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異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第6章 遡流の旅路
325/911

325.逃亡の最果て②

 グラーゼ村に泊まった2日後の朝には、雨は止んでくれていた。

 曇り空ではあるものの、クレントスを目指すには何の問題も無い。


 私たちは早速、宿屋を出ることにした。


「あ、ありがとうございました……」


 チェックアウトのために宿屋の受付カウンターに行くと、宿屋のご主人が強張った口調で言った。

 あれ? 今まではもっと好意的に接してくれていたはずなんだけど――


「……?

 どうかされましたか?」


「い、いえ、何でもありません。

 それでは良い旅を……!」


 そう言うと、ご主人はさっさと奥に引っ込んでしまった。

 違和感を覚えながらも、私たちは宿屋をあとにする。


「……何だったんでしょうね?」


「さぁ……? でも、感じが悪かったです……!」


 エミリアさんはあの対応に不満そうだった。

 宿屋に泊まっている間は気持ち良く過ごせたのに、最後がこれでは良い印象が持てなくなってしまう。


 そんなことを思いながら、馬車の場所まで行ってみると――



「……え?」


 馬はおらず、馬車は無惨に破壊されていた。


「これは……!?

 アイナ様、これでは修理をしないと動かせませんね……。それに、馬も……?」


「酷い! 一体誰が……!?」


 思い当たるのは宿屋のご主人しかいない。

 そもそもこの村では他の人とは話していないし、それに加えて先ほどの不審な様子――


「私が確認して参りましょう。

 何か事情があるにせよ、これは許されることではありません」



「――いや、それには及ばないぞ」



 私たちが話をしていると、突然そんな声が聞こえてきた。

 慌てて周囲を見るも、誰もいない。しかしその声は、何となく上の方から聞こえてきたような――


「……ッ!!

 エミリアさん、防御の魔法を!!」


「え!? ……プロテクト・ウォール!!」


 ルークの言葉に、エミリアさんはすぐさま魔法を唱えた。

 私たちのまわりには光の壁が生み出される。


「ふふふ……。安心しな。俺からは攻撃をしないから」


 改めて声の主を辿ると、近くの家の屋根に1人の青年を見つけることができた。

 大きな弓を片手に持っており、その服装もいかにも弓師といった感じだった。


「弓師……? まさか――」


「そうそう、察しは良いな。

 馬車を使えなくしたと思ったんだが、まさかすぐに替わりを買っちまうだなんてな。……思いもよらなかったよ」


 恐らくは……フィノールの街に寄る前に、以前の馬を遠距離の岩場から撃ち殺した弓師……!



「この馬車も、あなたが……?

 でも、一体何で私たちを狙うんですか……!?」


「あぁー、そうか、そうだよな。俺のことなんて知らないよな」


 弓師の青年は、片手で頭を押さえながら余裕そうに笑った。

 それを見て苛ついたのはルークだった。


「……貴様のことは知らないが、敵ならば……斬る!」


 そう言いながら、ルークは神剣アゼルラディアを抜いて構えた。

 先日普通の剣を買ったばかりなのに、早々に神器を方を抜くだなんて――相手の実力を見極めた上でのことなのだろうか。


「ふぅん、それが新しい神器か……。

 なかなか良いじゃないか。個人的には、神剣デルトフィングよりも好きだな」


 それはありがとうございます!!

 ……でも、敵の言うことなんて素直に聞けないんだから!!


「――それで? そんな場所から俺を斬るつもりなのか?

 それとも、遠距離攻撃でも持っているのかな?」


「試してみるか?」


 しかし私の知る限り、ルークは遠距離攻撃なんて持っていない。

 以前のルークであれば、屋根までジャンプして斬り掛かりそうなイメージもあるけど――

 ……呪いのせいで、身体が以前ほど動かせないとは聞いている。


 ここはあまり無理をさせるわけにはいかないだろう。

 それなら――


「目的は何ですか!?

 私たちとは初対面ですよね!?」


 まずは対話だ。

 ここでできるだけ情報を得ることができれば、このあとどうするかも考えられる。

 対話に乗ってこなければ、恐らくは戦いになってしまうわけだけど……。


「……目的、かぁ。

 そうだな、俺は弟に頼まれたんだよ」


「お、弟……? あなたの弟さんって……?」


「お前らとは先日会ったはずだぞ?

 まったく、俺の弟をずいぶん可愛がってくれやがって……」


 先日……? 可愛がってあげた……?

 もしかして……?


「あなたの弟って……? 

 まさか、呪星……ランドルフ……?」


「ああ、その通りだ。

 弟ご自慢の呪いをくれてやったはずなのに、そっちの野郎はピンピンしていやがるし……。

 しかも弟に怪我までさせてくれたんだろう?」


「……仇討ちにきたんですか!?」


「俺がそんなことをするもんかよ。

 やられたことは自分でやり返さないとな。それがうちの家訓なんだから」


 ……あなたの家の家訓なんて、そんなの知らないけど。


「ふん……。七星ともあろう者が、兄弟に助けを求めるなんてな……」


 そう言ったのはルークだった。

 彼にしては珍しく、かなり攻撃的な物言いだ。しかし、これは彼なりの挑発なのだろう。


「ははは、確かに!

 しかし『仲間』に助けを求めるのは、ごく普通のことだよな?」


「仲間……?」


「――ああ。俺の名前は……弓星イライアス。

 同じ七星だから、まぁ共闘っていうところだな」


「こいつも、七星――」


 ルークの剣を握る力が強まる。

 しかしランドルフの呪いを思い返すと、イライアスもどんな隠し玉を持っているか分からない。

 ここは逃げるべきでは――



「――アイス・ブラストッ!!」


「うおっと!?」


 私が唐突に放った氷の塊が、建物の屋根にいるイライアスの脚を狙った。

 イライアスはそれを何とか避けたが、そのままバランスを崩して屋根から転がり落ちていった。


「……よし!

 ルーク、エミリアさん、逃げましょう!!」


 その言葉を皮切りに、私たちは一斉に走り始める。

 ルークが本調子であれば余裕だったかもしれないが、少しでも負ける可能性があるなら、今は少しでも戦闘を避けたかった。



 ――クレントスにさえ行ければ。

 『神託の迷宮』にさえ行ければ。



 ここまで来れば、あとは時間の問題だ。

 フィノールの街では十分に食糧も買ったし、野営の道具もいろいろと揃えた。


 今後は街に寄らなくても、何とか進むことができるだろう。

 クレントスに向かっているのはもうバレているだろうが、まさか『神託の迷宮』を目指しているとは思うまい。


 それなら先に、『神託の迷宮』へ――



「――それにしても、アイナさん」


 グラーゼ村から離れて、息を整えるために休憩をしていると、エミリアさんが話し掛けてきた。


「……最近、攻撃的になってきましたよね!」


「えぇ!? そ、そうですか……!?

 ……いや、そうですね……?」


 以前に比べて、確かに私も攻撃を仕掛ける機会が増えてきた気がする。

 しかし改まって言われると、何だか認めたくないというか……。


「ははは……。いや、戦闘にならなくて済みました。

 今の私では、神器があったとしても勝てたかどうか……」


 ルークは笑いながら、静かにそう言った。

 ……どうやら私が思っている以上に、呪いの影響が残っているらしい……。

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