34.鉱山都市ミラエルツ
大きな門。そこに並ぶ多くの人々。
どこか武骨な空気を放つ、街の景観。
――鉱山都市ミラエルツ。
「うわー! 夜なのに、人が凄い並んでる!」
「はい。ここはミラエルツの中でも一番大きい門で、最も賑やかなんです。
たくさんの鉱石を産出していますからね。流通や人の往来が活発で――」
「ふむふむ、なるほど」
「アイナさん。もし待つのがお嫌でしたら、例のカードで入っちゃうっていう手もありますよ」
エミリアさんがプラチナカードのことを踏まえて提案する。
確かにあれを見せれば順番は優先してくれそうなんだけど――
「アレ、あんまり出したくないんですよね。変に目立つというか、警戒されそうで」
「そうなんですか? それではあまり出さない方が良いかもしれませんね……」
「今までに見せたことあるのって、ルークとエミリアさん、後はクレントスの守衛の騎士さんたちと宿屋の女将さんだけなんですよね。
あまり出さないでも旅は続けられるので、いっそもう出来るだけ封印しちゃおうかなって」
これに対してルークも頷く。
「甘い汁を吸おうという連中が近付いてくるかもしれませんしね。
使うべきときには使ったほうが良いですが、普段使わないのには賛成です」
「――というわけで、ミラエルツには冒険者カードで入りましょう!
私はFランクですが!」
「私はD-ランクです」
「……あ、あれ? 私が一番高いんですか? 私はD+ランクです!」
どうやらエミリアさんが一番高い模様。
「ええ……? ルークさんの実力なら普通にCランクくらいあると思ったんですけど……!」
「いえ……。仕事にかまけていて、ランク上げにはあまり力を入れてなくてですね……」
ルークは誤魔化すように笑った。
それをフォローする形で私も口を挟む。
「王都まで行ったらランク上げも考えているんですけどね。それまでは金策です」
「……え? 金策、ですか?」
「はい、金策です。お金があまりないので、ミラエルツでお金を稼ぐのです」
「あ……そ、そうだったんですか。もし良ければ、私もある程度は手持ちがありますのでまずは王都に――」
「いえ、ここで金策です。これは決定事項なのです」
「はうぅ……。わ、分かりました……」
謎の圧力でエミリアさんを屈服させる。
まぁ確かに王都まで行けば、ガルーナ村の疫病解決のご褒美をもらえるかもしれない。
それに、そもそも王都で金策するというのも良い案だ。
しかし――私はガルルンの置物が届くのをミラエルツで待たなければいけないのだッ!!
約束しちゃったからね。
それにまさか、エミリアさんのお金を頼りに王都まで行くなんて、そんな発想はまったく出てこなかったし。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「冒険者カードのご提示、ありがとうございます。
良いご滞在を!」
20分ほど待って、ようやくミラエルツの中へ入ることが出来た。
ルークは守衛を見ながら、何か懐かしそうな顔をしている。
「私も先日までああいった仕事をしていましたが……。
あまり時間は経っていないはずなのに、何だかとても懐かしいです」
「あはは、急に色々なことがあったもんね。
ルークにしたら仕事を辞めて私に付いてくるってだけでも大変だったろうに、その後ガルーナ村であんなこともあったし――」
「……え? アイナさんとルークさんって、知り合って間もないんですか?」
エミリアさんはきょとんとした顔を見せる。
「えっと、まだ一か月も経ってないよね?」
「そうですね。それが何か?」
「いえ、それにしてはずいぶん信頼感があるなぁと思いまして……。何だかお羨ましいです!」
ふむ、言われてみればそうかも。
出会って間もないときなんて、私もルークに敬語を使っていたりしたもんね。
……今考えると、ちょっと恥ずかしい感じもしてくるなぁ。
「……本当に、色々あったからね。さてと、まずは宿屋を探そっか」
「そうですね、確か向こうにあったと思います。あちらに行ってみましょう」
「あ、ルークは初めてじゃなかったもんね。それじゃ案内よろしくー」
「はい、こちらへ」
「――うん、やっぱり様になってますよねぇ……」
何だかすごい納得したエミリアさんの声が、風に乗って聞こえてきた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いただきまーす」
「いただきます」
「神よ、今宵の糧に感謝の祈りを――」
よーし、ご飯だ、ご飯!
宿屋の食堂は時間も20時だというのに大賑わいだった。
お酒も提供しているようで、どちらかといえば酒場として賑わっている――という感じもした。
それにしてもクレントスやガルーナ村で見掛けた人よりも、何やら逞しい人が多いのはここが鉱山都市だからかな?
何せ鉱石って重いし、それを扱う力仕事が多そうだし。ということは――
「む! このお肉、めっちゃ塩効いてる! ……でもそれが良い! 美味しい~♪」
肉体労働には濃い味!
私は別に肉体労働はしてないけど、今日は一日中歩いてたから味わいも格別だ。
「さすが重労働の仕事が多い街なだけあります。でも、私もここの料理はがっつりとしていて好きですね」
ルークも気に入っている様子。
若いんだからしっかり食べないとね!
「アイナさん、こっちのお料理も美味しいですよ! いくらでも食べられそう~」
エミリアさんもとても喜んで食べている。
でも、あなたはいくらでもは食べないでください。ほどほどに。
「はー、食べた食べた~。満足~♪」
「はい、とても美味しかったです」
食事が終わってくつろぐ私とルーク。
ちなみにエミリアさんはまだ食べている。
「エミリアさんが食べ終わったら部屋に戻ろうか。
明日の集合は朝の7時で良いかな?」
「はい、分かりました」
「分かりました! ……あの、もう食べ終わったのでしたら……戻って頂いても大丈夫ですよ?」
「いえいえ? お待ちしてますよー」
「そうですか? そんなに気を遣って頂かなくても良いのですが……」
……うん?
何だかエミリアさんが遠慮がちな気がするぞ? 何だろう……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エミリアさんが食べ終わったところで、三人でそれぞれの部屋に向かった。
それぞれの部屋とはいっても、みんな隣り合ってる部屋が取れたので扉は目と鼻の先だ。
そして扉の前で就寝の挨拶――
「それじゃおやすみなさい」
「アイナ様、おやすみなさいませ。エミリアさんも、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい――」
「――って、あれ!?」
私が部屋に入ろうとしたとき、エミリアさんが大きな声を上げた。
「え? ど、どうかしましたか!?」
「あ、えーっと……アイナさんとルークさん、別々のお部屋なんですか……?」
「……え? もちろんそうですけど、何で?」
「何でって……、一緒の部屋かと思っておりまして……」
意味を図れず、私とルークは顔を見合わせる。
その後5秒くらいかな? お互いようやく気付いたけど、それも見事にハモってしまったわけで。
「「――いやいや、そういう関係じゃないから!!」」
最後のエミリアさんのぽかんとした表情が、とても印象的だったね。




