351.錬金術の工房②
「師匠! 初級ポーションができました!!」
レティシアさんが元気な声で私に言ってきた。
訪れた工房で『今日のノルマ』を私が終わらせてしまったので、錬金術師のみなさんにいろいろと教えているところだったのだ。
ちなみに賭け(?)は結局有効ということになって、レティシアさんは私のことを『師匠』と呼ぶようになっていた。
……そう呼ばれると、何だか彼女のことがとても可愛く見えてしまう。
何だか実際、犬みたいな感じに見えてきたし……。
「鑑定結果は、B-級のようですね」
「おお、マジですか! 私、C+級以上は全然作れなくて……。
師匠に教わった途端にコレとは、さすが神器の錬金術師さま!」
「レティシアさん。そういう風に呼ぶときは、『神器の魔女』の方でお願いします」
「し、失礼しましたっ! さ、さすが神器の魔女さまっ!!」
「そうそう、よくできました」
「えへへー♪
……ところで師匠!!」
「はい?」
「神器って錬金術で作れるものなんですか!?」
レティシアさんの言葉に、周囲の空気が何となく変わるのを感じた。
どうやら近くの錬金術師たちが、息を殺して耳を傾けているようだ。
神剣――『剣』を作るのだから、普通に考えれば錬金術ではなく鍛冶の分野ではありそうだ。
まさか錬金術で神器を作るだなんて、あまり思い至ることは無いだろう。
「私は実際に、錬金術で作りましたよ。
ただ、元となる剣は鍛冶屋さんに作ってもらったんです」
「へぇ~……。その剣に、錬金術で力を吹き込むって感じですか?」
「簡単に言えばそんな感じですね。
あとは金属部分をまるっと置換しました。素材にはオリハルコンとミスリルを使う必要あったので――」
「オ、オリハルコン……ッ!?」
話の最中、そんな声がふと聞こえてきた。
そういえば私も、実物を見たのは王様からもらったときが初めてだったっけ。
オリハルコンなんて代物、見る機会なんて滅多にないものなのだ。
レティシアさんはその話を聞きながら、尋常で無いほどに目をキラキラと輝かせていた。
「……オリハルコン、見てみます?」
「もちろんです!!」
「本当ですか!?」
「持ってるんですか!?」
「是非!!」
「お願いします!!」
「うわぁっ!?」
気が付けば、私のまわりには錬金術師たちがいつの間にかに集まってきていた。
そもそも錬金術師なんていうのは、知識と好奇心の塊のようなものだ。
貴重なものを見る機会があれば、それを逃す手は無いというものだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
場を静めてから、工房の机を全員で囲む。
私はその机の上に、オリハルコンの小さな塊を置いた。
……もちろん、せっかくなのだから実際に手に取ってもらえるようにしたのだ。
「まずは弟子である私が……!!」
まわりの年上の錬金術師たちを差し置いて、レティシアさんがひょいっと塊を持ち上げた。
他の全員がそれを微妙な目付きで見ていたが、『魔女の弟子』という肩書きの前では、何も言うことができないようだった。
彼女がオリハルコンを撫でまわしていると、その間に錬金術師の男性が聞いてきた。
「アイナ様、このオリハルコンはご自身で作ったものですか?」
「いえ、これはヴェルダクレス王国の王様から頂いたものです」
「何と……、王様から……っ!?」
……嘘では無い。
過程は置いておいて、嘘では無い。
「で、ですがアイナ様は、王国から指名手配を――」
「あはは。それはそれとして、オリハルコンは正式な流れを踏まえて頂いたものですよ。
そのあといろいろあって、指名手配をされたんです。
……ちなみにオリハルコンを錬金術で作るとなれば、『賢者の石』が必要になりますね」
「おお、『賢者の石』……!!」
私の言葉に、全員がまたもやどよめいた。
この世界においては――多くの創作物でもそうだけど、『賢者の石』は錬金術の最高峰に位置付けられる。
これもまた、滅多にお目に掛かれない代物なのだ。
「も、もしかして『賢者の石』もお持ちなので……!?」
その錬金術師の声に、まわりの錬金術師の目もギラッと光った。
「すいません、『賢者の石』は素材が無くて作れていないんですよ。
素材があれば、すぐに作っちゃうんですけど」
「え? すぐに……?」
「師匠! もしかして『賢者の石』も、初級ポーションと同じ感じで作れちゃうんですか?」
レティシアさんは持っていたオリハルコンを、隣の錬金術師に手渡しながら言った。
手渡された先では我先に見たいと、奪い合いが始まっていた。
「私はどんなものでも、あんな感じで作ることができます。もちろん普通の手順でも作ることができますが――
……あ、神器だけは例外でしたね。あれは時間が掛かりました」
「さ、さすがにそうですよね! どれくらい掛かったんですか?」
「何分かは掛かったと思いますよ。でも、5分は掛からなかったと思います」
「5分……」
「神器までそんな時間で……」
「凄い……」
「何をどうやれば……」
「確かに、錬金術師というか――」
私のスキルは錬金術関係のものばかりだけど、それを総合すればもはや錬金術師としては留まらない状態になっている。
だからそういった意味でも、呼び方としては『錬金術師』よりも『魔女』の方がしっくりくるのだ。
「――あっ!!」
そんな話で錬金術師たちを呆気に取らせていると、突然一人の錬金術師が声を上げた。
手にしていたオリハルコンを、別の男性に強引に取られてしまったようだ。
そしてそのまま、その男性は外に向かって走り始めた。
……盗んで売れば、信じられないくらいの大金になるからね。
おそらく、ついつい間が差してしまったのだろう。
さて、私の錬金術の射程からは外れてしまったから――
「アイス・ブラストッ!!」
「ぎゃっ!!?」
工房の外に出る前に、私の放った氷の塊が容赦なく男性の背中に命中した。
男性はそのまま、前のめりに地面に倒れ込んでしまう。
「――錬金術をやっていると、目の前に誘惑がぶら下がることがあります。
自分を保ち、冷静に行動することを心掛けましょう」
私は倒れた男性に近付くと、近くに転がっていたオリハルコンを拾い上げ、そのままアイテムボックスにしまった。
「ひ、ひぃい……。
申し訳ありません、アイナ様……!!」
「師匠! 騎士団に突き出しますか!?」
レティシアさんは怒りながら、男性を睨みながら声を荒げて言った。
盗んだことも許せないが、同じ錬金術師として情けなく感じたところもあるのだろう。
「今、こんなことのために騎士団の人手を割くわけにはいきませんよね。
……それに貴方も後悔して、反省していますよね?」
「も、もちろんです……!!
そのご慈悲に感謝いたします……!!」
男性は必死に礼を述べた。
私は自らの行いを振り返り、反省していける人は好きだ。
だから、ここは私刑という形で済ませてあげることにしよう。
……見ればこの男性、年齢は30歳前後といったところか。
それじゃ、これかな……。れんきーん
バチッ
私は薬を作って、男性に渡してあげた。
「え? ……アイナ様、この薬は一体……?」
「永久脱毛薬。頭に掛けると、素敵なことが起こりますよ」
「そ、そんなことをしたら、私の髪の毛が――」
「……反省しているんですよね?」
「ひ、ひぃっ!?」
私の笑顔に、男性は驚愕の表情を浮かべた。
彼はその表情のまま私と薬を交互に見ていたが、しばらくすると観念して薬を頭に掛け始めた。
すると、ある程度豊かだった髪の毛がはらはらと抜け落ちていった。
「――魔女だ……」
錬金術師の誰かが、そんなことをぼそっと言った。
私が求める『魔女』とは何かが違うけど、とりあえずそう呼んでくれたことは良しとしよう。
このまましっかり反省してくれたら、毛生え薬をあげても良いかもしれないけど――
……でも今は反省を促すために、とりあえずは何も教えないでいてあげようかな。ふふん。




