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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
350/911

350.錬金術の工房①

 ――とりあえず私に何ができるかと言えば、もちろん錬金術である。


 いくら英雄を倒そうが、迷宮を創ろうが、そんなものはあくまでも例外なのだ。

 従って、私はまず物資補給の仕事を引き受けることにした。


 ……ちなみにルークとエミリアさんは、戦力として遊撃部隊の方に組み込まれることになった。

 神器持ちの剣士と光魔法を使いこなすプリースト。

 戦力の補強としては申し分なく、きっと大活躍をしてくれるはずだ。


 離れ離れになるのは少し寂しいけど、今は自分の得意分野から攻めていくことにしよう。



 ……そんなわけで朝の10時頃、私は一人の兵士に連れられて、とある建物を訪れた。


「アイナ様、こちらが錬金術の工房となります。

 他にも錬金術師の方がおりますので、分からないことがあればそちらに聞いてください」


「はい、ありがとうございます」


「それでは私はこれにて」


 兵士はそう挨拶をすると、さっさとどこかに行ってしまった。

 ……案外、私の扱いも適当である。


 まぁ街の外では戦いが始まっているらしいから、こんなところでのんびりもしていられないのかな。

 私もボヤいてないで、たくさん手を動かすことにしよう――


 ……っていうか、私の場合、別に錬金術の工房に来なくても大丈夫なんだよね。

 素材さえあればどこでも何でも作れるわけだし、容量がほぼ無制限のアイテムボックスまであるのだから。



「――ねぇ?」


「え? あ、こんにちは」


 気が付くと、私の側には同い年くらいの女の子が立っていた。

 赤髪のポニーテールで、そこはかとなく活発な印象を受ける。

 ……加えて、見るからに錬金術師といった服装をしていた。


「あなたも錬金術師なんだよね? 人手が足りなくて困っていたの。

 ポーションとか、最近は消費がすっごく激しくてね~」


「そうなんですか。ポーション作りなら得意なので、たくさんお手伝いできますよ!」


「それは助かるわ。

 今は何よりも量ってことで、ここでは初級ポーションを大量に作っているの。

 私の作業場の隣が空いてるから、一緒に作業しない?」


 ……彼女の誘いに、私は何だか学校生活を思い出してしまった。

 友達と声を掛け合って、一緒に何かの作業をする――それはとても懐かしい感覚だ。


「はい、ありがとうございます。

 私のことは気軽にアイナって呼んでくださいね」


「アイナ……さん……? ……うわぁ」


 私が自己紹介をすると、彼女は何故か悲しい視線を向けてくれた。

 ……これは予想外の反応だ。


「えーっと……、どうしましたか……?」


「……今話題の魔女さんと同じ名前なんだな~って。

 それに錬金術師っていうのも同じだから、間違われちゃわない?」


「いやいや、私は――」


「いいのいいの、大丈夫。間違われそうになったら、私が説明してあげるから。

 だからほら、安心して作業をしようね!」


 私、その本人なんだけどー!?

 ……やっぱりまだ『魔女』としての貫録が無いのかな? ……無いんだろうなぁ。


「と、ところであなたのお名前は?」


「あっと、ごめんね。

 私の名前はレティシア。よろしくね、アイナさん♪」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――って、アイナさん!? ちょっと持ってきすぎじゃない!?」


 私が倉庫から初級ポーションの素材を大量に運んでいると、レティシアさんが驚いて声を掛けてきた。


「え? たくさん作るんですよね?」


「そうなんだけど、そんなに持ってきても一度には作れないよね?

 作業台も塞がっちゃうよ?」


 ……そう言われて、私はようやく気が付いた。

 確かに手作業でやるなら、素材ばかり並べていても邪魔になってしまう。


 しかし私は一瞬で何でも作ることができるし――

 ……それに『魔女』としての名声を広めたい今、自分の力を隠すつもりはすでに無くなっているのだ。



「レティシアさん。実は私……例の魔女なんですよ!!

 ほら、巷で噂の『神器の魔女』!!」


「えー? あはは♪ 名前が同じだから、持ちネタにしてるの?

 でもクレントスはこんな状況だし、あんまり変な冗談は言わない方が良いよ~?」


 ……ぐぬぬ。

 言葉だけでは信じてくれない……?


「いやいや、本当です。本当に。

 だから、私は初級ポーションくらいなら一気に大量に作ることができるんです!」


「も~、アイナさんったら。

 もしそれが本当なら、私はアイナさんの弟子でも何でもなってあげるわ!

 こんなにとっつきやすい魔女さんなら大歓迎だからね」


「……え? 本当ですか?」


「でも、嘘だったら今日の昼食は奢ってもらうわよ?

 ほらほらー。持ちネタを引っ込めるなら、今のうちだよ~?」


 ふむ……。

 レティシアさんはきっと、冗談で言っているのだろうけど――


「持ちネタでは無いので引っ込めません!

 ……では、賭けに参りましょう。本当に良いですか?」


「ふふ、分かったわ。

 でも、そんなことをしなくても昼食くらいは一緒に行くのに……。良いお店を知っているから、あとで行こうね」


「一緒に行くのであれば、師匠として弟子に昼食を奢るのも悪くはありませんね。

 ……それじゃ、初級ポーションを一気に作りますよー」


 そう言いながら、私は素材に向かって手をわきわきと動かした。

 レティシアさんはそんな私を見ながら、適当な感じの声援を掛けてくれる。


「はいはい、頑張って~♪」


 うん、頑張る~♪


 それじゃ、れんきーん


 バチッ



 いつもの音が響くと、私たちの目の前の素材が一瞬で初級ポーションになった。

 ……薬草類が一気に消えて、20本ほどの空のポーション瓶に液体が突然満たされる――そんな現象が目の前で起こったのだ。


「え……?」


「はい、できました」


「えぇ……?」


「できましたよ?」


「え? え? え? ……な、何をしたの? え、手品? 魔法?

 ……え? もしかして、本物の……魔女さん……?」


 そう言いながら、レティシアさんは声と身体を震わせながら、恐る恐るといった感じで私を指差した。

 これだけのことで信じてくれて良かった良かった。……『これだけのこと』というには、少し超能力掛かって見えるけど。


「――改めまして。

 神器の魔女、アイナ・バートランド・クリスティアです。

 今後ともよろしくね、弟子のレティシアさん」


「う、うひゃぁ~~……」


 レティシアさんは変な声を上げると、そのままそこにへたり込んでしまった。

 ふふふ、私にもようやく弟子ができたね!


 ……ようやくっていうか、別に弟子なんて求めてなかったけど――

 でもまぁここはノリということで、そんなことがあってもたまには良いだろう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 気が付くと、他の錬金術師たちがこちらを見ながら、ざわつき始めていた。

 話し声は全部聞こえていなかっただろうけど、一気に初級ポーションを作ったりしてしまったから――異常なことには気付いたのだろう。


 ……何よりも、レティシアさんが突然へたり込んでしまったわけだし。


 自分たちがざわつきの原因であることを察すると、レディシアさんは何とか立ち上がって、他の錬金術師に向かって説明した。



「――み、みなさん……!

 こちらの方は、アイナさんと言って――今をときめく、『神器の錬金術師』様です……!!

 見ましたか!? 一瞬でポーションをこんなにたくさん作ったんですよ……!!」


「え……? あの娘が……?」

「神剣アゼルラディアを作ったっていう……?」

「指名手配中の……? え、この娘が?」

「お婆さんじゃなかったんだ」

「そういえばこの街に来たって噂も確か……」

「いやいや。それなら何でこっちに?」



 レティシアさんの言葉に、錬金術師たちは思い思いに呟いた。

 ほとんどの人は信じられないような眼差しで私を見ていたけど――


 ……そりゃ、急に言われてもね。


「『神器の錬金術師』よりも『神器の魔女』の方を定着させたいので、そちらで是非お呼びください。

 急に言われても信じられないと思いますので、これからの仕事っぷりを見て、そして信じてください。

 ……あと、教えられることは教えますので、何でも聞いてくださいね」



 私の錬金術はスキル頼みとは言え、それを使うことで知識を引っ張ってこれるのは以前に確認済みだ。

 ちょっと頭を捻る必要はあるけど、捻ればそれなりに知識が出てきてくれる。


 私の名声を広める対価としてなら、それくらいは何でもないことだから――ひとまず今日は、そんな感じで頑張ってみようかな!

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