33.給湯のアルケミスト
時間は昼、13時といったところ。引き続き天気も良く暖かい。
心地良い疲れと共に、お腹も減ってくる。
「そろそろお昼ごはんにしない?」
「そうですね、そうしましょう」
「はーい!」
私の一言でお昼休み決定。
「しかしここは見事なまでに草原ですね。火は起こしますか?」
「んー、薪も見当たらなそうだし、今回は要らないかな」
そう言いながらアイテムボックスからパンをたくさん取り出す。
昨日ガルーナ村で買っておいたものだ。
「はい、好きなだけ食べてね。エミリアさんは少しセーブ気味で」
「う……はい。分かりました……」
――うん。パンは美味しいんだけど、飲み物が無いときついね。
飲み物……水。味気ない。
「あああ、お茶が飲みたい!」
「そうですね、やっぱり温かいお茶が欲しいですよね!」
エミリアさんが同意してくる。
お茶のセットはクレントスで買っていたから、つまりお湯があればいつでも淹れられる状態なんだけど。
「やはり、火を起こしますか?」
「うーん、そんなにゆっくりする時間も無いからなぁ……」
実際のところ、急ぎ気味で進んでようやく夜に着く行程なのだ。30分くらいで済むとしても、その時間は案外大きい。
「飲み水はあるから、水でお茶を……う~ん」
「……あの、アイナさん」
突然真顔になるエミリアさん。何事?
「ポーションというものは本来、煮立てた水にいろいろな素材を入れて作成するものなんです」
「はぁ」
なぜ急にポーションの話を?
「つまり錬金術に見立てると――『お湯』はどうやって作るのでしょうか」
「えっと……『水』を素材に……。――――ッ!!!?」
「アイナさんは何故か一瞬で色々なものを作ってしまいますが、つまりそれは一瞬でお湯を作れるということなのでは!?」
む、むう……。それは盲点だった……!!
……でも何かふざけたロジックに思えるけど、本当に出来るのかな……?
えーい、れんきーん。
バチッ!!
えーい、かんてーい。
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【お湯(S+級)】
お湯
※追加効果:美味(小)
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「……出来たヨ」
「わぁ、すごいです! あ、それじゃお茶のセットをお願い出来ますか? 私が淹れますので!」
うきうき気分のエミリアさんにお茶のセットを渡す。
いや、うん。何だか、『錬金術とは』みたいな思いも生まれるけど、まぁいっか。……良いのかな? ……本当に良いのかな?
「それにしてもアイナ様はすごいですね。いや、今まで色々な薬で超越したものを感じてきましたが、まさかお湯という日常のものでそれを感じられるとは……」
ルークがしきりに感心をしている。
まさに神スキルでお湯を作る錬金術師。
「いや、うん。役に立つことが出来て嬉しいヨ」
「もしかすると、果物からジュースも作れそうですよね」
「……!!」
ルークの発した追撃の言葉に、まさかーとは思いつつ、今晩試してみようと思ってしまう私だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時間は夕方、15時といったところ。引き続き天気は良いけど、少し涼しくなってきたかな。
「アイナさん、お茶にしませんか!」
エミリアさんが明るい声で聞いてくる。
こやつめ、味を占めおったな。
「そうですね、それじゃちょっと休憩にしましょうか。ルークも良い?」
「はい、もちろんです」
お茶のセットをエミリアさんに渡して、私は私でお湯を作る。
「ところで、ミラエルツには順調に向かえているのかな?」
「そうですね。体感で申し訳ないですが、あと4時間もすれば到着すると思いますよ」
ふむふむ、なるほど。そうすると19時到着くらいかー。
「ミラエルツに着いたらさっさと宿屋を取って、明日に備えようね」
情報収集やお金稼ぎの算段は全部もう明日!
今日は旅路に集中するため、やることを完全に切り分ける。
「分かりました。そうですね、クレントス以来の大きな街ですから、見るところもたくさんありますし――」
「はーい、お茶が入りましたよ~」
「「ありがとうございます」」
エミリアさんから二人、お茶の入ったカップを受け取る。
「はぁ。やはり温かいものは落ち着きますね」
「お茶菓子も買ってくれば良かったですね!」
「まさか旅の途中で、こんな気軽に温かいものが飲めるなんて思いも寄りませんでしたからね……」
思い思いの言葉で疲れを癒す。
何か私、戦闘はまるっきりダメだけど休憩時は一番活躍できそうな感じがしてきた。
これから長旅になるときは、もうめいっぱいのクオリティで休憩を提供しようかな?
お茶の種類にこだわってみるとか、色々なお菓子を用意しておくとか。
うん、それはそれで面白いかもね。
それにしてもお湯、かぁ。
お湯といえば、カップラーメンとかあると便利だよね。
それこそパパッと食べられるし。
確かあれって、麺を油で揚げてるんだっけ?
うーん、時間があったら試してみようかな。
「――アイナさん、顔がニヤけてますよ!」
「えぇ!? そんなことは!」
不意のエミリアさんからの言葉。
くっ! 少しくらい楽しそうな空想をしても良いじゃないか!
「さてと、それじゃそろそろ行きますか」
「はい」
「はーい」
二人に呼び掛けて立ち上がる。
順調にいけばあと4時間ほどで鉱山都市ミラエルツに辿り着く。
ガルーナ村に行かなければとっくに着いていただろうし、そもそも途中でルークに出会わなければ、もう王都に着いていたかもしれない。
いろいろなところで出会いがあって、自分の旅を変えていく。
――うん、深い。実に深いね。
それならばミラエルツではどんなことが待ち受けているのかな。
そんな思いを胸に、再び旅路を歩むのだった。




