ですし、一緒に行ってみませんか?

 ……そうだ、午後休暇をもらっちゃおうかな……」


「え? 突然、大丈夫ですか?」


「本当はちょっと難しいんですけど、アイナさんのお名前を出させてもらえば……。

 神器の魔女様を案内するのであれば、むしろ仕事でも通りそうですし!」


 ケアリーさんは悪戯っぽい感じでぺろっと舌を出した。

 彼女もなかなか、(したた)かになっているような気がする。


「それなら一緒に昼食をとってから、お手伝いをお願いできますか?」


「はい、もちろんです!

 それでは上司に許可をもらってきますので、少々お待ちください!」



 そう言うと、ケアリーさんはカウンターの奥へと小走りで消えていった。


 ……最悪は金貨12枚で買うことも視野に入れておくが、さすがにお金がもったいないという感じが強い。

 普通の6倍の値段だから、それも仕方が無いというものだろう。


 今回作る矢は消耗品だから、そこまでお金をつぎ込みたくはないんだよね。

 ――まぁ、ミスリルを投入する時点で、あまり細かく言うのも野暮な気がしてしまうんだけど。

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