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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
348/911

348.クレントスの夜②

「えーっと、ルークの部屋の方が近かったっけ……!?」


 メイドさんをもう少し縛り上げたあと、私は廊下に飛び出した。

 お屋敷の使用人が誰かいれば声を掛けようとも思ったが、見える限りでは誰もいない。


 ……それならさっさと、ルークの部屋に向かってしまおう。



 少し離れているとはいえ、そこまで離れているわけでもない。

 本当はダメだけど、他人様(ひとさま)のお屋敷の廊下を全力で走っていく。


 自分の中の記憶を辿りながら、そこがルークの部屋だということを確認してから――思い切り扉を開ける。


「ルーク!! いる!!?」


「……え? はい……」


 あ。


 急いでいるあまり、勢いのまま扉を開けてしまった……。

 そして当のルークは上半身が裸で、ちょうど身体を拭いているところだった。


 ……わー、これがいわゆるラッキースケベってやつかー……。

 いや、上半身だけだからセーフ? いや、男性だからセーフ?


 ……むむ、それってもしかして男女差別? でも、さすがにこれは――



「あの、アイナ様? 突然どうされましたか? 何か問題でも……?」


「はっ!?

 そうそう! 私の部屋にメイドさんが来て、急に襲われたの!!

 それで、ルークとエミリアさんは大丈夫かなって!!」


「何ですって? アイナ様は大丈夫だったんですか!?」


「うん、しっかり倒しておいたよ!」


「……さすがです」


 私の言葉にルークはあまり驚かず、何となく納得するように頷いた。

 ……少しくらいは護られないで済むようになったかな!


「それじゃルークは大丈夫だってことで、次はエミリアさんのところに行ってみるね!」


「アイナ様、私も行きます!!」


「服を着てから来て~っ!!」


「たっ、確かに!!」


 私は再度廊下に飛び出して、エミリアさんの部屋に向かった。

 確かもう2部屋ほど先のところだから――って、このお屋敷、やっぱり広いな!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 トントントン!!


「エミリアさん! エミリアさーん!!」


 トントントン!!


「エミリアさん! エミリアさーん!!」


 扉を素早く叩きながら、ひたすら中に声を掛ける。

 慌てているせいか、時間が経つのがやたらと遅く感じてしまう。


 ……しばらく経ってから鍵の開く音が聞こえて、ようやくエミリアさんが部屋から顔を覗かせた。


「は~い……? あれ、アイナさん? どうしたんですか?」


「エミリアさん!!

 ……はぁ、無事で良かったぁ~……」


「え? え?」


 エミリアさんが不思議がっているところへ、ルークがようやく追い付いてきた。


「エミリアさん、ご無事でしたか!」


「え? えぇーっ!?

 どうしたんですか、二人とも。私はずっとのんびりしてましたけど……」


「私がメイドさんに襲われたので、二人は無事かと思って確認しに来たんです」


「えぇぇーっ!? こ、このお屋敷でですか!?

 ……しっかり護られていると思ったのに……。そ、それよりもアイナさんは大丈夫だったんですか?」


「はい、倒しておきました!」


「……さすがです」


 ――あれ?

 その台詞、さっきも聞いたような……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 エミリアさんにお屋敷の人を呼んでくるようにお願いしてから、私とルークは私の部屋に戻ってみることにした。


「む……。何やら気配がしますね……」


「ん? そうだね、メイドさんがいるから……」


「いえ、それ以外に、です。仲間かもしれませんので気を付けて――

 ……いや、気配が消えてしまいました。……気取られたようです」


「なるほど、私には全然分からなかったよ……」


 そういう気配を感じられるようになれば、私ももっと安全にいろいろこなせるようになるのかな?

 できるようになるかは分からないけど、いずれそれも検討してみよう。



 そんなことを考えながら部屋に入ってみると、閉まっているはずの窓が大きく開け放たれていた。

 そこからは冷たい空気が容赦なく吹き込んでくる。


「窓から逃げたの……? この部屋、3階だけど……」


「そのようですね。……もう、姿は見えないようですが」


「んー。このメイドさんを助けに来たのかな……」


 私が部屋の奥を見ると、メイドさんはしっかりとそこに縛り付けられたままになっていた。


「アイナ様……。これは、一体どういう状態で……?」


 ルークは不思議そうに、そのメイドさんを見下ろした。

 彼女には、不思議な色に輝く鎖が巻き付けられていたのだ。


「――え? いやぁ、最悪誰か仲間が助けに来ても嫌だなって思って――

 オリハルコンで鎖を作って、そのまま壁に繋ぎとめてみたんだけど……どう?」


「ど、どうも何も……。え、オリハルコンですか?」


「さすがにオリハルコンなら切れないでしょ?

 私以外には解けないから、ちょうど良いかなって思って」


「……多分、オリハルコンをそんな風に使ったのは……アイナ様が初めてでしょうね……」


「あはは、そうだろうね。

 でも私なら、再利用がいくらでもできるから」


 しかし、よくよく見てみれば――オリハルコンの鎖が繋がれている壁に、いくつもの傷跡が付いていた。

 先ほどまでいたメイドさんの仲間が、壁の方を壊そうとしたのだろうか。


 うーん。……もしも壁を壊されていたら、オリハルコンを持っていかれちゃっていたのか……。

 さすがにすぐ取れるようにはなっていなかったけど、後先考えずに爆発魔法でも使われていたら、もしかしたら……?


 ――そう考えると、この手はもう使わないようにした方が良いか。

 私としても、オリハルコンはかなり貴重なものなのだから。



 ひとまず開け放たれた窓を閉めていると、エミリアさんとアイーシャさん、使用人の何人かが部屋に入ってきた。


「アイナさん、大丈夫ですか!? エミリアさんから話を伺って、すぐに来たのですけど……!」


「アイーシャさん、夜遅くにすいません。

 このメイドさんにナイフで襲われまして……。ちょっと縛り上げさせて頂きました」


「ッ!!

 この子はしっかり仕事をしてくれていると思っていたのに、何てことを――

 ……アイナさん、謝って済むことでは無いのだけど、本当にごめんなさい……」


「ああ、いえ。もう慣れっ子ですので。

 ただ仲間がまだいるようなので、そちらはお願いしても良いですか?」


「慣れっ子って……。

 ……そうよね、今まで酷い目に遭ってきたんですよね……」


 アイーシャさんは彼女の目頭を指で押さえた。

 同情してくれだなんて言えないけど、察してもらえるのはやはり嬉しいものだ。


「――分かりました。

 直ちにこの子の仲間も探し当てましょう。そして、しっかりと罪を償わせます」


「償わせるって……?」


「アイナさん、私は前にも言いましたよね」

 ――私の恩人にちょっかいを出すなんて、誰であろうと許しませんから」


 そう言うアイーシャさんの目は、怒りに満ち溢れていた。

 そして鎖で縛り上げられたメイドさんを、思い切り睨み付けている――


 ……うわぁ、めちゃくちゃ怖い。

 ひとまず今は、アイーシャさんが味方だったことを喜んでおこう……。


 アイーシャさんは連れてきた使用人に手早く指示を出し始めた。

 私はオリハルコンの鎖を解いて、そのままメイドさんの身柄を他に使用人に引き渡す。


 ここで逃げられてもつまらないから、しっかりと手を拘束させてもらうことは忘れなかった。


 ……それと一応、最初は私ではなくアイーシャさんを狙っていたことも伝えておいた。

 聞いてしまった以上、できるだけのことは伝えておいた方が良いからね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――そのあとはアイーシャさんにすべてを任せて、私はもう寝ることにした。

 警備体制も強くしてもらったので、ルークには部屋でしっかり休んでもらうことにした。


 私の部屋の前を護ると言い張っていたんだけど、明日からまた大変になるだろうから。

 ……せめて今日のところは、ゆっくりと休んでもらいたいものだ。

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