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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
339/911

339.続・新しい目標

 その後の5日間は、ひとまず順調そのものだった。

 王国軍の兵士と何回かは交戦したものの、今となっては些細なことに過ぎない。



 ――いやぁ。開き直るって、大切なことだよね!!



「……アイナ様、クレントスにもあと2日といったところまで来ました。

 反王政、革命……。兵士たちからはいまいち情報が得られませんでしたが――」


 馬車を走らせながら、ルークが心配そうに話し掛けてきた。


「そうだね。アイーシャさんは無事かなぁ……。

 それにルイサさんにケアリーさんに、アーサー君に、ロナちゃん……。

 ……ヴィクトリアは無事じゃなくても良いや」


「あぁー……。例の……」


 ヴィクトリアの名前を出すと、エミリアさんが反応をした。

 二人で話をしているとき、たまにその名前を上げていたのだ。


「アイーシャさんたちが勝てば、ヴィクトリアもどうにかなるでしょうけど……逆も然り、なんですよね。

 なので、私たちが参戦する余地があれば、迷わずアイーシャさんの方に付きます!」


「そうですね、それが良いです!

 ……でも、大丈夫でしょうか。避難をしているような人も、そんなに多くは見掛けていませんし……」


「呪星ランドルフは『決着が付きそうだった』って言ってましたけど――

 うぅーん、早期決着みたいな感じだったのかなぁ……?」


 ……状況は何も分からない。

 だから今は、馬車の馬に頑張ってもらうしか無いのだ。


「ところでアイナ様。

 私たちはクレントスに向かっていますが、直接『神託の迷宮』に進むこともできます。

 先にどちらへ向かいますか?」


「悩ましいよね……。

 アイーシャさんが心配だから、先にクレントスに行きたいかな。

 ……ちょっと寄ってみて、街に入れそうならクレントスにする? ダメそうなら『神託の迷宮』に行く……みたいな感じで」


「分かりました。それではクレントスに向かいましょう」


「うん、よろしくー」



 馬車に揺られながら、私は引き続き外を眺めていた。

 雲はほとんど無く、空には綺麗な青色が広がっている。


 ……やっぱり寒くはあるけど、晴れているおかげで体感温度はそこまでは寒くは感じないかな?


「そういえば」


「はい?」


 唐突に、エミリアさんが声を掛けてきた。


「あの、こんなことを聞いても良いのか……というか。

 もしアレでしたら、答えて頂かなくても良いのですけど……」


「えーっと? 何でもどうぞ?」


 彼女にしては珍しく、何やら話し難い様子。

 それでも少し考えてから、慎重に……といった感じで切り出してきた。


「アイナさん、『疫病の迷宮』を作ったじゃないですか。

 私も見たんですけど、黒い霧のようなものがずっと出続けていて……」


「ああ、はい……」


 なるほど、さすがにその話はし難いか。

 私の『やらかしちゃった案件』の最たるものなのだから。


「……あれってとても危険だと思うんですが、今もあのままなのでしょうか……。

 疫病、広まったりしません?」


 確かにその心配はごもっともだ。

 しかし今は、『出続ける』という観点では大丈夫なはず――


「一応ですね、無差別に疫病を広める気はなかったので、ちょっと設定はしておいたんですよ。

 数時間もすれば、入口は閉じたと思います」


「あ、そうなんですか。安心しました!」


「ただ、周辺の地域に疫病が広がっている可能性もあるので、私たちの都合が良くなったら一度訪れてみたいですね。

 特効薬は作れるから――……って、素材がもう無いんでした……」


「あはは、それは大丈夫でしょう。

 アイナさんには資金力がありますから!!」


 ……まぁ確かに、グランベル公爵に『増幅石』を売ったときのお金がまだまだあるけど……。

 でも――


「素材が貴重なんですよ。

 『ダンジョン・コア<疫病の迷宮>』も使っちゃったから、そっちの素材が無いと難しい……って感じで。

 そこら辺では売ってないものだし……」


「えぇ、そうなんですか!? ……ちなみにその素材って、何ですか?」


「『ガルルン茸』です」


「む、何だか懐かしい!? ……さすがにそれは売ってませんよね。

 でも『ガルルン茸』なら、以前ガルーナ村に送っていませんでしたっけ?」


「はい、ガルーナ村でちゃんと育ててくれていれば良いんですけど……。

 育ててなければ……どうしようかなぁ……」


 そう言いながら、私は以前の鑑定結果を宙に映し出した。


 ----------------------------------------

 【ガルルン茸】

 突然変異によって生まれたキノコ。

 疫病への抵抗力を上げる薬を作ることができる

 ----------------------------------------


 そもそも『ガルルン茸』は、ガルーナ村の周辺で生まれた可能性が高い。

 私が送ったものが仮に届いてなくても、もしかしたらまた手に入るかもしれないけど――


 ……何せ、突然変異……だからなぁ。

 あれが最初で最後の1つだったかもしれないし……。



「――まぁまぁ。量が足りなくても、きっとガルルン神が奇跡を起こしてくれますよ!」


「はぁ……。

 奇跡まで起こしてくれたら、信仰を広めても良いかもしれませんね。

 私はやる気ないので、エミリアさんよろしくお願いします」


「おぉー、私が法王様ですか! 良いですね、やりましょう!!」


 ……あれ? 以前は断られたんだけど……。

 そうか、ルーンセラフィス教と距離を離したからか。


 ……でもやっぱり、彼女は聖職者としては在りたいんだな。

 きっとそれが、彼女の生きる道なのだろう。


「そ、そうですか? でも、いろいろと落ち着いてからにしましょうね……」


「はい、楽しみです!」


 そう言いながら、エミリアさんは良い笑顔を私に見せてくれた。

 それはそれとして、目標があるのはやっぱり良いことだ。未来が潤うというか、明るくなるというか。



「――うーん……。それなら、私も目標が欲しいですね。

 神器は作っていくのですが、それ以外にももう少し身近な感じのやつを」


「錬金術以外で?」


「はい。スキル頼みではありますけど、錬金術はぶっちゃけ極めている状態なので。

 私、剣術とか魔法をやってみたいんですよ」


「剣術、ですか?」


 その言葉に反応して、ルークが聞いてきた。


「ほら。私は魔法を少し使えるようになったけど、戦闘はまだまだじゃない?

 そもそも体力が無いし、攻撃されたときにはエミリアさんの魔法頼りになっちゃってるし」


「ふむ……。体捌きをどうにかしたいなら、杖術という手もありますよ。

 アイナ様は杖の方が馴染みがあると思いますから」


「……杖術!!」


 何だか渋くて格好良い!!

 武器自体はメジャーだけど、扱い方がマイナーっていうか!?


「確かに、アイナさんは剣よりも杖って感じですよね。

 杖で身を護って、魔法や錬金術で攻撃をしたら、凄くアイナさんっぽいです!!」


「……私っぽい!!」


 そう言われると、何だかその方向に気持ちがなびいてしまう。

 うーん、何だか凄く良さそう……。でも、イメージだけで決めちゃって良いのかな……。

 ……まぁ、その辺りは時間ができたときにしっかり考えよう。


 まずは、目先の日々をどうにかしないとね。



「ちなみに、ルークさんはどうですか? これからの目標!」


「私は……そうですね。

 剣術を極めるために、引き続き修練を重ねるのみです」


「ああ、さすがにルークはね……。

 ここまできたら、剣術を極めたいよね……」


「はい。そして世界一の冒険者になって見せましょう。

 ……あとは――いずれはアイナ様とエミリアさんと一緒に、いろいろな冒険をしてみたいものです」


「冒険、かぁ……。良い響きだね。

 今までも冒険と言えば冒険だったけど――」


「……世界はまだまだ広いですからね!

 行っていないダンジョンもたくさんありますし、そもそも『循環の迷宮』も6階までしか行ってません!

 この国以外にもたくさんの国があります。まだまだ知らないところがいっぱいですよ!!」


「そうですね。それも面白いなぁ……。

 それじゃ、これは三人の目標にしておきますか」


「はい!!」

「楽しみですね」



 ――三人の目標。

 その言葉を思い描くだけで、何だかとても楽しくなってしまった。


 陰鬱な日々が長かったけれど、これからは明るい日々を歩んで行こう。


 そのためには、あとは現実を打破するだけ。

 大変なことはいろいろあるけど、まぁ何とかなるだろう。


 ……かなり楽観的だ。でも、きっとそうなるはずだ。

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