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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第8章 魔女に集いて
336/911

336.改めて、三人

 ――その場から撤退する敵を見ながら、私はようやく一息つくことができた。


 負ける気はしなかったとはいえ、やはり大勢の前で啖呵を切るのは緊張する。

 しかも相手は屈強の男たちで、そして大人数だったのだ。


 極度の緊張から解き放たれた私は、身体から一気に力が抜けてしまった。



「……っと」


 私が体勢を崩したとき、後ろにいたルークが私の身体を支えてくれた。


「アイナ様」


 彼の声は少し潤んではいたけれど、いつも通りの彼だった。


 いつも通り――……



 ……また、ここから始めることができるのだろうか。

 ……また、一緒に始めることができるのだろうか。



「アイナさん!!」


 ずっと後ろの小屋から、エミリアさんがよたよたと歩いてきた。

 ああ、エミリアさんもずいぶんと泣かせてしまった。


 ……まだ、泣いてるし。


 何はともあれ、二人にはたくさん心配を掛けてしまった。

 ここから私は挽回しないといけない……。



 黒い雲に覆われた空は、それでも遠くの方から光の切れ間が見えてきた。

 ……きっと私たちも同じだ。


 もう少しだけ我慢をすれば、きっと明るい未来が待っているはず――




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――というわけで、楽しい楽しい昼食の時間です」


「「えっ」」


「……あれ? お腹、空いてますでしょ?」


「いえ、まぁ……」

「そうですが……」


 小屋の近くまで戻ってから、私は昼食を提案した。

 私が倒れている間、ろくな食事をとれていなかったはずなのだ。食糧は全部、私のアイテムボックスの中に入れていたのだから。


 ……でもまぁ、二人の気持ちも分かるは分かる。



「正直言って……私、今すごく気まずいんですよ!!」


 お茶らけた風に言ってみたが、実際その通りだった。

 私はいろいろとしでかした直後だから――そもそも『疫病の迷宮』を創ってから気を失っていたわけで、私の記憶としては、その出来事もついさっきのことなのだ。


「……アイナさん!

 そんなことを言ったら涙ボロボロ状態の私は!! 私も気まずいですよ!!」


「ご、ごめんなさい! ……まぁそんなわけで、気分転換に食事にしましょう。

 腕を振るっちゃいますよ! ……振るう腕は、そんなに無いですけど」


「あはは……。それでは、私もお手伝いしますね」


「……私は一応、敵が残っていないかを見てきます。

 エミリアさん、アイナ様をお願いしますね」


「はい、承りました!!」


 そう言うと、ルークは騎士たちが撤退した方へと走っていった。



「――この流れで、敵がまだ残っていたら凄いような気もしますけど……。

 でも、念には念を入れておいた方が良いですもんね」


「……アイナさん。ルークさんは、とっても心配をしていたんですよ?」


「え? ……そうですね。

 あとで、もっとちゃんと謝っておかないと」


「ああ、もう。そういうことではなくて――」


「むむ?」


「……ルークさんも少し、一人になりたかったんだと思います」


 エミリアさんは少し困ったような笑顔を向けてくれた。

 ……また困らせてしまった。……最近、私はこんなのばっかりだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ルークが戻ってきたあと、小屋の中の粗末なテーブルに作り立ての料理を並べていく。

 張り切って作り過ぎてしまったため、全部を乗せることができなかった。


「――っていうか、フィノールの街でお料理自体も買い込んでいたんですよね。

 それを無視して新しく作ってしまいましたけど」


「いえ、嬉しい限りです」


「あ、そう?」


 ルークの即答に、私は不意を衝かれた。


「まぁまぁ、ルークさんはアイナさんのお料理に胃袋を掴まれてますから!」


「いやぁ、それって――」


 美味しさじゃなくて、私が作るから……って理由だよね?

 意味合い的に、胃袋は掴めていない気がする。


「――まぁいいや。

 それじゃ、頂きましょう。はい、いただきまーす」


「いただきまーす!」

「いただきまーす」



 ……全員、疲労と空腹に満ちていた。

 何だかんだで食べ始めると夢中になってしまう。


 エミリアさんに至っては、食事前のお祈りもしないくらい――

 ……んん? 珍しいというか、そんなの初めて見たかもしれない。



 ――さて、私もずいぶんお腹が空いているし、負けずに食べることにしよう。


 まずは近くのスープを手に取って、ゆっくりと飲んでいく。

 作りながら味見をしていたから、承知している味ではあるんだけど――食卓で飲むのはやはり落ち着くというものだ。

 あまりたくさんは食べられないと思うけど、それでもこれからのために、無理をしてでも詰め込んでおかないと。


 ……目の前の二人も、現在進行形で詰め込み中だ。

 凄い食べっぷり。足りなくなったら、早々に補充してあげよう。


 幸いにしてお料理は作り過ぎちゃったし――って、作り過ぎということはあり得ないか。

 何と言っても、エミリアさんがいるわけだし!!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――案の定、作った分は綺麗に無くなってしまった。

 MVPは当然のことながらエミリアさんだ。……ルークも頑張ったが、一歩も二歩も三歩も足りなかった。


「はぁ……、落ち着きました……。

 やっぱりアイナさんは凄いですね!!」


「え、何がですか?」


「いやいや、やっぱりこういう局面ではその働きが凄くて!」


「あはは。私は裏方特化ですからね!!」


「……裏方……」


 私の言葉を聞いて、ルークが小さく漏らした。

 ……ああ、もうそんなこともないのか。さっきなんて、英雄やら騎士やらを追っ払ってしまったし――


 エミリアさんの方を見てみれば、彼女も同じことに気付いたようだった。

 二人からはなかなか聞き辛いとは思うし、私もいろいろと話をしなければいけないか……。



 ……それに、私からも聞きたいことはある。



 ルークは神剣カルタペズラを持った英雄と渡り合っていた。

 ……ということは、先日の呪いはもう大丈夫になったのだろうか。

 さすがに呪われたまま、対等に渡り合えたとは思えないし……。


 ……ただ、やはりまだ気まずい空気はある。

 気まずいというか――すぐに素直になれないというか、心の整理が必要というか……?



 今の時間は14時くらい。

 敵もすぐには戻ってこないだろうし、今日は体力の回復に専念をして、明日ここを発つことにしよう。


 それなら時間はまだある。

 タイミングを見て、今日のどこかで話を切り出そう。


 ……どう切り出すかは、ちょっと一人で考えることにしようかな。



「――さて。それじゃ、片付けをしてきますね」


「私も手伝います!」


「では私も」


「むむ」



 残念ながら、私は一人の時間を作ることに失敗してしまった。


 ……いや、残念なわけも無いか。


 最近失っていた、ただの日常。

 そんなただの日常が、身近にあるだけでとても嬉しかった。



 ……って、まだ気まずいんだけどね!!

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