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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
354/911

354.魔星対策

「あはは……。アイナさん、お疲れ様でした……」


 夜、ようやく帰ってきたエミリアさんとルークに苦笑されながら(ねぎら)われる。

 何だかんだで、かなりの時間を『無垢の魔石』の押し付け合いで潰してしまった……。


「そして結局、条件付きとは言え、受け取ってしまいました……。

 うぅーん、何だか重い……」


 もちろん重量的な意味ではなく、意味合い的な重さだ。

 獣星が大切にしていた、魔獣の遺体から出てきた魔石――


「……『無垢の魔石』、ですか。

 確かに売るわけにはいきませんけど、そのうち良いものを作って、自分で使えば良いと思いますよ!」


「そうですね。他の素材の入手方法が分からないから、本当にそのうち……って感じですが」


 良いものをもらったのでありがたい部分もあるけど、逆に下手なものを作れないというプレッシャーもあったりして……。

 ただ人生は長いから、いずれ凄いものを作る機会があるかもしれない。

 ……まぁ、それまでは大切に取っておくことにしよう。



「ところでアイナ様、獣星に出された条件って何ですか?」


「出されたというか、私から出したんだけどね。

 受け取りはするけど、さすがにもらい過ぎって気がするから、せめて獣星さんの次の魔獣育成を手伝わせてって」


「おお、お優しい!」


「獣星さん、魔獣をめちゃくちゃ溺愛しているの。

 これからも戦力は必要だから順次補充するけど、死んだ魔獣の単純な『替え』とは思っていないんだよね。

 ……1匹1匹を大切にしているというか」


「魔獣を使っていろいろな仕事をしていますけど、確かに優しい感じで接していますもんね。

 他の七星の人とは雰囲気が全然違うんですよ」


 ……私たちから見れば、呪星も弓星もろくな人間では無かった。

 ただこの二人、兄弟だったんだよね。もしかしたら、七星だからという理由では無く、この兄弟だけがおかしかったのかもしれない。



「――あ、そうだ。

 アイーシャさんから聞いたんですけど、クレントスに魔星クリームヒルトっていう人が向かってきているそうです。

 それが最後の戦いになるそうですよ」


「おぉ、最後の……!

 それにしても、また七星ですか……」


「遊撃部隊っていうくらいだから、融通が利くんでしょうね。

 一斉に5人きたら大変でしたけど、今となってはそれもあり得ませんし」


「5人、ですか? 7人ではなくて?」


「私たちと関係無いところで、2人は死んでいるそうですよ。

 呪星はやっつけて、獣星はこちら側ですから――あとは魔星と弓星と……、国外に派遣されているというもう1人だけですね」


「王国軍の戦力は七星だけでは無いので、ここで一旦打ち止めというのは正直助かりますね」


 私の言葉に、ルークが少し安心するように言った。


「七星は、組織で強いというか、個人で強いって感じだもんね。

 遠方に派遣するには、そっちの方がやり易かったのかな」


「そうかもしれません。それと、クレントスはある程度放置しても大丈夫ですから……。

 まずは手軽に動かせる方を選んだのでしょう」


「そうだねー……って、そうなの?

 クレントスって、放置しちゃっても大丈夫なの?」


「ええ、クレントスは辺境にあります。

 東側には海がありますが、船が通ることのできない難所なので、どこにも行けないんですよ」


「……つまり他の国や地域と隔絶されている、と」


「クレントスが『辺境都市』と呼ばれる由縁ですね。

 もしも船が通れていれば、もっと栄えていたことでしょう。『交易都市クレントス』などと呼ばれていたかもしれません」


「なるほど。それじゃ、クレントス以外を奪われなければ問題無いと……」


「ずっと放置はできないでしょうけどね。

 ただ、現状すでにアイーシャさんに押さえられているわけですから」


 ……となると、一旦王国軍を跳ねのけたとしても、やっぱりいずれはまた派兵されてしまいそうだ。

 しかしアイーシャさん的には、そこからいろいろとやることがあるのだろう。

 派兵が止むのを待っていたようだし、算段はある――ということか。


「その辺りはアイーシャさんたちが上手くやってくれると思うし、私たちは見守っていようか。

 ……見守るも何も、ルークとエミリアさんは前線で戦っているわけだけど」


「あはは♪ でも私たちは夜に帰れるから、そこは楽ですね。

 王国軍も夜はあまり動かないとはいえ、しっかり街を護らなければいけませんし」


「そうですね。護ってくれている皆さんには感謝、感謝です」


 夜、耳を澄ませているとたまにどこかから戦いの音が聞こえてくるときがある。

 あまり多く無いとはいえ、護りを破られてしまえば、街の中が途端に危険地帯になってしまうのだ。


 ……ミスが許されない仕事。長引く戦い。

 夜通しで戦いに臨む人たちは、きっと凄く疲れていることだろう。


 私たちは平和な時間を過ごせるだけ、それはとても恵まれているということだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 夜も更け、私は自分の部屋でくつろいていた。

 大変な戦いが続く中、くつろげる時間と場所があるというのは贅沢なことだ。


 この戦いがいつまで続くのか――

 そんな疑問はずっと抱いてきたものの、ようやく今日、その終わりが見えてきた。


 ……魔星クリームヒルトを倒せば、終わる。


 他の兵士たちもどうにかしなければいけないが、そこはきっと何とかなるだろう。

 それよりも恐ろしいのは、強力な個人での一点突破。


 例えば獣星なんて、ポチ1体だけで東門側を制圧しているのだ。

 魔獣がフルメンバーだったら、どれくらいの猛威を振るっていたことだろう。


 呪星は私が倒したとはいえ、あの人は油断しまくりだったから――

 ……本当は、どれくらいの力を持っていたかは分からない。

 ルークに掛けた呪いはとても凄かったけど、あれだけのはずは無いし……。


「……魔星、か」


 七星の中で、最強と呼ばれる魔法使い。

 仮に今の獣星と当たれば、魔星があっさりと勝ってしまいそうだ。


 神器持ちのルークと正面からぶつかれば、きっとルークが勝てるだろう。

 しかしそもそも、そんな上手い具合に話が進むはずもない。

 例えば遠距離から凄い魔法で攻撃されれば、ルークだって負けてしまう可能性はあるのだ。


 もし魔星が私の錬金術の射程に入れば、私でも勝てるだろう。

 ただ、そんなことはきっとあり得ない。強力な魔法使いになんて、近付く前にやられる自信が私にはある。


「……うーん。

 何かアイテムを作って、あっさり勝つ方法は無いかなぁ……」


 魔法使いが相手なら、例えば魔法封じ。例えば魔力破壊。例えば魔法反射。

 ゲーム的な思考で言えば、これくらいは簡単に想像が付く。


 ただ、魔法反射は相手の魔法待ちになってしまうし、魔力破壊は変な力が暴走しそうな気がする。

 そうとなれば、割とメジャーな感じの魔法封じが良いだろうか。


「――さて、錬金術だけで何とかなるかな……?」


 私はアイテムボックスから杖を出して、魔石スロットを確認した。

 『安寧の魔石』はしっかりと嵌められており、術の反動軽減100%が達成されている。


 それじゃ、久し振りの――



 ユニークスキル『英知接続』発動!!



 ――その瞬間、やはり少しだけ立ちくらみがするのを感じた。

 術の反動とこの立ちくらみは別物なのかな。『疫病の迷宮』を創ったときもこんな感じだったし……。


 そんなことを考えながら、私は求める『何か』を探していった。

 大まかに言って、『魔法を封じるもの』。様々な情報が流れる中、私はひとつのアイテムを見つけることができた。


「……よし、ここから『創造才覚<錬金術>』を使って――」


 ----------------------------------------

 【永続封魔の矢】

 魔法封印の効果を永続付与する矢

 ----------------------------------------

 【『永続封魔の矢』の作成に必要なアイテム】

 ・ミスリル×1

 ・闇の魔導石×1

 ・竜の血×1

 ----------------------------------------


 ――ぬあっ!?


 以前リーゼさんから受けた矢を参考に、錬金術でも作成できるものを探してみたのだけど……素材がとんでもなかった。

 ……とはいえ、『ミスリル』と『竜の血』なら在庫がある。

 『闇の魔導石』は持っていない。似たようなところで『闇の封晶石』なら持っているけど、これはまったくの別物なのだ。


 しかし、この矢さえ(かす)れば魔星は戦力を失うから――少しくらいは作ってみようかな。


 ただ、この矢を適当に扱うわけにはいかない。

 もう少し詳しく調べてみると、この矢は何回も魔法封印の効果が発揮されるようだった。

 つまり、敵の手に渡ってしまえばややこしいことになるので、取り扱いにはかなりの注意が必要――ということだ。


 ……あ、でももしかしたら、1回だけしか使えないように作れば良いのかな?

 強度を落としていけば、上手くいくかもしれない……?



 貴重な素材を使い捨てにするのは勿体ないけど、戦闘がただの一撃で終わらせられるなら、それはそれで良さそうだ。

 懸念は他にも少しあるけど、それを含めてちょっと研究してみよう。


 ――ふふふ。発想との勝負みたいで、何だか面白いことになってきたかもしれない。

 明日素材集めをするためにも、今晩のうちにいろいろと研究を済ませてしまうことにしよう……!!

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