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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第7章 Differents' Note
329/911

329.シェリル・ヴィオラ・ブリストル

「――はぁ、ヒマだ……」


 いつもと変わらない今日。どこにも遊びに行けないし、話し相手もいない。

 無理を言えば俺を監視している連中が話してくれるけど、そういうんじゃないんだよなぁ……。


 もっとこう、立場や身分を飛び越えて、何でも気兼ねなく話せる相手――っていうのかな?



「――はぁ……。ファーディナンドのやつ、今日も来ないつもりかよ……」


 俺がグランベルの屋敷に幽閉されてから、かなりの時間が経っている。

 その間、現当主のハルムートにはいろいろな意味で世話になったものだけど――アイツは今、昏睡状態で眠りこけているらしい。

 ……ファーディナンドはその隙に、グランベルの家督を奪うとか何とか言い始めたんだっけ……。


「ずっと大人しく(くすぶ)っていたアイツがねぇ……。

 ……おっかしいよなぁ、シェリル」



 俺と同じ身体にいる、もう一人の少女。

 俺なんかよりもずっと優しくて、可愛くて、大切なヤツだ。


 しかし、最近はどうにも会話ができていない。

 以前はもっとこう……何て言うのかな、微かに声が聞こえたりしたものなんだけど。


 ただ、直接話はできないとは言っても――朝起きると、シェリルからの手紙が置いてあることもある。

 そうしたら俺は、いつも速攻で返事を書いてやるんだ。

 ……そんな感じのもんだから、こんな生活の中での唯一の楽しみ――ってことになるのかな。



 ――っと、それはひとまず置いておいて!

 それよりもファーディナンドのやつ! 最近何だかムカつくんだよ!


 ……その理由はいまいちずっと分からなかったんだけど、シェリルからの手紙でようやく分かったんだ。


 ファーディナンドは家督争いに敗れて以来、ずっと何もしてこなかった。

 ハルムートの下で、家の雑用とか俺の面倒くらいしかやっていなかったんじゃないか?


 でも今は、ハルムートから家督を奪い返そうと必死に頑張っている。

 ……シェリルの手紙には『停滞していた時間が動き始めた』――とか書いてあったな。


 停滞した時間……。俺の時間も、きっとそれなんだ。

 王城に召し抱えられてから、シェリルが命令を拒否して、そしてこの屋敷に幽閉されている。

 ……今は毎日、だらだら過ごしているだけ。


 そんな俺にとって、停滞していた時間から脱することができたファーディナンドは、とんでもなくムカつくんだ。

 ……大体だぞ? ハルムートが昏睡状態なら、俺ももう少し自由に動けるようになっても良いんじゃないか?


 はぁ……。

 ファーディナンドは俺の良き理解者だと思っていたけど、もしかしたら違ったのかなぁ……。



 ――良き理解者。



 ……そういえば、アイナのやつは元気かな。

 元気も何も、シェリル曰くの『世界の声』とやらで、何だか仰々しいことが聞こえてきたけど――



 ━─━─━─━─━─━─━─━─━─━─

 『アイナ・バートランド・クリスティア』によって神器『神剣アゼルラディア』が誕生しました。

 ─━─━─━─━─━─━─━─━─━─━



 ――何? 神器? それって作れるの?

 ……いや、そりゃ誰かは作れるかもしれないけど、あいつって錬金術師だろ? 何で錬金術で剣を作るんだよ。


 でも――……あいつも優しいというか、なまっちょろいというか、少し間が抜けてるというか……そんな感じだったけど、それでも前に進んでいたんだな。


 ユニークスキル『創造才覚<錬金術>』を持っているとはいえ、それにしてもとんでもないことをしでかしたものだ。


 ……いや、それだけじゃないかもしれない。

 シェリルだって『創造才覚<魔法>』を持っているんだ。


 それでも、新しい難解な魔法を作るにはかなりの時間が掛かる。

 ……というと、アイナは他にもユニークスキルを持っていたんじゃないか?

 そうでなきゃ、さすがにシェリルと差がありすぎだろ……。



「ユニークスキルを、いくつも――」



 そんな考えが頭に浮かんだ瞬間、俺は身震いをしてしまった。

 そもそもユニークスキルを持つなんてやつは滅多にいない。さらに2個以上持つだなんて――


 ……一応、昔話に出てくるような『勇者』が持っていたという話はあったんだっけ……?

 その信憑性は眉唾ものだけど、可能性としては無くは無いのか? ……いや、昔話だから、尾ひれが付いているだけかもしれないけど。

 ただ、神器を作るなんていうのも、それこそ歴史的な出来事のわけで――



「――はぁ。……俺もアイツと一緒に行けたら、面白かったかもなぁ……」


 しかし、ファーディナンドから聞いた話によれば、アイナは王様の暗殺を企てたらしい。

 ……アイツが暗殺? はぁ? ……全然、想像できない……。


 その真偽は置いておくとして、とにかくアイナは仲間と一緒に王都から逃げてしまったらしい。

 俺の情報としてはここまで。……今は生きているのか、死んでいるかも分からない。


 まぁ、死んでいるならファーディナンドが教えてくれそうなものだけどな。

 ……いや、アイツなら隠しておくかもしれないか。変なところで(さと)いからな、ファーディナンドも。


 しかし興味が一旦そちらに向いてしまうと、どうにも気になっちまう――



「はぁあー……。シェリル~……。

 俺、もうここの生活嫌だよー。飽きたよー。もー」


 やり場の無い思いがもたげる。

 アイナに会うまでは完全に諦めていたのに、会ってからは何かが変わってしまったのかもしれない。


 ……こういうときはいつも、枕を抱いてベッドでゴロゴロ転がるんだけど――それをやったところで、どうにも気分が晴れてくれない。


 ああ、もう……この屋敷の警備を全部ぶっちぎって、本気で逃げてやろうかなぁ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 トントントン


「んあー?」


 扉のノックに返事をすると、ニコニコ顔のファーディナンドが部屋に入ってきた。


「やぁ、シェリル。機嫌はどうかな?」


「……機嫌良く見えるか?」


 まぁ、ちょっとは嬉しいんだけどな。話し相手ができたって意味では。

 しかしキラキラ輝いているコイツを見てると、魔法の10発もぶち込みたくなるというのが本音だ。


「最近はあまり来られなくて申し訳ない。

 何かあれば見張りの者に言ってくれれば――」


「あのさー。家督の方はどうなってるのよ」


「うん? ……そうだな、根回しは順調……というところか。

 本来はもっと素早く進める予定だったんだが、今は王族も貴族もみんな大変なことになっていてな……」


「ふーん? 王様、やっとくたばったのか?」


「おいおい、ものの言い方には気を付けてくれよ……。

 まぁ、その辺りでちょっとな……」


 ……何とも歯切れの悪い返事だ。

 こんなところに閉じ込められている俺に、隠しておく必要も無いだろうに。



「――そんなことよりさ!

 もしお前が家督を奪ったら、俺を解放してくれるんだよな?」


「……解放すると思うか?」


「思う!!」


「ぬ……。……うーん……」


 多分、俺の返事はファーディナンドの思っていたものとは違ったのだろう。

 眉間にシワを寄せて、難しい顔になってしまった。


「まぁ……、無理は言わないけど」


「――いや……。私もこのままではいけないと思うんだよ。

 いくらユニークスキルを持っているからといって、ずっと閉じ込めたままというのはな……」


「は、はぁ!? そ、そんなの持ってないし!」


「ははは、そうだったな。

 ……ところで、今日は真面目な話があって来たんだ」


「えぇー? 真面目なやつはいらないよ……」


「いやいや……。

 シェリル……いや、お前のことは、ヴィオラと呼んだ方が良いのか?」


「ほえっ!?」


 ファーディナンドの口から、突然俺の名前が出てきたことに驚いてしまった。

 俺はその名前を自分の名前にして使っているが、それで呼ぶやつなんて少ないからだ。


 ……シェリルとテレーゼとバーバラと、あとはアイナ。

 他のやつは、みんな『シェリル』の名前で俺を呼んでいるからな。俺は俺で、別に訂正もしないし。


「……アイナさんがお前のことを、そう呼ぼうとしていたことがあったんでな……。

 もしかしたら、もう一人のシェリルと呼び方が違うのかと思ったんだ」


「今さらかよー。

 まぁ、俺がシェリルと話すときは、俺はヴィオラだな。ややこしいからさ」


「ははは、確かにややこしそうだ。

 ……さて、私はお前を手放すわけにはいかない。申し訳ないが、家族の元にも返すわけにはいかないんだ」


 それは分かっている。どこの誰がユニークスキルを狙っているか分からないからな。

 誰も手が届かない場所に幽閉した方が良いのは理解しているけど――

 ……はぁ。ハルムートが失脚してもダメなのか……。もう望みは無いか~……。


「――そこでな。

 もしお前たちが……ヴィオラとシェリルが良ければ……、私の……養子にならないか?」


「……は?」


 俺はとりあえず、自分の耳を疑った。

 養子っていうと、俺がファーディナンドの娘になるってこと……?


「結論は急がなくて良いから、じっくり考えてくれ」


「はぁ……。分かった分かった、シェリルに聞いておいてやるよ。

 シェリルが良いなら――」


「……ヴィオラ、お前の意思も聞いているんだぞ?

 お前もよく考えてくれよ」


 ファーディナンドのまっすぐな目が俺に向けられる。

 俺の意思……? 俺の意思も考えてくれるの……?


「……わ、分かった。し、仕方ねぇ。考えておいてやるよ。

 でもお前のことを親父なんて、呼びづらいなぁ……」


「パパでも良いぞ!」


「は、はああああーっ!?」



 ――俺の両親は、まだ生きている……はずだ。

 でも、あんなやつらのところには戻りたくもない。


 それにしても、ファーディナンドが親父……?

 まぁ、それも悪くは……無いのかなぁ……。


 ……いやいや、えーっ!? やっぱり微妙じゃないか? いや、でもどうなんだ……?

 俺一人じゃそんなの決められねぇよー! シェリル、助けてくれぇええええっ!!

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