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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第6章 遡流の旅路
327/911

327.逃亡の最果て④

「――さぁ、降りてください。皆さまがお待ちですよ」


 兵士たちが囲む円の中心にまで行くと、旦那さん――馬車の御者がそう言った。

 ……私たち以外の三人は家族だと思っていたけれど、それはきっと違うのだろう。


 大人の二人はともかくとして、娘役の女の子には戦慄さえ覚える。

 私たちを油断させるための、決定的な要員。あどけない顔をしながら、私たちを騙していたのだから――



「……ふふふ。きっと、名女優になれるね」


「ふーんだっ!! あんたたちなんて、死んじゃえ!!」


 女の子は大人の影に隠れて、舌を思いっ切り出していた。

 大人の二人は既に短剣を構え、私たちにその切っ先を向けている。


「……アイナ様、どうしますか?」


 ルークはそう言いながら、神剣アゼルラディアを鞘から抜いた。

 今の彼でも、この三人くらいは問題無く倒せるだろうけど――


「ここを抜けるための人質には……なりませんよね?」


「はははっ! 犯罪者を葬るためなら、この命なんぞ惜しくはないっ!!」


「そうですか……。……ルーク!」


「はい」


「――ッ!!」

「――ッ!?」


 私の合図の直後、神剣アゼルラディアが大人の二人に叩き込まれた。

 脇腹にそれぞれ一撃ずつ入り、その場所からは徐々に血が滲み出してくる。



「あ……、あ……」


 それを見て愕然としたのは、娘役の女の子だった。

 どういう経緯でこの場にいるのかは知らないが、本来自分を護ってくれるはずの大人たちがあっさりとやられたのだ。

 何らかの覚悟はしてきただろうが、冷静でいられるはずもない。


 ――しかし、相手は子供だ。


「……あのね、お姉ちゃんたちね。これから外の人たちと話をしなきゃいけないの。

 あなたたちのせいでね」


「う……」


「いつか絶対、あなたを叱りにいくから。

 どこにいたって見つけてあげる。だから、ずっと待っているんだよ?」


「だ、だって……! あなたたち、王様を――

 ――ッ!?」


 話の途中で、ルークが女の子の首に手刀を入れた。

 そのまま女の子はドサリと馬車の中で崩れ落ちた。



 私たちは馬車に倒れた三人を見下ろして、ため息をつき合う。


「――はぁ……。これからどうすれば良いの……」


「本当に……。……あはは、何が起こるんでしょうね……」


「何があろうと、私が護ってみせます」


 ルークは真面目な顔で言い切るが、恐らくそれは無理だろう。

 暗黒の神殿で囲まれたときの距離や人数であれば、まだ何とかなるかもしれない。


 しかし今は、あのときよりも距離を空けられている。

 その上で、円状のどこにも切れ目が無いほどの人数がいるのだ。


 ……一体、どれだけの人員を割いているんだか……。


「リリーも、ごめんね……。巻き添えにしちゃった……」


 リリーはいつもと変わらない感じでぷるぷると揺れている。

 もう一緒にはいられない。短い間ではあったけど――



 ヒュヒュンッ!!



 突然、馬車の外から空気を切る音が聞こえてきた。

 この音は――矢でも撃たれたのだろうか。


 しばらくすると、馬車の幌が突然赤い光に照らされ始めた。

 もしかして、馬車に火を点けられた……!?


 そして――


「ヒヒーンッ!!?」


 ガタタンッ!!


 馬の嘶きと共に、馬車が大きく揺れた。


「アイナ様、仕方ありません! 外に出ましょう!!」


「う……うん!」


 馬車を奪って囲みを突破する――そんなチャンスも潰え、私たちは馬車の外に逃げ出した。

 その瞬間、火のまわった馬車は暴走を始めた。中には三人が残されているけど――


 ……しかし私たちは、そんな心配をしている場合ではない。

 この絶望的な状況を、どうにかして脱しなければ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 私たちが外に出たとき、矢はすでに収まっていた。

 空はどんよりとしており、これからの不吉な未来を想像させる。


 周囲の人影は私たちを中心にして、半径100メートルほどの円を描くように陣形を組んでいた。

 まったく、そこまでしなくても良いだろうに……。


 そんなことを考えていると、私たちの前から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「んっんっんっ♪

 やぁやぁ、キミたち。元気してたかな~? ……って、何で元気にしてるんだよぉ!!」


「呪星……、ランドルフ……」


 ルークに呪いを掛けた張本人が悠然と歩み寄り、再び私たちの前に立ち塞がった。


「前回の傷ぅ……。恨みを晴らしにきたよー。

 んっんっんっ♪ 今日こそは皆殺しにしてあげよう!!」


「恨みって……。それだけのために、こんな人数を……!?」


「……人数? ああ、そうそう。

 ちょっとね、クレントスに向かう途中の部隊を借りてきたんだ♪

 証人はたくさんいた方が良いし、それに確実に殺しておきたかったからさぁ~」


 何という職権乱用……。

 ――って? え、クレントス?


「クレントスに……向かう……?」


「んっんっんっ♪ 何だか革命を目指している連中がいてねぇ……。

 でも決着が付きそうだったから、ちょっとだけ借りてきたんだよぉ~」


 革命――それは、心の支えのひとつだったもの。

 もしもアイーシャさんに会うことができたら、力になって欲しかったのに――


「アイーシャさんたちが……負ける……?」


「おや? キミはアイーシャのことを知っているのかい?

 んっんっんっ♪ 国王暗殺に、国家転覆……罪状は多いねぇ♪」


 そこまで言うと、ランドルフは手を大きく上げた。

 その瞬間――


「プロテクト・ウォール!!」


 エミリアさんの魔法が光の壁を作り出す。

 そして直後、遠くから飛んできた大量の矢がぶつかり、地面に落ちていく。


 気が付くとランドルフの姿はもう無かった。

 その後も機械的に矢が降り落ちてきて、機械的に光の壁がそれを弾いていった。



「――……ッ!

 ……あ、アイナさん……。ちょっと、もう少しで、限界……です……」


 エミリアさんが光の壁を維持しながら、辛そうな表情を見せる。

 この魔法は攻撃を受けるたびに魔力を消耗してしまう。攻撃を受け続ければ、魔力が枯渇して――


「危ないっ!!」


 ルークの声が聞こえた瞬間、私の身体にドシンと衝撃が走った。

 気付いたときには、私の身体は地面に倒され、ルークの身体が私の上に被さっている状態だった。


「えっ!? えっ!? ちょ、ちょっと――」


 私が身体を動かすと、上に乗っていたルークはゴロリと地面に転がった。

 その背中には無数の矢が突き立っている。


「アイナ様……、ご無事……で……?」


 息の絶え絶えなルーク。

 このままでは危険だ。私はアイテムボックスからポーションを取り出して、矢を抜きながらルークに振り掛ける。


「エミリアさん、ルークが……! ルークが……!!」


「う……。アイナさん……ごめんなさい……。

 私も、もう限界――」


 エミリアさんがそう言った瞬間、不安定に歪んでいた光の壁が消えてしまった。

 そして――


 ヒュンッ


「――ッ!?」


 エミリアさんの肩に、1本の矢が突き立った。

 その勢いのまま、彼女は地面に倒される。


 気を失った彼女の元に駆け寄り、慌ててポーションを振り掛ける。しかし矢は次々と降ってくる。

 私たちを護るものは何も無い。ポーションが効果的だったとしても、その数には限りがある。


 もう、おしまい――



「や……やだよ……。ねぇ、エミリアさん?

 私……私を、一人にしないで……? ほ、ほら、ルークも……目を……目を、開けて……?

 開けて……よぉ~~……!!」



 私の言葉は虚しく空に消えていく。

 今まさに、私たちの旅は終わろうとしている。


 大切な人を失うという、最悪な形で……?



 ――嫌だ。


 ――嫌だ!!


 ――嫌だ!!!!



 そんなの、許さない。

 私から大切な人を奪う、こんな世界なんて許さない。


 だから、もしも私に、もっともっと力があるのなら……ッ!!!!



 ――その瞬間、不思議な光が私を包み込んだ。

 そして聞こえた、何度目かの声――


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 【アイナ・バートランド・クリスティア】

 レアスキル『神竜の卵』が消滅しました。

 ユニークスキル『――――』を獲得しました。

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