表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冒険録~神器のアルケミスト~  作者: 成瀬りん
第6章 遡流の旅路
319/911

319.フィノールの街①

 テレーゼさんの『荷物』に入っていた服を着てみると、驚くほどにサイズがぴったりだった。

 エミリアさんも同様で、身体のラインが綺麗に出ている。


 そういえば大きな包みを渡される前に、テレーゼさんはバーバラさんと一緒にいたんだっけ。

 バーバラさんはその前の晩、急ぎの仕事があったと聞いていたけど――もしかして、この服の作成か調整をやってくれていた?

 私とエミリアさんのサイズは知っているはずだから、そう考えるのが一番しっくりくるかもしれない。


 ちなみに私の服は、魔法使いっぽい服だった。

 いつもと同じ感じのスカートながら、全体的に黒色を配したカラーリングで、印象をぐっと変えることができている。


 エミリアさんの服は、特定の信仰に属さない感じの、何となく聖職者っぽい服だった。

 ルーンセラフィス教とはまた印象が違うから、その情報をもとに探す人がいれば、誤魔化すことができるだろう。


 ルークの服は、いわゆる普通の冒険者っぽい服だった。

 特に個性も無く、特徴も無く……。いや、覚えられないためにはむしろそれくらいがちょうど良いのかもしれない。



 ルークの着替えはエミリアさんに任せて、私は他の準備に掛かることにした。

 この場所から北東に街があるとはいえ、それがどれくらいの距離かはルークから聞いてはいない。


 そんな状態で、これから私とエミリアさんの二人でルークを街まで運ばなければいけないのだ。

 馬車が使えれば良いのだけど、肝心の馬がいないのだから、ここはルークを左右から一緒に支えて歩いていく感じになるだろう。


 きっと体力を使うはずだ。私たちが倒れないためにも、まずはしっかり食事はとっておかないといけない。



「アイナさーん」


「あ、はい? ルーク、準備できました?」


「終わりました!

 ……ところで、念には念を入れて……私とアイナさん、髪型も変えた方が良いと思いません?」


 なるほど。

 確かにそれは、髪の長い私たちならではだ。


「とっても良いと思います!

 ……そうだ。以前作った髪染めスプレーも、まだ残ってるんですよ。それも使っておきます?」


「おお、良いですね!

 ……念には念を、入れ過ぎることなんてないですから……!」


「それじゃ、私も使うことにしますね。

 準備をして、朝食をとったらすぐ出ることにしましょう」


「はい!!」


 まだまだ先は大変そうだけど、しかし希望が見えてきた。

 私とエミリアさんの会話にも、少しくらいは明るさが戻ってきたのではないだろうか。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 準備を終え、朝食をとり、洞窟から撤収する。

 私とエミリアさんはルークを支えながら懸命に歩き続けた。


 その後ろからはリリーがしっかりと付いてきている。

 いざというときのためにリリーが隠れる袋も常備しているが、今は少しでも身体に掛かる重さを減らしておきたい。

 そのためリリーには申し訳ないが、今は歩いてもらっている。……いや、足は無いか。


 ルークの状態は相変わらず悪かった。

 最初のときから悪化はしていないようだが、しかしいつどうなるかは分からない。


 神剣アゼルラディアはルークの身体に下げてもらい、エミリアさんに魔法を唱えてもらいながらゆっくりと進んでいく。

 私は私で、ルークの体重を支えるのに懸命だ。


 何せ、案外重い……。



「――ルークって、さりげに筋肉が凄いんですよね……」


「そうですね。着替えのときに見ちゃいましたけど、筋肉隆々でしたよ!

 ……着やせするタイプなんでしょうか?」


 私の言葉に、エミリアさんが悪戯っぽく言った。


「見るからにムキムキになったら、それはそれでイメージが違いますね……」


「あはは、確かに……!」


 本人のすぐ近くでこんな話をするのも気が引けるが、さっさと起きて文句の一言でも言ってもらいたいところだ。

 ……怒られても良いから、本当に。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――おぉい!!」


 森から抜けて、ようやく開けた場所を歩いていると、不意に後ろから声を掛けられた。

 私たちはびくっとしながら、その声の方を振り向く。


 視線の先では1台の馬車がゆっくり走りながら、御者台に座った中年の男性がこちらを心配そうな顔で見ている。

 馬車……、いつの間に。


「えっと……何でしょう……?」


「いやいや、何でしょうじゃなくて……!

 その兄ちゃん、どうしたんだ? 怪我でもしているのか!?」


 中年の男性は馬車から降りて、私たちの元に駆け寄ってきた。

 果たして敵か味方か――


 ……いや、そんなことを疑っている場合では無い。

 ひとまずは嘘を混ぜながら、助力を求めることにしよう。



「あの、洞窟で不思議な宝箱を見つけまして……。

 開けてみたら、呪いの罠が掛けられていたようで――」


「へぇ、こんな場所にそんな宝箱が……?

 それにしても大変だったな! これからどこに行くんだ? 俺が連れて行ってやるよ!!」


 ――ッ!!

 こちらから助けを求める前に、まさか申し出てくれるとは……!!


 そうだ、確かに人間には汚いところ、自分勝手なところ、醜いところはあるけれど、こんな優しさも持っているものなのだ。

 ……何だか凄く、こんな気持ちに久し振りに触れた気がする――


「あっ、ありがとうございます……っ。

 あの、この北東に街があるって聞いたんですけど……っ」


 私は涙を溢れさせながら、何とか言葉を絞り出す。

 エミリアさんもそんな私を見て、目を潤ませているようだった。


「ああ、ああ。大変だったな。

 よし、ここから北東っていうと――フィノールの街だな!

 狭いところだが、俺の馬車に乗ってくれ!!」


「はい……! ありがとうございますっ!!」


「ありがとうございます!!」


 私とエミリアさんは一緒になってお礼を言って、何回も深く頭を下げた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 馬車に乗せてもらって1時間もすると、徐々に人が増え始め、そして街が見えてきた。

 ミラエルツやメルタテオスよりはよっぽど小さい街ではあるものの、賑やかな雰囲気をしっかりと見せている。


「ようこそ、フィノールの街へ。身分証の提示をお願いします」


 馬車が街門まで辿り着くと、そこの兵士が声を掛けてきた。

 中年の男性が何のカードを出したあと、私たちはテレーゼさんにもらった冒険者カードを3枚提示してみる。


「これで、良いですか?」


「はい、結構です。

 ……あの、そちらの男性は……どうされましたか?」


 兵士の視線はルークに注がれる。

 それはそうだ、一言も発せずに、苦しそうにしているのだから。


「旅先で呪いに掛かりまして……。解呪をしてもらえる場所を探しているのですが……」


「おお、そうでしたか……!

 そうですね、今なら高名な僧侶様が施療院に滞在されているとのことです。

 そちらに行ってみてはいかがでしょう」


「えぇっと……」


 私は判断できず、エミリアさんの方をちらっと見た。

 どこの誰が、この呪いを解くことができるのか、私には分からないのだ。


「大丈夫だと思います! 場所を教えて頂けますか?」


「はい、直ちに!」


 兵士は街の地図を持ってきて、場所を指し示してくれた。

 馬車を走らせてくれた中年の男性がすぐに場所を把握してくれたようで――


「よし、その場所なら俺が知ってるぞ!

 兵士の兄ちゃん、もう行って良いかな? こっちの兄ちゃん、凄い辛そうだからよ!」


「もちろんです、どうぞお通り下さい!

 無事に治ることを祈ってます!」


「ありがとうございますっ!!」


 私がお礼を言うと、馬車はすぐに街中へと走っていった。



 ――テレーゼさんのおかげで、あっさりと街の中に入ることができた。

 いつかまた会ったら、このお礼はしないといけない。テレーゼさんが困るくらいのお礼をしなければ。


 ……しかし、今はルークだ。

 早く施療院に行って、呪いを何とかしてもらわないと……!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ