32.魔石とお財布事情
時間は昼前、11時といったところ。天気も良く暖かで、のんびり歩くにはとても良いのだが――
「グルウウァアアアアッ!!」
「行かせるか! ハァッ!!」
現在、戦闘の真っ最中です。
狼のような魔物――ヴィクトリアの従魔『アーデルベルト』よりは小さいのだが、見た目は大体同じ感じ。
ただし群れを成しているため、アーデルベルトとは違う意味の怖さがあった。
というか、ルークがいなければ即全滅だったんだけど。
「ルークさん、いきます! ホーリー・エンチャント!!」
エミリアさんが魔法を唱えると、ルークの身体にうっすらとした白いオーラがまとった。
「ありがとうございます! アイナ様のこと、よろしくお願いします!」
「お任せください! パージング・フィールド!」
次に唱えられた魔法は、私とエミリアさんの周囲にうっすらとした白い場を作り出す。
「わぁ、すごい。エミリアさん、この魔法は何ですか?」
「あ、はい。敵の攻撃力を削ぐ聖魔法です。アンデッドや悪魔に対してはかなりの効果が出るのですが、それ以外の魔物でも結構効くんですよ」
「へー、なるほど~」
戦闘中なのにどこかのんびりな私。
……うん、敵から自分の身を護ることしかやることが無いんだよね。
その敵も今はルークを集中攻撃しているわけで。
もちろんルークのことは心配だけど、順調に敵を倒しているから見ていて安心できる。
それに、私はエミリアさんみたいに他の人を支援できるわけでもないし……。
あ、でもエミリアさんも支援が終わっちゃえば、積極的にやることはあまり無いのかな――
「シルバー・ブレッド!!」
「ギャワンッ!?」
……あ、攻撃魔法もお持ちだったんですね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ルーク、お疲れ様ー」
全ての魔物を倒し終わると、ルークが戻って来た。
「いえ、大したことは無かったです。ご無事で何より。
エミリアさんも支援をありがとうございました」
「いえいえ、あれくらいしか出来ませんが。お怪我もあまりされていないとは思いますが、一応……。ヒール!」
エミリアさんが魔法を使うと淡い光がルークを包み込んだ。
おお、リアルヒールだ! ゲームでよくあるやつだ!
……って、あれ? 回復までこなしちゃうの? 私の存在意義は!?
――って、私は歩くポーションじゃないからこれで良いんだよ、うん。
「でもエミリアさんは攻守ばっちりな感じでしたよね。ルークは攻撃型だし。私は役立たずだけど」
「そういえばアイナさんって、魔法は覚えていらっしゃらないんですか?」
「え? はい、まったく」
それを聞いて、エミリアさんは不思議そうに私を見つめる。
「……え? 何ですか?」
「いえ、高度な錬金術には魔法が普通に関わってきますので……。何かしらは使えると思っていたのですが……」
すいません。錬金術に魔法が必要でも、私の場合はその工程をすっ飛ばしちゃう気がします。
「それに、その杖――」
エミリアさんが私の杖に目をやる。
「これですか? クレントスで身体を治してあげた方から頂いたものなんです」
アイーシャさんからもらった杖。道中ではしっかり使わせてもらっているのだ。……転ばないように、だけど。
「へぇ~……。こんな高価なものを頂いたなんて、さすがアイナさんですね……」
「え? そんな高価なんですか?」
「はい。材質もとても良いものですし、魔石スロットが5つもありますし。高レベルの魔法使いでも持つのが難しそうな杖でしたので――」
……うん? 魔石スロット?
「すいません、魔石スロットって何ですか?」
「えっ!?」
エミリアさんは私を驚いて見た。
「エミリアさん、アイナ様はそういったことをご存知ないところがあるので……」
とっさにルークのフォローが入る。ありがたい!
「あ、はい……。それにしてもアイナさんって、不思議な方ですよね。そういえば、どういった方なんですか?」
おっと、そこを聞きますか。
……まぁ、むしろ私の正体を知らずによく一緒に旅立ったなと思うところもあるけど。
でも『異世界から転生して来ました』なんてルークも知らない情報だし。
そもそもルークにも色々話していない状態でいられるのは、アレの効果だし。
「ねぇルーク。アレ見せちゃった方が早い?」
「そうですね……。エミリアさんなら大丈夫だと思いますし、それが良いと思いますよ」
「え? アレって何ですか?」
鞄の中からアレを出す。
「はい、エミリアさん」
「何ですか? このカード……って、これ、もしかして――」
「はい。いわゆるアレです。プラチナカードです」
「え、ええぇ!? アイナさん、そういう感じの方だったんですか!?」
……どういう感じですかね……。
「というわけで、これ以上の詮索は禁止です! 今後はただの錬金術師だと思ってください!」
「そういうわけです。エミリアさん、よろしくお願いしますね」
「は、はい……。いえ、想像以上のものを見せて頂きました……。見たのは二度目ですが……」
「あ、見たことはあるんですね?」
「聖堂の上層部の方で持っていらっしゃる方がいるのですが……。そうですね、分かりました。もう何も伺いません!」
「はい、それでお願いします。必要があればお話しますので」
私はにっこりと微笑む。
でも転生のことを説明する機会なんて来るのだろうか? そんな機会が来るとしたら、何かすごいことが起きてそうだよね。
「――それで、魔石スロットって何ですか?」
「あ、はい。えぇっとですね……。アイナさん、ここ見えますか?」
エミリアさんは私の杖の半ばくらいの場所を指差した。
見れば何やら小さな穴が5つ開いていて、その内の3つには透明な石が埋まっている。
デザインとして見れば5つ全部埋めた方が良いとは思うのだが――
「石が3つ埋まってますね。あとの2つは空いてますけど」
「はい、その穴が魔石スロットです。それで、この透明な石が魔石です」
「なるほど? つまり魔石スロットは魔石を入れるための穴なんですね。それで、魔石っていうのは……?」
「いろいろな効果を持つ魔法の石です。魔物の体内で作られたり、魔力の集まるところで生じるのですが――。
そうですね、アイナさんは鑑定スキルをお持ちですし、効果は説明するよりも見たほうが早いかと思いますよ」
「それじゃ、ちょっと見てみますね」
えーっと、この宝石3つを鑑定ー!
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【空箱の魔石(小)】
重量を15%軽減する
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【空箱の魔石(小)】
重量を15%軽減する
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【空箱の魔石(小)】
重量を15%軽減する
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……おっと、全部同じものだった。
そういえばこの杖、見た目よりも軽いとは思っていたけどこの魔石の効果だったのか。
何といっても、3つで45%軽減でしょ? 半分くらいの重さになっちゃうわけだし。
「3つとも空箱の魔石ってやつでした」
「えぇ!? ……良いものを入れていますね……」
「アイナ様の長旅を見越したアイーシャさんの配慮でしょうか。ううん、さすがですね……」
「えーっと? そんなに良いものなの?」
私の言葉を受けて、エミリアさんが思い出しながら答える。
「そうですね、ひとつ金貨10枚くらいでしょうか。結構人気があるんですよ」
「金貨10枚……」
「はい。持ち物が重いと疲労が溜まりやすくなりますからね。長旅をする方でそれを欲しがる人は多いですよ」
「……なるほど。ところでこれって取り外したりは出来るんですか? それと、普通に売っているもの?」
「ええ。取り外しは可能です。売っている場所は……冒険者ギルドとか、普通のお店で売っている場合もありますね」
へー、割と一般的なものなんだね。
「それで、二人は何か入れているんですか?」
「「いえ、買うお金が無くて……」」
……そこ、ハモるなよ……。




