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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第6章 遡流の旅路
326/911

326.逃亡の最果て③

 空は相変わらず薄暗かった。

 雲がどんよりと広がり、もうすぐ昼になろうというのに気温が上がってくれない。


「……はぁ、寒い……」


 その寒さは、手がかじかむほどだった。でも今って、一応夏なんだよね……?


「……フィノールの街で羽織るものを買っておいて良かったですね。

 少しの時間ならまだしも、ずっと外を歩くには寒さが堪えますし……」


「本当に、街に立ち寄れて良かったです。

 テレーゼ様様……ってやつですね」


 このまま歩きでクレントスに向かうとしたら、またずいぶんと時間が掛かってしまう。

 馬車を再び買うことができれば良いのだが、七星に場所がバレていた以上、私たちの新しい偽名もバレているかもしれない。


 ……そうなると、これから街や村に寄るというのも難しくなりそうだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 その後、黙々としばらく歩いていると、遠くから馬の(いなな)きが聞こえてきた。


「……馬? こんなところに誰かいるのかな」


「少し様子を窺いましょう」


 私の言葉に、ルークは耳を澄ませ始めた。

 しばらくすると――


「何やら怒号が飛んでいますね。

 誰かが何者かに襲われているようですが……」


 具体的な内容までは聞こえないが、確かに何となく、そんな感じの声が聞こえてくる。


「うーん……。どうする?」


「どうしましょう」


 うーん……。


 誰かが困っているのであれば、本来は助けに行きたいところではある。

 しかし私たちも散々な状況にあるわけで、余計な厄介ごとに首を突っ込みたくないという気持ちもあるのだ。


「……でも、少なくともこんな場所なので……馬車はありますよね?

 馬の嘶きも聞こえましたし……」


「ふむ……」


 エミリアさんの言葉に、私は考える。

 もしも誰かを助けられたなら、それは良し。そのまま馬車に乗せてもらおう。

 もしも全員が敵ならば、それはそれで良し。そのまま馬車を奪ってしまおう。


 何とも打算的な考えではあるが、敢えて火中の栗を拾うのだ。

 これくらいのことを考えても、バチはきっと当たらないだろう。


「――それじゃ、ひとまず助けてあげましょうか。

 どうにか馬車に乗せてもらって……もしくは頂いて、さっさとクレントスを目指すことにしましょう」


「あはは……。アイナさん、悪ですね♪」


「エミリアさんだって、そこまで考えていたんでしょ?」


「……お二人とも、逞しくなられて……」


 最後のルークの言葉が少し気になったけど、私たちはとりあえずその場所に向かうことにした。

 さすがに七星やら英雄やらはいないだろうし、きっとそれならどうにでもなるだろう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 私たちがその場所を訪れたとき、1台の馬車が1人の野盗風の男に襲われているところだった。

 ルークは普通の剣の方を抜いて、その男をあっさりと斬り払う。


 ……私たちが来るまでかなりの時間があったのに、まだ襲っている最中だったとは。

 何とも手際が悪いというか……。


「大丈夫ですか?」


 ルークが馬車の中に声を掛けると、家族と思わしき3人が降りてきた。

 旦那さんと奥さん、それに小さな女の子……という構成だ。


「おお……、助けて頂いてありがとうございます。

 ……突然この男に話し掛けられて、難癖をつけられて困っていたのです……」


「難癖? 野盗では無かったのですか?」


 実際、その男は重そうな短剣を振り回していた。

 野盗で無いとはいっても、逆にむしろ信じられないくらいだ。


「いえ、野盗の一員ではあるようなのですが……。

 物盗りのあと、一人だけ置いてけぼりにされたとかで……馬車に乗せろと脅迫されてしまって」


 おや?

 もしかして、それくらいなら斬るほどのことでも無かったのかな……?

 ……いやいや、この状況では仕方が無い。気にしないでおこう。


「なるほど……。

 ひとまずご無事で何よりです。怪我はありませんか?」


「はい、おかげ様で!

 ……ところであなた方は一体?」


「私たちは偶然通り掛かった冒険者です。

 私がメイベル、あっちがブレントとナタリーです」


「金にもならないのに、危険を冒して助けて頂けるなんて……!

 もしよろしければ、街でお礼をさせてもらえませんか?」


 旦那さんは目をキラキラとさせて、そんなことを言い始めた。

 それはとってもありがたい申し出だけど、今は街には入りたくない。……捕まってしまう可能性があるから。


「申し訳ありません、今は先を急いでいるところですので……。

 もしお礼ということであれば、馬車に乗せて頂きたいのですが……」


「ええ、もちろんですとも!

 私たちはクレントスに向かう途中だったのですが、あなた方はどちらに?」


 ――え? クレントス?


 私は思わず、ルークとエミリアさんの方を振り向いた。

 二人も思い掛けない展開に驚いていたが、次の瞬間には頷いてくれていた。


「えぇっと……私たちもクレントスの方に向かっているんです。

 できる限りで結構ですので、乗せて頂けませんか?」


「そうでしたか! それではクレントスまでご一緒いたしましょう」


「わーい♪ お兄ちゃんとお姉ちゃんたちも一緒だー♪」


 旦那さんの言葉に、娘さんも喜んでくれた。

 ルークは御者をしなくて済むし、私たちも楽しく過ごすことができる。


 これはある意味、最高の展開なのではないだろうか。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ゴトゴトゴト……。


 馬車は細かく揺れながら、細い街道を走っていく。

 しかし――


「……あれ?」


 不意に、馬車の揺れ方が変わる感じがした。

 不思議に思って外を見てみれば、街道から荒れ地に入ってしまっているようだった。

 これにはルークもおかしいと思ったようで――


「すいません、街道から外れたんですか?」


「ええ。少し揺れますが、これが近道なんですよ」


 旦那さんは振り返ることなく、ルークに返事をした。

 ルークはそれを聞いて、私たちに小さな声で話し掛けてきた。


「……何だかおかしいです。

 この先をずっと行っても、街道よりは遠回りになります。

 小さな村はありますが、立ち寄る意味は特に無いはずですし……」


「そうなの? ……道を間違えているのかな?」


「それは考え難いですが――」


 ……もう少し詳しく聞いてみる?

 何だったら、間違いを指摘する?


 そんなことをこそこそと話していると、旦那さんが声を掛けてきた。


「ははは、申し訳ありません。

 少しだけ寄りたいところがあるんですよ。もうすぐ着きますから、今しばらく我慢してくださいますか?」


「はぁ……」


 旦那さんの声に、私は何とも間抜けな返事をしてしまった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 しばらく進むと、高い岩場が見えてきた。

 馬車は岩場の間を縫うように、どんどん走り抜けていく。


「――さぁ、ここを抜けた先ですよ。

 そこでしばらく、景色を楽しむと良いでしょう」


 ……景色? もしかして、何かの絶景ポイントなのかな?

 いやいや? そんなのを見に行くくらいなら、さっさとクレントスへ向かいたいんだけど――



 そう思った瞬間、馬車は岩場から抜け、私たちの目の前には広大な荒れ地が広がった。


 ――荒れ地?

 ここで景色を楽しむだなんて――


 しかし次の瞬間、私たちの目には別のものが映った。

 大量の人影。兵士の姿が多く、横に一列に――いや、円状に並んでいる。


 円の中心は、まさに私たちが向かっている場所――



「――罠……?」


 野盗に襲われていると見せかけて、まさか最初から罠だった……?

 ルークもエミリアさんも、これには愕然としている。


 …………何てこった……。

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